巨人退団・藤井秀悟 苦悩の日々を経て掴んだ「打撃投手の極意」

今季限りで巨人を退団した藤井秀悟の打撃投手論。打撃投手というのはただストライクを投げていればイイというモノではない。打者によって好みの違うコースや球種に投げ分け気持ち良く打ってもらわなければならないのだ

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愛媛県の今治西高から早大を経てプロ入りした藤井秀悟。SNSを駆使するプロ野球選手のさきがけで、現役時代からほぼ毎日ブログを更新している。『怪盗ロワイヤル』などゲームにもハマっていたとか

「打撃投手は、ただストライクを投げていればイイというものではありません。打者によって、好みのコースや球種はまったく違います。相手の調子にも注意を払いながら、気持ち良く打ってもらわなければならないんです。ビーンボールを投げようものなら目も当てられない。たった1球の危険球でイップスになり、辞めていく打撃投手を大勢見てきました」

今季限りで巨人を退団した、打撃投手の藤井秀悟(42)が話す。

藤井がプロ入りしたのは’00年。早稲田大からドラフト2位でヤクルトに入団すると、2年目の’01年に14勝をあげ最多勝のタイトルを獲得した。その後、日本ハム、巨人、DeNAと渡り歩き、プロ通算83勝をあげる活躍。戦力外通告を受けたのは’14年のことだ。

「まだやれる自信があったので、トライアウトを2回受けました。独立リーグや海外のチームからオファーを受けましたが断った。野球を続けるなら、最高峰のプロにこだわりたかったんです」

同時に、野球とは別の道も模索した。

「ボクは幼い頃からマンガが大好きだったので、編集者になろうとも考えたんです。『タッチ』や『キャプテン』などの、野球マンガばかりではありません。『はじめの一歩』や『スラムダンク』は全巻持っています。マンガ家さんと手がけた作品が映画化され、エンドロールに自分の名前が出るのが夢だったんです。出版社に勤める知人に調べてもらいましたが、中途採用の人数は非常に少ないということで諦めました」

そんな時に、巨人から声がかかる。藤井のコントロールの良さが評価され、打撃投手にならないかと誘われたのだ。

「打撃投手といえどもプロはプロ。喜んで受けました。ただ実際にやってみて、その難しさを痛感した。現役時代はどうやったら打たれないかを考えていましたが、逆に打撃投手はいかにして打ってもらうかを追及しなければなりません。打者によって特徴も違います。当時の巨人なら高橋由伸さんは高目をよく打ち、井端弘和さんは動くボールを嫌う……。最初のうちはそれぞれの好みを覚えるのに必死で、各打者の特徴をノートに書いていました」

ヤクルト時代の’03年に左ヒジ内側側副靭帯を手術。生々しいキズ痕は今も残る。打撃投手になっても常に腕のハリに悩まされ続けたが休むことはなかった

打者の多くは、打ち終わると「どうだった?」と意見を求めてくるという。

「亀井善行や阿部慎之助などは、よく聞いてきましたね。ボクは感じたことを正直に伝えていました。『肩が開き気味じゃないかな』『バットのヘッドが下がっているよ』と。打撃投手には、打者の分析能力も必要です。意見を求められ、的確なアドバイスができなければ信頼関係を気づけませんから」

野手にとって打撃練習は、首脳陣へのアピールの場。藤井は、打ってもらえないと責任を感じたという。

「気を遣うのは、不調の選手です。ド真ん中に投げても打てない。そんな時は『どんな球を投げればイイ?』と、本人に直接聞いていました。ミスも多く経験しています。今年春のキャンプでは、新人の山下航汰の手首にボールを当ててしまった……。ベンチでアイシングをしていたので、スグにジュースを買って謝りに行きました。『毎日買ってくるから許してくれ』と。無事に一軍に上がってくれてホッとしています。秋の宮崎キャンプでは、早大の後輩・重信慎之介に5球続けてボール球を投げてしまいました。天を仰ぎましたよ。打撃練習の時間は限られています。ボール球を投げるということは、その分打者の練習時間を削ることになるんです」

失敗はしても、常に「打ちやすい球を投げよう」と心掛けていた藤井。チームの信頼は厚かった。

「宮崎キャンプでは元木大介ヘッドコーチが、スコアラーや打撃投手など裏方を集め慰労会を開いてくれました。その時には退団が決まっていたんですが、温かい言葉をかけてもらった。『最後まで一所懸命投げてくれて本当に感謝している。新天地でも必ず活躍できるよ』と。『打ちやすい球をありがとうございます』『いなくなるのが寂しいです』と、丸佳浩や亀井などからも嬉しいメッセージをたくさんもらいました。打撃投手冥利につきますね……。苦しい時期もありましたが、続けていて本当に良かったと心から思っています」

巨人を退団した藤井は、広報兼打撃投手としてDeNAに移籍する予定だ。現役時代からプロ21年目となる来季も、「打者が気持ち良く打てるボール」を追及し続ける。

現役時代のストレートの平均球速は140km程度だったが、2種類のスライダーやカーブ、サークルチェンジなど多彩な変化球とコトロールの良さで打者を翻弄した
  • 撮影小松寛之

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