実話!『ジョン・デロリアン』あの名車を設計した男の暴走人生

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映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018

世界でもっとも有名な車の1つ、デロリアン。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)で一躍有名になったアイコンだが、その「生みの親」の壮絶な半生をご存じだろうか? 12月7日に日本公開される『ジョン・デロリアン』(19)は、気鋭のカーデザイナーだったジョン・デロリアンが転落していく姿を劇映画化した衝撃的な一作だ。

映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018

舞台は、1977年。ドラッグの運び屋だったパイロット、ジム・ホフマン(ジェイソン・サダイキス)はFBIに拘束され、逮捕を免れるために情報屋として活動し始める。その後、家族と新居に引っ越したジムは、近所の豪邸に住まうジョン・デロリアン(リー・ペイス)と知り合う。美しい妻に毎日パーティ三昧、絵に描いたようなセレブ暮らしを送るジョンに羨望のまなざしを送るジムだったが、崩壊の足音がひたひたと近づいていた……。

ジョン・デロリアンの栄光と挫折を描く本作は、名車ポンティアック・GTOを作り時代の寵児となった彼が独立し、DMC-12(デロリアン)を発表するも、欠陥が多く販売不振に陥り、ついには破産の危機に陥る姿をスリリングかつ、残酷に見つめていく。生産した8000台のうち3000台しか売れず、購入者からもクレームが相次ぎ、会社を立て直すために急遽3000万ドルが必要になったジョンは、ジムに相談を持ち掛け、麻薬取引に手を染めようと決意する……。

映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN)より。ジョン・デロリアンが開発した名車、ポンティアック・GTO © Driven Film Productions 2018

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の印象が劇的に変わる

多少の脚色はあるにせよ、この映画内で起こることは、全て実話。当時の金額で65万ドルと言われる年収を稼いでいた男が、ここまで落ちていくものなのか。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけを観ていると、スタイリッシュなガルウィングドアや男心をくすぐるメタリックで武骨な車体のデザインを誇るデロリアンは「さぞや売れたのだろう」と早合点してしまうのだが、事実は皮肉なことにそうではなかった。

第89回アカデミー賞(2017年)の授賞式に登場した映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』での”タイムマシン仕様”のデロリアン 写真:ロイター/アフロ

実際にデロリアンが生産された期間は、わずか3年半だったという。ジョンが犯罪者となってでも救おうとした会社は倒産し、結果的にはデロリアンがもたらしたのは凋落と破滅だった……。ジョン自身もペテン師呼ばわりされ、さらに麻薬取引に関与した疑惑が持ち上がった結果、築き上げた評判は地に堕ちてしまった。数年後『バック・トゥ・ザ・フューチャー』によってブレイクしても、時すでに遅し。その頃には、巷ではカルトカーと化していたそうだ。

イギリスでオークションにかけられる名車「デロリアン」(1982年)。 写真:Shutterstock/アフロ

今回、『ジョン・デロリアン』によって彼の劇的すぎる人生に触れ、ショックを受ける方も多いだろう。大げさではなく、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』自体の見方が180度変わりかねない可能性を秘めている。まさか、夢だらけの明るい映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のもう1人の主人公ともいえるデロリアンの“真実の顔”がこんな形をしていたとは。まさに、「事実は小説より奇なり」だ。

映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018

「勝者」に固執したデロリアンの本性を暴き出す

本作が暴き出すのは、ジョン・デロリアンの人生ばかりではない。カリスマ性の裏に垣間見える、狂気に近い本性も観る者を戦慄させる。例えば、パーティの最中にジョンはチェスでいかさまをする。なんてことのないシーンのように見えるが、「負けを異常に嫌う」彼の人となりは、後半に用意されている麻薬取引の伏線にもなっている。

実際のジョン・デロリアン。1982年撮影  写真:Shutterstock/アフロ

人生の土俵際に追い詰められても、プライドを捨てることを止めない。余裕ありげに振る舞い、周囲に高圧的な態度をとり、「勝者」であろうとするジョンの姿は、同情や憐憫を超えておぞましさすら漂わせている。『落下の王国』(06)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)などの映画や舞台で活躍する実力派リー・ペイスの面門躍如たる怪演にも注目だ。

映画的な面白さで言えば、ウソと裏切りのサスペンスも忘れてはいけない。本作は、ジムとジョンが裁判に赴くシーンから始まり、通常の伝記映画と比べて冒頭から異彩を放っている。ど頭から「転落」が明確に示され、観客はカタルシスをほぼ一切感じることなくジョンの人生が闇に染まっていくさまを見続けることになる。教祖のようにジョンを崇めていたジムが、嫉妬に取りつかれておとり捜査にジョンを利用しようとしていくさまもなかなかに気味が悪く、ジョンの暗澹たる未来を暗示しているかのようだ。

ちなみに、現在のデロリアンの日本国内での価値は600~1000万円だという。ジョン・デロリアンは生まれてくる時代を間違えたのだろうか? それとも、ただ不運だったのか? 彼は天才だったのか? それとも偽者だったのか? アメリカン・ドリームの成れの果てを鋭く切り取った本作が伝えるものは、一言では形容できないほど苦く、徒労感に満ち満ちている。真っ黒なエンドロールを、あなたはどんな顔で見つめるだろう?

映画『ジョン・デロリアン』 フォトギャラリー

映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018
映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018
映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018
映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018
映画『ジョン・デロリアン』(原題:DRIVEN) © Driven Film Productions 2018

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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