1年生レギュラーで監督の息子 早稲田大ラグビー部相良昌彦の挑戦 | FRIDAYデジタル

1年生レギュラーで監督の息子 早稲田大ラグビー部相良昌彦の挑戦

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早稲田実業高校出身の相良昌彦。1年生ながら、フランカーとしてレギュラー出場している(撮影:井田新輔)
早稲田実業高校出身の相良昌彦。1年生ながら、フランカーとしてレギュラー出場している(撮影:井田新輔)

「2世」という肩書が甘く映らないのは、父と息子の意識ゆえだ。

2019年11月23日、雨に降られる東京の秩父宮ラグビー場。早稲田大学(早大)1年の相良昌彦が、赤と黒の背番号6をつけて慶應義塾大学(慶大)との早慶戦に出た。この日の公式観客数は「16393人」と、学生の試合においては大入りだった。

「前半に2~3度、余っているチャンス(大外でノーマーク)で(パスを)呼んだんですがボールが来なくて。声が(味方に)届いていなかったんです。早慶戦の集客力、ファンの多さに苦しめられましたね」

17―10という僅差での勝利を独特な視点で振り返る新人は、就任2年目の相良南海夫監督の次男でもある。前年度のレギュラーらとの争いに勝って先発フランカーとなったが、そうなるのは簡単ではなかった。

「俺、監督になるから」

次男の昌彦が父の南海夫にこう驚かされたのは、2018年の2月頃だった。当時創部100周年を控えていた古豪は、過去2シーズン務めた山下大悟前監督を解任。突如、前任者より9学年上の相良に白羽の矢が立ったのだ。

小学校2年からラグビーをしてきた昌彦はこの頃、早稲田実業高校ラグビー部の2年生部員。卒業後も内部進学して楕円球を追うつもりだった。

3年時は高校日本代表の1次候補に名を連ねたり、チームの主将として全国高校ラグビー大会に出たりしたが、予定通りに大学へ行けば己の立場を思い知らされる。

入学前の2019年3月。実家を離れて入ったのは、田無にある一般学生向けの寮だった。

ラグビー部の1、2軍の選手が集まるのは、上井草グラウンド近くの「早稲田大学ラグビー蹴球部寮」。そもそも正式入部前から上井草に住む内部進学者は稀だが、2017年入部の丸尾崇真、相良と同期で元17歳以下日本代表主将の小泉怜史ら一部の実力者はその関門をパスした。相良がそこへ加わる可能性もあったが、父であり監督は、息子であり新入部員へ「実力で、上がってこい」と告げたのである。

「彼も色眼鏡で見られることもあるし、付属(の高校)から入ってきていきなり(上井草の寮に住む)というのは…。コーチや仲間に寮に入る器だと思われてから入らないと、彼のためにもならない」

近親者が指揮官を務めるチームでは、人の倍以上の努力をしなくてはならない。3軍格のCチームからスタートした相良は、その現実と真正面から向き合った。

対抗戦6戦で先発出場の相良昌彦選手
対抗戦6戦で先発出場の相良昌彦選手

もともと細かいフットワークなどの攻撃力を長所とするも、大学で意識したのは「トツ」。献身的だった卒業生のニックネームにちなんだ部内の造語で、タックルした後に素早く起き上がって防御ラインへ加わる意識を指す。防御力強化を主眼に置く相良体制にあって、相良は下働きで存在価値を高めていった。

本人談によれば、1週間ほどで「Bチームのスタート」に昇格。春シーズン終了後には上井草に引っ越した。「(上井草では)朝起きたらすぐに(至近距離の位置にあるトレーニング場で)ウェイトができる。環境が恵まれている」と、前向きに「Aチーム」入りへ迫る。

菅平高原での夏合宿でも運動量をアピールし、8月31日開幕の関東大学対抗戦A(対抗戦)では開幕から11月10日の帝京大学戦まで5戦連続で先発。入学前は父よりも高校時代の大谷寛ヘッドコーチのほうが相良を評価していたが、いまでは父が指揮官として背番号6を認めている。

「ディフェンスも頑張っていて、まぁ、よくできていたかなと。夏合宿以降、上(Aチーム)で使ってみてある程度できることもわかったし、経験を積むなかでどんどんよくなっている」

早慶戦前は、早大の新人が上井草グラウンド敷地内の落ち葉を拾うのが習わし。ただし相良ら主力メンバーは「風邪をひかないように」と火曜日以降は免除された。当日に向けては、ベンチ外メンバーからの寄せ書きも受け取った。つかみ取った立場に責任も感じさせられる。

「1年生で先発しているのはいま、僕だけ。代表して戦うという意味で、皆の分までいい準備をして最高のパフォーマンスができるようにフィジカル、メンタルを整えています」

そう。このクラシコは、戦前の両軍の成績とは無関係に大一番と目されるのだ。

対抗戦ではこの日まで早大が開幕5連勝中で、慶大は2勝3敗。下馬評で有利だった早大はしかし、晴れの特異日にしては珍しい雨風に苦しむ。スクラムハーフの齋藤直人主将やスタンドオフの岸岡智樹のキックは大きく流され、蹴った地点の近くで相手ボールを与える「ダイレクトタッチ」というミスに変わる。

さらに場内の大歓声は、選手だけでなくレフリーの平常心も奪ったか。肉弾戦での判定が下るたび、齋藤は何度も理由説明を求める。

そんななかでも渋く光ったのが、公式で身長180センチ、体重92キロの相良だった。

防御時の接点で相手ボールに絡んだり、攻防の境界線を大きくまたいで相手のアタックを鈍らせたり。「何度かタックルを外された」と反省も忘れなかったが、後半34分に退くまでハードワーク。監督の相良が目指してきた守り勝つ試合運びを、その「実力」で支えた。

「ボールへの絡みの感覚は、悪くはなかったと思います。自分にとって、いい勉強になる試合だったと思います」

これで6連勝。12月1日には秩父宮で明治大学との早明戦をおこない、以後に参戦する大学選手権では2008年度以来16度目の大学日本一を目指す。特別扱いされずに特別なポジションを任されるようになった相良は、早明戦こそ不出場も最後まで突っ走るだろう。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

  • 写真井田新輔

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