170億円のNetflix「任侠映画」アカデミー作品賞を獲る?

上映時間209分! 巨匠マーティン・スコセッシ監督がデ・ニーロ、パチーノらと放つ実録マフィア映画の動向に業界最注目!

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70歳代も終わりが見えてきた、巨匠マーティン・スコセッシ監督。「彼にこんな映画を撮ってほしい」と、多くの映画ファンが長年願っていた、まさにそのままの映画作品『アイリッシュマン』が、日本では映画館で先行・限定公開を経てのち、Netflixでの配信が始まった(11月27日~)。それは、かつてリアルな暴力表現によって映画界に大きなインパクトを与えた『グッド・フェローズ』(1990年)の再現…つまり、ニューヨークのイタリア系移民のコミュニティで育ったスコセッシ監督の経験が活かされた、アメリカの実録マフィア映画だ。

Netflix映画『アイリッシュマン』 独占配信中

主演は、監督の盟友である名優ロバート・デ・ニーロ。共演のアル・パチーノジョー・ペシら伝説の俳優たちが集結し、闇社会の面々を演じている。マフィア映画の千両役者そろい踏みだ。ここまでやってくれれば、およそ3時間半(209分)という長さの尺も、むしろ望むところではないだろうか。願わくば「永遠に終わらないでほしい」とすら思える、映画史が刻んだ一つの時代の総決算となるような作品である。

描かれるのは、第二次大戦後のアメリカにおける、実話ベースの腐敗した運送業界の内幕だ。

主演のデ・ニーロが演じるのは、実在したアイルランド系のヒットマン、フランク・シーラン。彼は全米トラック運転手組合で働きながら、裏ではシシリー系のイタリア人たちが支配する組織で、次々に対抗する人物を寡黙な態度で葬っていた。ペシは、その組織のボスであったラッセル・ブファリーノを演じ、落ち着きのなかに秘めた、異常なほどの冷酷さを表現。そしてパチーノは、マフィアの後ろ盾を得て活躍する、運転手組合のカリスマ、ジミー・ホッファをパワフルに演じている。彼らもスコセッシとほぼ同年代であり、本作で若い時代を演じるときには、部分的にCGによる加工が施されている。

Netflix映画『アイリッシュマン』 独占配信中
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殺しを続けた果てに“アイリッシュマン”は、親同然の恩義があるラッセルとのつながりと、尊敬できる兄貴のようなホッファとのつながりのなかで、板挟みに遭うことになる。その葛藤と容赦のないバイオレンス表現は、かつての日本の任侠映画をも思わせる。「義理と人情を秤(はかり)にかけりゃ 義理が重たい男の世界……」と、高倉健『唐獅子牡丹』が作中で流れてこないのが、いっそ不思議なくらいである。

かつて任侠映画では、男同士の恋愛感情にも似た精神的な結びつきが描かれることが多かった。それはいまでいう、“ブロマンス”と呼ばれる、性的関係のないBL(ボーイズラブ)のような感覚に近い。信頼と尊敬が混じり合う、デ・ニーロとパチーノが演じる男ふたりが同部屋で寝るシーンの親密さや、複雑な感情を追うことで、本作はせつない愛の映画としても見ることができるのだ。

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本作の製作費は、推定約170億円。こんな超大作で、やりたい放題の内容に、映画ファンとしては熱狂せざるを得ないところがあるが、同時に、なぜこのような企画がいままで通らなかったのかという疑問も発生してしまう。

近年のハリウッド大作は、シリーズものや続編ものが多く、確実に採算が見込める企画に製作費を出す傾向が強まっていて、その流れと反比例するかのように、大スタジオのなかでの映画監督の権限は、年々弱まってきている。そのような環境下の映画監督は、もはや雇われたスタッフの一員として、管理された存在に過ぎない。

そんななか、例えば“A24”や、近年の“プランBエンターテインメント”のように、いまこそあえて監督の作家性を押し出すことで注目を浴びる製作会社も現れてきている。自社製作も行っている映像配信サービスの会社、Netflixは、さらに潤沢な製作費をかけることができるという意味で、より一層ユニークな存在である

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自社の作品を増やし、公開にインターネット配信を利用することで、大幅なコストダウンを実現し、新たなビジネスモデルを確立したNetflix。最近、満を持して配信業界に参入した大手のアップルやディズニーなどと様々な競合サービスとしのぎを削っているが、その戦いに勝つため、“コンテンツ予算”は、すでに年間1兆円を超え、大手映画会社の製作規模を超える、すさまじいことになっている。さらに一度作った作品は財産となり、サービスは強化され続けていく。

そして、監督への引き締めが比較的弱い環境が、大作並みの予算と作家性の両立という、現代においては奇跡的なバランスの作品づくりを可能にしたといえよう。『アイリッシュマン』や、アルフォンソ・キュアロン監督のモノクロで映し出される超大作ROMA/ローマ』は、その代表例であろう。

とはいえ、この躍進は、既存の映画業界にとっては脅威に他ならない。『ROMA/ローマ』の内容的な成功は、アカデミー賞での複数受賞を実現するに至ったが、Netflixの悲願であるはずの“作品賞”は獲得できなかった。その裏には、既存の映画業界による抵抗があったのではないかという見方がある。スティーブン・スピルバーグ監督のように、配信用に作られた作品と、劇場公開用に作られた作品は一緒に競わせるべきではないと呼びかけている映画人もいる。

しかし、マーティン・スコセッシ監督作品は、アカデミー賞ではすでに常連であり、本作がいままでの作品と本質的に違うものであると判断する要素があるだろうか。むしろ、いつもよりも“映画的”にすら思える内容である。そうすると、果たして映画とは何なのかという、根本的な問いが生まれてくる。このように、「Netflix作品が作品賞を獲るかどうか」で、実際に受賞を果たすまでは毎年注目が集まることになりそうだ。

面白いのは、スコセッシ監督自身もまた、大ヒットを連続させている近年のマーベル映画に対して「あれはアトラクションであって映画ではない」という発言をして物議を醸したことだ。そして、同じヒーロー映画であっても、2019年を代表する映画の一つとなっ『ジョーカー』については、スコセッシ監督は高く評価している。それもそのはずで、この創造力の源泉となったのは、作中で何度も様々な要素が引用されている、『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』といった、スコセッシ監督の作品なのである。

メイキングシーン。演出をするマーティン・スコセッシ監督  Netflix映画『アイリッシュマン』 独占配信中

映画とはいったい何なのか?

その答えを、ぜひ配信作品『アイリッシュマン』を見ることで考えてみてほしい。そして、果たしてNetflixの躍進は今後も続くのか。来年のアカデミー賞(日本時間2月10日昼)で何が起こるのか。映画業界で、いま最もエキサイティングで目が離せないのが、このあたりの話題である。

  • 小野寺系

    (おのでら・けい) 映画評論家。多角的な視点から映画作品の本質を読み取り、解りやすく伝えることを目指して、WEB、雑誌などで批評、評論を執筆中。

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