ストーカーが母親を殺害 娘を連れ去り千葉から沖縄へ逃走一部始終

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第34回

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母親を殺害しかつて交際していた娘を連れ去るという事件が起きたのは2009年。千葉から娘を連れて逃走した犯人は、逃走経路の偽装を行いながら沖縄にむかい、現地で生活を始めようとしていた。ノンフィクションライターの小野一光氏が現地沖縄で取材を敢行。事件の真相に迫った。

那覇市内で身柄を確保され千葉北署に移送される仲田

千葉県千葉市にある団地で、女性(死亡時61)を牛刀で切りつけて殺害。被害者の娘である元交際相手のA子さん(当時22)を車で連れ去る、という事件が起きたのは2009年7月18日のこと。

この事件で千葉県警は20日になって、職業不詳の仲田敬行(当時28)を殺人と逮捕監禁容疑で指名手配した。その段階でわかっていたのは、A子さんを乗せた仲田の車が18日正午頃に、東北自動車道の佐野藤岡IC(栃木県)から一般道に出たということ。

殺人事件の発生を受けての現地取材では、犯行時の現場の様子や、仲田とA子さんとの出会いについての情報を得ることができた。

事件を目撃した同じ団地の住人は言う。

「朝方、最初に『ワーッ』とか『ギャーッ』という、尋常ではない大きな声が聞こえたんです。それは年配の女性の声で、続いて『助けてー、助けてー』という叫び声。それから『だれか110番をお願い』という声が聞こえました。ただ、その後、数分間は静かになりました。そうしたら、今度は声がした方向の階段を男と、その男に肩か腰に手をまわされた女の人が降りてきたんです。そして地上に出ると、すごい勢いで走っていきました。男は痩せ型で背が高く黒っぽい服装。派手な感じじゃなく、髪の毛も黒かったです。女の人は男に有無も言わさぬ感じで連れて行かれていて、明るい色のTシャツに短パン姿だった気がします。女の人の背は男の肩くらいで、ふたりはあっという間に姿を消しました」

仲田とA子さんは、同年1月に出会い系サイトを通じて知り合っていた。当初は仲睦まじくする姿が周辺で目撃されており、6月頃までは神奈川県内で同棲していたことも確認されている。だが、仲田の暴力などが原因で同棲を解消したところ、彼によるストーカー行為が始まったのだった。

A子さんに対してメールや電話で脅しを続けていた仲田だが、7月4日には彼女を自宅から連れ出し、山梨、静岡、愛知を車で連れ回すという、今回の事件の予兆のような事案も起こしていた。この一件では10日になってA子さんが愛知県内のコンビニで助けを求め、愛知県警に保護された。翌11日に千葉市の自宅に戻ったA子さんに対し、千葉県警はGPS端末と緊急通報装置を渡し、被害届を出すように勧めたが、彼女はためらったという。また自宅から離れて過ごすようにも助言していたが、A子さんは自宅にいて今回の被害に遭っていた。

同事件が驚きの展開を迎えたのは、発生から5日後の7月23日のことだ。A子さんと一緒にいる仲田が、栃木から約1700㎞離れた沖縄県那覇市で逮捕されたのである。

ふたりは佐野藤岡ICを出てから、途中で車を乗り捨てて東京を目指していた。そして羽田から那覇へと飛行機を利用して移動。そこから那覇市街に向かう際は、一旦別行動をしてから合流するという、”監禁”とは思えない不可思議な行動を取っていた。この件について、逮捕監禁罪での追起訴後に千葉県警担当記者は次のように説明している。

「結果的に仲田は殺人と銃刀法違反、逮捕監禁の罪で起訴されました。当初、逮捕監禁罪については、連れ去りの途中でふたりが別行動を取るなどしており、一旦は処分保留となっています。しかし、千葉市から栃木県佐野市に向かう車中で仲田がA子さんの両手に手錠をかけるなどしていたため、その期間が逮捕監禁罪に問えるとして追起訴されたのです。A子さんの心理状態については、母親が目の前で殺された恐怖と、逃げたら自分もなにをされるかわからないという恐怖で、犯罪被害者が加害者に依存心を抱く『ストックホルム症候群』だったと推定されています」

