景観破壊に舞妓パパラッチ 実は観光に向かない街・京都からの悲鳴

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2008年に観光庁が設立され、2015年に45年ぶりにインバウンドがアウトバウンドを上回り、「観光する国」から「観光される国」になった日本。なかでも京都は、ここ数年は世界の人気観光都市ランキングでも第1位を獲得するなど、世界的なムーブメントを巻き起こしている。

「観光公害=オーバーツーリズムの“最前線”であり、最たる“被災地”であるのが京都です。年間5000万人以上の観光客が押し寄せ、暴増した外国人宿泊客によるトラブルが、地元の人々や古都の景観にダメージをもたらしています。

日本人である私たちも、京都=日本最大の観光都市と想像しがちですが、実は、京都は観光化と相性の悪い立地なんです」

こう語るのは、『パンクする京都』の著者であり、社会学者の中井治郎氏(42歳)だ。専門は「文化遺産の観光資源化と山伏について」で、誰も見向きもしなかった景色や建物に価値が発見され、観光名所に至るまでの一連の流れを研究している。また、京都を代表するオーバーツーリズムの研究者のひとりだ。

京都府 八坂の塔 写真:アフロ

今回は、舞妓トラブル、景観破壊など、古都を襲うオーバーツーリズムについて中井氏に聞いてみた。今、日本が目指すべき「持続可能な観光」の在り方が見えてくるかもしれない。

オーバーツーリズムが世界の課題へ

京都が観光化と相性の悪い街とは、一体どういうことだろうがーー。

それは、京都の街を実際に歩くと見えてくる。京都を訪れる観光客の目当ては自然の中の景観地ではなく、住宅地の一角にある寺社や史跡、町家や市場をはじめとする暮らしの場であり、街全体が観光名所なのだ。

だからこそ外国人観光客は、街のあちこちを大きなキャリーケースを引っ張りながら歩く。キャスターのガラガラ音も、荷物が連なって起きる大渋滞も、地元の人たちからすると “観光公害”だ。

「海外でオーバーツーリズムが議題に挙がるのも、街中に観光地が点在しているエリア。最近ですと、バルセロナやプラハなんかでも問題視されています。古都の人の暮らしや住まいが見世物となり、『観光』という形で消費されてしまうんですね。

京都もまさにそう。観光名所が街中に点在していますし、そもそも京都の人たちの暮らしそのものが観光資源になっていますから」(『パンクする京都』著者 社会学者・中井治郎氏 以下同)

地域の人々と観光客。その動線が重なれば重なるほど、バス、道路、商店など、あらゆる生活インフラの奪い合いが生じるのだ。

日本のリアルを求める観光客

「実は、僕自身がバックパッカーで世界中を旅しているので、外国人観光客の心理は痛いくらい分かるんです。観光客からすると、せっかく未開の地を旅するなら、よりディープなスポットへ足を踏み入れてみたいでしょう? しかし、ここでいうディープなスポットとはつまり、外国人観光客に対する受け入れ態勢が整っていないところなのです。

近年、京都を訪れる外国人の興味関心も、皮肉なことにいわゆる“観光名所”から、これまで観光対象にならなかったような“京都のリアルな姿”に変わりつつあります」

例えば、市民の台所である「錦市場」。元々は近所の奥さんが食材を買いに行く場所だったが、現在は“フォトジェニックなスポット”として観光化が進んでいる。しかし、外国人による恩恵を受けているのは、業態を観光客に向けてカスタマイズした店舗がほとんど。「日本人離れが進んで、前よりも売れなくなっている」とマイナスを実感している店舗も多いのが現状だ。

看板から読み解く、祇園のSOS

また、オーバーツーリズムと聞くと、つい観光客の「数」を問題視しがちだが、趣向や行動の変化に伴った「質」の問題も重要なことが分かる。その代表的なものが、不本意な観光化に晒されている花街・祇園だ。

観光地でよくあるのは、外国人観光客に来てほしいけどマナーも守ってほしいという話。しかし、祇園は少し事情が異なる。そもそも“外国人観光客に来てほしくない”のだ。

たしかに祇園は、海外の人からするとエキゾチックで魅惑的な景観かもしれないが、古風な街並みを再現した「おかげ横丁」や「太秦映画村」とはまったく性質が異なるわけだから。

