来年には欧州挑戦へ 松島幸太朗が考えた「ONE TEAM」の形 | FRIDAYデジタル

来年には欧州挑戦へ 松島幸太朗が考えた「ONE TEAM」の形

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W杯では5トライを記録。南アでのラグビー経験もあり、スーパーラグビーにも参戦していることから、次は欧州へのチャレンジを希望している
W杯では5トライを記録。南アでのラグビー経験もあり、スーパーラグビーにも参戦していることから、次は欧州へのチャレンジを希望している

ラグビー日本代表の松島幸太朗は、26歳にして自身2度目の出場となったワールドカップの日本大会で5トライをマーク。欧州6強のアイルランド代表、スコットランド代表など強豪揃いの予選プールAで全勝を成し遂げ、チーム史上初となる8強入りを喜んだ。

「ワールドカップで急に成長する、あるいは、逆にそうじゃないチームや選手って、分かれると思う。そんな中、今回のジャパンは、全員がうまく勢いに乗れたのが、でかかったですね。いままできつい練習をやって来たし、(大会中に)それが報われたという気持ちが大きくなっていったと思います。先を見過ぎずにやるという目標があったから、プール戦も1つ、1つ、大事にできました」

共同取材に応じたのは11月8日。所属先であるサントリーが都内に持つクラブハウスで、日本ラグビー界の景色を変えた日々を落ち着いて振り返った。

ここでの「きつい練習」とは、6月からの宮崎、北海道での選手選考を兼ねた長期合宿のことだ。走り込みと実戦練習が交互に組まれるなか、複数の選手が「人生で一番きつい」と吐露していた。

その鍛錬が報われたのは、9月28日のアイルランド代表戦だろう。

日本代表はW杯開幕前に世界ランク1位だった強豪を、ボールキープ重視の戦法と鋭いタックルによって19-12で破った。開催されたエコパスタジアムの場所にちなみ、「静岡の歓喜」という見出しが躍った。

当日、背番号14をつけた松島は、身体接触時の手応え、味方同士の密な連携を思い浮かべたのだろう。このように続けた。

「(チームが)本当により強い絆になったのはアイルランド代表に勝ってからかな。(試合中は)アイルランド代表はあまり調子がよくなさそうだったので、皆の感覚が『あ、これは行ける』で一致したところがあったと思います。(30-10で制した東京スタジアムでの開幕戦の)ロシア代表戦に比べても、数段、周りの選手同士でのコミュニケーションは多かった」

反省も忘れない。もっとも悔やんだのは、10月20日の東京スタジアムでの準々決勝。結果3度目の優勝を果たす南アフリカ代表に3―26で敗れた。

「あと少し…というところで(接点からの)球出しが遅れたり、ターンオーバーされたり。セットプレーからのアタックでは、『(サインが)バレてんな』という感じはした。そういうところの壁は、厚いと感じました」

彼我の「経験」の差についてこう述べた松島は次のように続ける。「僕たちみたいなチームは、自分たちの力をフルに発揮しないといけない」。緊張感に慣れながら体格に優れる上位国を倒すには、「ベスト8以上(の舞台で)は緊迫した場面が続くと思うので、選手ひとりひとりの思い切りのよさが大事なんじゃないか」とのことだ。

具体的には、戦前に立てたプランにこだわらず臨機応変に戦いたい、ということだろう。

その後、話題は予選プール第3戦へ。10月5日に愛知・豊田スタジアムでのサモア代表とのゲームでは、アイルランド代表戦時と違ってキックを多用。規律が乱れがちな相手を背走させ、心身を疲れさせるためだ。

スクラムハーフの流大が振り返る。

「アイルランド代表戦でボールを持っていた時に使ったエネルギーを、ボールを持っていない時に使おう、そうすれば最後はボーナスポイント(4トライ奪取で得られる予選プール内での勝ち点)を取って勝っているはずだと。試合中の上手くいっていない時間帯に、誰かから『アタックした方がいい』という(意見)があったけど、拒否しました。(事前に)提示されたプランを遂行するのがリーダーの役割だと思います」

一方、流と同じリーダー陣の1人だった松島は、当時の心境を聞かれてこう明かしている。

「(実際は)自由に攻められた。攻め手がなくなった時にしっかりセットして蹴っていけばよくて、まずはアタックファーストでもよかったんじゃないかな」

結局は攻防の起点に入る流の主張を「一番、最初にボールを持つ人なので。(流が)キックを蹴ったら(弾道を追えるように)反応しないといけない」と尊重したし、ノーサイド直前には自らがチーム4トライ目を決め、38―19で白星を挙げた。

そもそも流がゲームプランの遵守に傾いたのには理由がある。次のコメントにその真意が見える。

「大会前の南アフリカ代表戦(7-41で敗戦)では点差の開いていない時間帯に何度かプランから外れたことをして、チームの流れを変えてしまった」

松島は日本大会でのアタックについての議論を蒸し返すつもりはない。ただ、未来を語る際は、より即興性を求めたいとした。

「グラウンドレベルと外とでは、感覚が違う。コーチ陣の意見を聞きつつも、自分たちが実際に戦った感覚というのを大事にしていきながら、どんどん(プレースタイルを)変える思い切りの良さが大事なんじゃないかと思います」

日本ラグビー協会は18日、日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチとの契約延長を発表。ジョセフの参謀役であるトニー・ブラウンアタックコーチも、来季からニュージーランドのハイランダーズでコーチをするとしながらもジョセフとの共同作業へ意欲を示しているようだ。藤井雄一郎強化委員長も「ジェイミーが望むのなら」を前提とし、各コーチングスタッフの慰留を目指す。

ジョセフ体制の継続は、『ONE TEAM』の一員と認められた面々が家族的な関係性のもと献身することを意味する。今後の日本代表を前進させるには、この『ONE TEAM』の勝手を知る者の存在は不可欠だ。松島もその1人である。

国内トップリーグが閉幕した後は、「厳しい環境に自分自身を置きたい」とヨーロッパでのプレー機会を求めている。南半球主体のスーパーラグビーは昨年までに経験済みとあって、未知なる北半球で刺激を受けたいのだ。目下、持ち味を発揮しやすいチームを探索中だ。

「自分に合ったチームがあるのであれば、チャレンジはしてみたい。キックじゃなくて、パスも多いチーム。サントリーみたいなチームがいいと思います」

外から刺激を受けることで、既存の『ONE TEAM』の枠組みを広げられるか。極東のエースは歩みを止めない。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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