小笠原道大14年ぶり日ハム復帰「魅せる野球はいらない」
ファンも驚くきつい練習、秋季キャンプに密着

「若い選手たちと1週間過ごして感じたが、彼らはまず1年間戦える体力がない。スキルも低い。底辺の部分で〝数〟をこなさないといけない。身体に覚えこませるには、多少のオーバーワークも必要。他にもメニューはたくさんあるけれど、最低限これはやってもらわないと先には進めないよ、ということです」
小笠原道大(みちひろ)(46)は、練習後、穏やかな表情で、こう語った。14年ぶりにヘッドコーチ兼打撃コーチとして北海道日本ハムファイターズに復帰した小笠原に率いられ、沖縄県国頭村(くにがみそん)で行われている日ハムの秋季キャンプは、痛いほどの緊張感に包まれている。例えば打撃練習。西川遥輝(はるき)、横尾俊建(としたけ)、万波中正(まんなみちゅうせい)ら5人が横一列に並び10球ワンセットで高速トスバッティングを繰り返す。
「ほら、もっともっと速く。どうしたの?へたばったの?」
長尺バットを肩に担いだ小笠原は、笑顔を浮かべながら選手の間を回り、時に身体の動かし方を指導する。高速トス、片手打ち、内角高め打ち、腰を落としての外角低め打ち、軸足での片足打ち、ステップを踏んでのバッティング……延々と繰り返されるうち、選手たちの腕がけいれんし、汗が滝のように流れ出る。
「終わんねぇじゃん!」
ふらふらになった西川から、苦痛の悲鳴が上がった。小笠原は言う。
「今、選手にやらせていることは、全部、僕が自分でやってきたこと。だから、なぜこの動きが大切なのかすべて説明できます。疲れた中でこのメニューをやれば、余分な力が抜けて無駄のない動きが自分の身体から出てくる。そういう動きに気づいてもらうことも必要です。
2月のキャンプが始まる時、秋季キャンプを始める前の身体に戻っているようだったら一軍のキャンプには入れません。オフの間に、自分なりにここでやったことを消化してきた選手は、上でできる可能性が確実に増えるでしょう」
毎朝、小笠原が球場に入るのは、選手やスタッフの誰よりも早い。
現役時代に日ハム、巨人、中日を渡り歩いたレジェンドは、中日でユニフォームを脱ぐとそのまま二軍監督になった。
「チームって一年一年違うんですよね。選手の状態も年ごとに違うし、コーチも替わる。だから計算通りにはいかない。ひとまとめにして『これをやってろ』と言ってもうまくいきません。一人一人の選手の背中をちゃんと押してあげるイメージです。そういう意味では現役時代より発する言葉は増えているのかもしれない。
今回、ヘッドコーチとして呼ばれて気をつけていることは、全ての指導者が同じ方向を向いていること。あるコーチが言っていることと別のコーチが言っていることが違うと、選手が迷う。これが一番いけないことだと思っています」
キャンプでハードワークを課す小笠原の姿に、栗山英樹監督は口を挟まない。球団と監督からは「自分が思うことを思い切りやってくれ」と言われたという。
「僕は〝魅せる野球〟はいらないと思っています。野球は泥臭くやらなくちゃいけない。綺麗事では勝てません。何をしてでも意地でも勝つんだという思いがあって、身体は動いてくる。その姿をファンの方たちが見て、共感してくれることが大切なんです。シーズン中は、勝つこともあれば負けることもある。それでも執念のこもったプレーを見てもらえれば、ファンは負けても明日また応援しようと思ってくれるはずです」
現役時代、誰よりバットを振った男は、勝つために何をすべきか知っている。









『FRIDAY』2019年11月29日号より
撮影:黒田史夫