「すべての店がそうではありませんが、祇園は格式の高さと紹介制によって安全とプライバシーが守られています。カフェや土産物屋など、観光客が気軽に入れるお店が増えることは、花街としての威厳が保たれなくなることに直結するわけです。

先日、祇園のお座敷に取材に行ったとき、女将さんからこんなことを言われました。『先生の後ろにある衝立は350年前のものです。右手にある床の間の壺も300年前のものです。こういう場所でお酒を供する商売だからこそ、付加価値分のお代金をいただいているんです』と。つまり、通りすがりの観光客はあくまでも“一見さん”で、祇園からすると客に成りえないのです」

そして10月末からスタートした「私道での撮影を禁止」というお触書の掲示。一見、地元の人々が「マナーを守って」と観光客に訴えているように見えるが、実際のところは「これをきっかけに観光客が来なくなればいい」との意図がある。

「観光客はSNSに投稿するために、祇園のジャパネスクな景観を撮りまくる。ということは、写真を撮れない場所にすれば、おのずと観光客が寄り付かなくなるだろうということで、地元自治組織で話し合った結果、“撮影禁止”という言い回しになったと聞きます」

恐ろしき舞妓パパラッチ

問題になっているのは、「一見さん」問題だけではない。外国人観光客による舞妓・芸妓への狼藉も花街の伝統を驚かしているのだ。近年、通りを行く芸子・舞妓の写真を撮るためにしつこくつきまとう迷惑行為は“舞妓パパラッチ”と呼ばれている。しかし、彼女たちへの迷惑行為はそれだけでは済まない。着物を破られた、着物に煙草を入れられたなど、刑事事件として被害届が出されたものもあるほどだ。

「日本人なら誰もが持っている、舞妓さんを見ると背筋がシャキッとする感覚。それは、舞妓さんが着ている着物が高価なもので、“汚したらまずい”と瞬間的に察知するからなんです。

そんな、“日本でもっとも敷居が高い”と揶揄される花街の伝統を、理解したうえで訪れている外国人は少ないでしょう。もしかすると、古風な街並みが再現された“テーマパーク”くらいの感覚かもしれません」

近年は「いかに観光客を呼び込むか」ではなく「いかに観光客を制御するか」が課題となりつつある。10月25日、ちょうど祇園の撮影禁止看板が設置された日、北海道で開催されていたG20の観光会議でも、オーバーツーリズムの対策について議論が交わされていた。日本だけでなく、世界各国の観光政策における主たる課題は、誘致や促進よりもむしろ、増えすぎた観光客をどうやって制御するかにシフトしているのだ。

誘致からメンテナンスの時代へ

最後に、おもしろい話を教えてもらった。オーバーツーリズムも環境問題と似ているのだ。

「観光地化とは、地域の資源を切り崩してお金に換えているということ。ですから我々はお金に換えるときに、観光資源が“有限”だという意識を持たなければなりません。文化を資源と考えてみてください。では文化をお金に換えたとき、私たちはどのようにメンテナンスしたらいいのでしょうか。それが森林資源の場合、木を伐採したら苗を植えて育てるという習慣があります。

観光もそれと一緒で、お金に換えたら終わりではなく、次世代に残せるようにメンテナンスしなければならないんです。祇園の“観光客を遠ざける対策”もメンテナンスのひとつだと考えてみてはいかがでしょうか」

 

中井治郎 1977年、大阪府生まれ。龍谷大学社会学部卒業、同大学院博士課程修了。現在は京都の三条通で暮らしながら非常勤講師として母校の龍谷大学などで教鞭を執っている。専攻は観光社会学。著者に『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』など

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  • 取材・文櫻井千佳

    日頃はファッション、ビューティー関係の広告を中心に記事を執筆する編集・ライター・プランナー。その実態は、朝から肉料理を完食するほか、百貨店の精肉売り場の全国ブランド牛をひと通り制覇するほどの“肉食女子”。焼肉の好きな部位はイチボ、ミスジ、ハネシタ。

Photo Gallary1

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