仲田の逮捕を受け、私は彼らの足跡を追うために沖縄へと向かった。そこでまず会ったのが、仲田を那覇空港から国際通りまで乗せたタクシー運転手だ。彼は語る。

「19日の午後4時10分過ぎに乗せましたが、男(仲田)ひとりでした。白い半そでシャツにカーキ色のズボンをはき、黒い帽子を被っていました。後日、刑事さんから、彼が空港を出るときの写真を見せられましたが、すぐに同じ人物とわかりました」

その後、合流した仲田とA子さんは那覇市内のラブホテルに宿泊。20日の午前9時半過ぎ、ホテル近くの路上でタクシーを拾った。仲田はこのタクシーを20日の夕方までと、23日の逮捕時までの計2日間利用している。私はこの車の運転手であるXさんに話を聞き、実際に彼らが移動したルートを辿ってもらった。Xさんは言う。

「車にはまず女の人が、続いて男の人が乗り込みました。男の人が『海に行きたいけど、水着を持っていないので、水着を買いたい』と言うので、国際通りに向かいました。ふたりとも車内でほとんど喋らないので、無口なカップルだなと思っていました。そこでこちらで行き先を決めて伝え、違うと言われない限りは大丈夫と判断して運転していました」

千葉で女性を連れ去り、沖縄に逃亡した仲田敬行。クレジットカードで航空券を買ったことから捜査員は沖縄をマーク

彼らが立ち寄った水着販売店の店長は、その日のことを振り返る。

「女性が試着している間、男性から『お薦めの観光地はありますか?』と私に話しかけてきたんですね。そこで美ら海水族館を薦めると、『前に行ったことある』と言ってました。女性が買ったのはセール品のビキニで8000円くらいのもの。女性が勘違いをしてビキニの上だけを買おうとして、男性から『ねえ、下はいらないの?』と尋ねられ、『いるいる。わかんなかったぁ』と笑って答えています。ふつうに恋人同士だと思っていました」

続いてふたりは2つのビーチを回ったあとで、豊見城市にある瀬長島へと向かう。そこで水着のままタコライスと沖縄そばの食事を摂り、2時間近く泳いでいる。Xさんは話す。

「女の人は浮き輪に入り、男の人は首まで海に浸かった状態で、ずっと海から上がってきませんでした。やっと車に戻って来たときに、女の人が嬉しそうな顔で『水がお湯みたいに温かかった』と言い、それで初めて彼女の声を聞きました」

翌21日になると、ふたりは那覇市内の不動産業者を訪ね、市内の賃貸物件を見て回っている。そこで仲田は家賃3万2000円のワンルームマンションを気に入ったようで、A子さんに偽名で申込書を書かせている。

この不動産契約に必要だったことから、仲田の姉名義で携帯電話を購入するため、ふたりは22日と23日の両日、那覇市内の携帯電話会社に来店。捜査員が23日の午後4時過ぎ、携帯電話会社の前で仲田の身柄を確保したのだった。前出の記者は説明する。

「逮捕のきっかけはクレジットカードです。じつは仲田は沖縄に向かう航空券をクレジットカードで購入しており、捜査員は沖縄をマークしていたのです。そして那覇市内で仲田を発見し、逮捕に至りました。逮捕後の仲田は『おばさん(A子さんの母親)が自分を陥れるために自作自演で死んだ』などと殺人を否認する供述を続けています」

裁判員裁判ではA子さんの母親への殺意と、A子さんへの逮捕監禁の意図はなかったと主張していた仲田に対し、千葉地裁は10年8月に懲役23年(求刑無期懲役)の判決を下している。

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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