飼い殺しを防ぐために!プロ野球に「現役ドラフト制度」の導入を

MLBで実施されているルール5ドラフトに倣った「現役選手のドラフト」が、日本でも導入されそうだ。どんな制度なのか、詳しく解説する。

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楽天に加入して大活躍を見せたジャバリ・ブラッシュ。彼も「ルール5ドラフト」(現役選手のドラフト)で見出された

日本プロ野球選手会は、他球団の現役選手を指名して移籍させる「現役ドラフト制度」の導入へ向けてNPB側と交渉していたが、来季、または2年後にも導入されそうだ。

野球というゲームは9人で行う。しかしプロ野球選手の定員は1チーム70人だから、常に出場できない選手がいる。中にはレギュラーと遜色のない実力を持ちながら、控えに甘んじる選手も出てくる。「現役ドラフト制度」は、そういう選手を他球団が指名して獲得し、チャンスを与えようという制度だ。

これはMLBの「ルール5ドラフト」を参考にしたものだ。

アメリカでは新人を獲得する「ドラフト」を「アマチュアドラフト」あるいは「ルール4ドラフト」と呼ぶ。現役マイナー選手を指名、獲得する「ルール5ドラフト」と区別するためだ。「ルール5ドラフト」は「アマチュアドラフト」よりも歴史が古い。

現行の「ルール5ドラフト」は、毎年12月のMLBウインターミーティングの最終日に行われる。メジャーリーガーとは、一般的に「40人枠」に入った選手を言うが、他球団の「40人枠」を外れた選手、つまりマイナーリーガーを指名して獲得するのが「ルール5ドラフト」だ。

このドラフトに参加できるのは、「40人枠」に余裕がある球団だけだ。そのため「ルール5ドラフト」が近づくと「40人枠」を空けるためにマイナーに落とされたり放出される選手が出てくる。
指名できるのは18歳以下で入団した場合は在籍5年以上、19歳以上は在籍4年以上の選手。選手を獲得した球団は、元いた球団に10万ドルを支払う。
球団は「ルール5ドラフト」で獲得した選手は、翌年は必ず「40人枠」に入れなければならない。また十分に起用できなかった場合は元いた球団に戻すルールもある。

「ルール5ドラフト」によって活躍の場を見出した選手は枚挙にいとまがない。
多いのは、アマチュアドラフトの中位、下位で指名されて目立たないまま入団し、じわじわと実力をつけたようなタイプの選手だ。
ドラフト上位の有望株は、注目度が高く、活躍すればすぐに抜擢されるが、下位指名の選手は好成績を挙げても上層部の目に止まらないことがあるのだ。

実は、日本にやってくる外国人選手の中には「ルール5ドラフト」で「再発見」された選手が多い。

今季、楽天でチーム最多の95打点を挙げ、楽天の3位進出に大いに貢献した新外国人、ジャバリ・ブラッシュは2010年ドラフト8巡目(全体252位)でマリナーズに入団。マイナーでは長距離打者として知られたがなかなか昇格できず。2015年12月の「ルール5ドラフト」で、アスレチックスに移籍。アスレチックスはブラッシュをその日のうちにパドレスにトレードに出した。トレードされても「ルール5ドラフト」の権利は生きるから、ブラッシュは初めて「40人枠」に入り、翌年パドレスからメジャーデビューを果たしている。

今や、NPBに来る外国人選手のほとんどは、レギュラーになれなくても一度はMLBでプレーした経験がある。そのクラスまで行かないと、NPB球団の食指が動かない。
マイナーに埋もれていたブラッシュも「ルール5ドラフト」で掘り出されたことが、NPBでの活躍につながったと言えよう。
MLBのマイナーリーグの裾野は広大だ。7つの階級、18のリーグ、160チーム、選手数は4000人にもなる。この中から「ルール5ドラフト」で獲得する選手を見つけるために、各球団では専門のスカウトが全米のマイナーリーガーをチェックしているのだ。

確かにNPBでも「ルール5ドラフト」的なものができれば良いとは思う。

昔から日本にも「二軍の大選手」というべき選手がたくさんいた。
古くは近鉄、阪神の中村良二。二軍では110本塁打を打ったが、一軍では1本の本塁打も打てなかった。ちなみに中村は現在、母校・天理高校の監督を務めている。天理は今秋の近畿大会で優勝しており、来春のセンバツ出場が確実視されている。
最近では、現広島打撃コーチの迎祐一郎。オリックス時代の2007年にウエスタン・リーグの三冠王に輝いたが一軍では通算10本塁打に終わった。

こうした選手は、活躍場所さえ与えられれば一軍でも数字を残した可能性は大きかっただろう。

今年の12球団合同トライアウトには、ソフトバンクの塚田正義の姿があった。2011年ドラフト3位で入団。一軍では74試合97打数20安打7本塁打、打率.206という成績に終わったが、二軍では620試合に出場し2038打数576安打56本塁打286打点、打率.283。ウエスタン・リーグで本塁打王、首位打者、最多安打を獲得するなど「二軍屈指の強打者」だった。しかし層が厚いソフトバンクにあっては、一軍に定着することはできず、8年目にして戦力外通告を受けたのだ。

こうした埋もれた名選手が、「現役ドラフト制度」で活路を見いだせるならば、良いことではあろう。

しかし一方で、NPBの選手の中には「出場機会が少なくても、今いる球団に残りたい」という願望がある選手も多い。
NPB球団の「球団職員」の中には、元選手がたくさんいる。その多くは、一軍での実績に乏しい選手だ。それでも球団に居続けることで引退後に球団職員になる道が拓けるのだ。球団の側も試合に出なくても地道に努力する選手を評価して、引退後の道筋をつけてやることがあるのだ。
実力本位のプロ野球の世界だが、あたかも「終身雇用」のように、会社に忠誠心を示して球団に骨を埋めることを希望する選手もいるのだ。また日本では「移籍」をネガティブに受け止める選手が多い。
アメリカではまず考えられない風潮ではあろう。

日本プロ野球選手会としては「現役ドラフト制度」を強くプッシュしてきたが、NPB側は慎重な姿勢だった。ドラフト対象選手をどの範囲にするかを決めるのが難しいからだ。球団としては有望選手をできるだけプロテクトしたいのだ。
また指名されても「球団への忠誠心」から移籍を拒む選手が出てくる可能性もあるだろう。
このあたり「雇用の流動性」をめぐる日米の社会の違いを反映していると言える。

最終的に導入の方向でNPB側も折れたようだが、「現役ドラフト制度」は、選手に新たなチャンスを与える制度であり、ぜひ活用してほしいものだ。

 

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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