大学ラグビー、明日準決勝 明治大学のキーワードは「準備」

藤島大『ラグビー 男たちの肖像』

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
明治大学の武井日向(左)と安昌豪/写真:アフロ

キャプテンの一撃

早明全勝対決。1994年度以来である。同年の同時期の首相は、明治大学出身、日本社会党の村山富市であった。両校を率いたのは、Мが北島忠治、Wは宿澤広朗、四半世紀の時の流れが迫ってくる。

だから、いま、この行に差し掛かっても、まだ迷う。紫紺と白の主将の紹介は12月1日の早稲田戦のあとでよいのではないか。ひさしぶりなのだもの。本稿締め切りはそれより手前なのである。

でも待てない。やはり記憶の湯気の立つうちに。そんなタックルだった。早明戦の結果がどうであれ今季の名場面のひとつだ。

11月24日。対帝京大学。明治大学商学部4年のフッカー、武井日向は、開始キックオフの5秒後に攻防の流れを定めた。タイトルを付すなら「キャプテンの一撃」。

身長が188㎝、体重は129㎏の真紅の6番、ニュージーランドからの留学生、リッチモンド・トンガタマが蹴り込まれた球をつかみ突進の体勢になる。一気に走るか。走らなかった。

背番号2が倒し切る。18㎝ほど背が低く、重さで39㎏も劣るのに、わずかな前進すら阻んだ。痛覚知らずのヒットは具体的な防御の実践であり、なお「肉弾戦に譲歩なし」という駿河台発のメッセージでもあった。

昨年度の大学王者、明治は、一昨年度まで9年連続で全国制覇の前チャンピオンを40対17で退けた。

幕開け直後のたったひとつのタックルがなぜ勝負の行方を示したのか。

帝京が闘争心をたぎらせていたからだ。

前節、早稲田に32対34で敗れた。続けては負けられない。星勘定でなくプライドの問題である。まれなる黄金期に終止符は打たれ、そこで、あっけなく常勝の軌道から遠ざかるわけにはいかない。少なくとも近辺にはとどまる必要がある。

試合前のウォームアップ。帝京の気迫は遠くの放送席にまで伝わってきた。時代の天秤をここで傾かせてたまるか。一糸乱れぬ激しいコンタクトを繰り返す。

明治、受けたらペースをなくすかも。ちらりと思う。そうはならなかった。繰り返す。たった5秒でリーダーが杞憂とさせた。

前半20分。武井日向は、みずからトライを記録する。キックのカウンター攻撃、短いパスを受けて、ひとりを抜き、さらにタックルをかわし、ゴールラインまで直線で45mほど独走した。

本人が解説した。

「トライを意識はしませんでした。目の前が空いて、外側のディフェンスがかぶり気味だったので判断して。(タックルの逆を取って抜いた)最後の1対1も判断です」

備え、そして整える

そして、例によって、つまりラグビーのキャプテンらしく、スコアよりも献身、個人でなくチームに話の方向を変えた。

「アンストラクチャー(崩れた状態)からのブレイクダウン(地面のボール争奪局面)がカギだと思っていました。帝京大学はそこで圧力をかけてくる。サポートにいった結果、ボールをもらえました」

栃木県佐野市に育った。のちの明治の男をラグビーに誘ったのは「早稲田の人」なのだった。やがて高校、大学と同じ道を歩むこととなる1学年上の幼なじみ、石井雄大の父、勝尉氏は、佐野高校-早稲田の元日本代表フルバック、その縁もありラグビースクールに飛び込んだ。中学時代、勝尉氏が教員を務める県立佐野松桜高校ラグビー部の練習に混ぜてもらった。すっかり楽しくなり、全国大会常連の國學院大學栃木高校へ進んだ。

ポジションはナンバー8、3年続けて花園の晴れのグラウンドに立った。小柄なせいか高校日本代表と縁はなし。大学でフッカーへ転向した。ラグビーの俊秀ひしめくクラブにあっては叩き上げに近い。

そのせいか真っ赤に燃える帝京を堂々と寄り切っても言葉は浮つかない。きっと、あの場面について言及するぞ。ほら。

「後半の入りなど、まだまだ課題は残っています」

唯一、わずかであれ集団として緩んだ時間があった。26対3の順調なリードで後半の40分間が始まる。左へ展開、軽快なリズムはかすかに緊張を欠くや、たちまちパスと捕球の安易なミスへと変調された。ここから反則をはさんで失トライを喫した。

負けずに反省。栄冠の方程式である。「ディテールを追求していきたい」。まさに細部に魂は宿る。放置さえしなければ、白星をつかんだ者にとって、失敗こそが最高のティーチャーなのだ。

「準備したこと」。「準備したい」。会見で何度も耳にした。今季の明治のマントラはどうやら「ジュンビ」である。

周到に備えないと勝てない。ただし備えるだけでは勝てない。理を整え理を超える者のみがうれし泣きを許される。

帝京戦後、田中澄憲監督に声をかけた。いちばん最初のタックルが効きましたね。

「キャプテンが体を張るので」

そう短く言った。下の句はなんだろう。

体を張るので勝てる。体を張るので日本一になれる。違う。体を張るので本当のチームができる。これだ。

※この記事は週刊現代2019年12月7・14日号に掲載された連載『ラグビー 男たちの肖像』を転載したものです。

週刊現代の最新情報はコチラ

  • 藤島大

    1961年東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。雑誌記者、スポーツ紙記者を経てフリーに。国立高校や早稲田大学のラグビー部のコーチも務めた。J SPORTSなどでラグビー中継解説を行う。著書に『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『知と熱』(文藝春秋)、『北風』(集英社文庫)、『序列を超えて』(鉄筆文庫)

Photo Gallary1

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事