アナ雪とも共通点が? 運命に立ち向かう「悪役令嬢」人気のワケ
女性主人公になりきり、イケメン男性キャラクターとの交流や恋愛を楽しむ、通称「乙女ゲーム」。その世界に飛び込みたい!という乙女の妄想を、そのまま形にしたかのような異世界転生モノ作品が大流行している。
なかでも、ヒロインの恋路を邪魔するダークヒロインが、知識と機転で悪役の立場を逆手に取って、運命を変えていくストーリーが大人気だというのだ。すでに「悪役令嬢モノ」という市民権を得るほど、多くの小説や漫画が発表されている。
今なぜ、いたいけなヒロインではなく、本来敵役であるはずの「悪役令嬢」なのか? その秘密に迫る。
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「シンデレラストーリー」よりも「サバイバルストーリー」
現在は「異世界転生モノ」とジャンル化されているが、その源流は「黄泉国にイザナミを迎えに行ったイザナギの話」のように、昔からある「異世界探訪物語」。
訪れる世界は時代の移り変わりと読者の嗜好とともに変わり、70年代のSFブーム時には過去の世界(歴史)や宇宙、80〜90年代のゲームブームにはファンタジー世界やサイバーパンクが登場し、現在もその人気は衰えていない。
その中で2010年以降の主流となっているのが、『ソードアート・オンライン』に代表される「ゲームとして創られた世界」のいちキャラクターとして転移または転生するストーリーだ。その派生で「乙女ゲーム」への転生ジャンルが誕生し、「悪役令嬢モノ」に発展した。
悪役令嬢とは、中世の架空の王国を舞台とした「乙女ゲーム」におけるヒロイン=主人公(プレイヤーキャラクター)のライバルだ。基本スペックや設定は、ヒロインの真反対。家柄や地位の関係で、攻略ターゲットである王子様の“婚約者”または“有力嫁候補者”であることが多い。しかも悪役令嬢は、ヒロインより地位も財力も格段に上という設定なので、煌びやかで豊かな暮らしに憧れる乙女心をがっちりと捉えている。

ただし、ヒロインが攻略ターゲットと結ばれると、悪徳令嬢には爵位剥奪や国外追放、死刑という不幸な運命(ゲームシナリオ)が待っているのが常。この破滅の運命とどう戦い、どう回避するかというのが、悪役令嬢モノの面白い部分なのだ。
今の時代、「王子様に見初められて幸せにしてもらうシンデレラストーリー」よりも、「自分の知恵と力で己の居場所を確立するサバイバルストーリー」の方が共感を生むのは、ディズニー映画『アナと雪の女王』のヒットでも証明されている通り。そういう意味で悪役令嬢モノは、“自分自身の力で運命に立ち向かう”という、普遍的なテーマの作品群ともいえる。
悪徳令嬢モノは「逆襲」か「回避」の2パターンで楽しむ!
運命に抗い、戦う姿が魅力の悪役令嬢だが、破滅の運命をどう変化させるかで、大きく2つのパターンに分けられる。
①ヒロインをやり込めて幸せに! 爽快感抜群の“逆襲”パターン
逆襲パターンは、ヒロインが狙う王子様よりもステキな男性をモノにして、ヒロインより優位な立場を得るもの。転生した国の王子よりもスペックが高い他国の王子をゲットしたり、世界を支配する魔王と結婚したりと、相手のバリエーションはさまざまだ。
そもそも悪役令嬢の中身は、現代から転生した普通の人。現代人の感覚で常識的に物事を考えるところに共感できるし、悪役令嬢という設定だけで、嫌われ役決定&没落フラグが待っていることに同情を覚え、それを回避するためにがんばる姿を応援したくなるのも当然だ。
だからこそ、「こうすればヒロインの思い通りにならない」と悪役令嬢がさまざまな知略を巡らせて逆境に立ち向かうストーリーにわくわくし、清純でしたたかなヒロインに一泡吹かせて幸せな結末を迎える逆転劇に、現実の鬱憤を晴らしたかのような爽快感を覚えるのかもしれない。
②ヒロインを味方にして安全確保! ギャップが魅力の “回避”パターン
一方”回避パターン“は、最初から恋のライバルの座を捨て、ヒロインの恋の成就を助けることで、破滅を免れるというストーリー。
悪役令嬢としては、とにかくヒロインに「敵認定」されたら終わり。ヒロインの好感度を上げて仲良しになっておけば、最終的に破滅を回避できるかもしれないからだ。そのためヒロインを応援し、ほかのモブ悪役嬢にいじめられる彼女をフォローして、王子様との恋を成就させようと奮闘する。その健気な献身ぶりに心が和むし、悪役なのに“いい人”というギャップの魅力も相まって、やっぱり悪役令嬢を応援したくなる。
このパターンの見所は、ゲームシナリオとして仕組まれている恋愛フラグや破滅フラグをいかに折るかという攻略要素。前世で得た攻略情報を使い、与えられた地位や財産、能力を「悪役令嬢」としてどう使っていくのか。その行動ともたらされる結果に、「いったいこの後、どうなるの!?」とドキドキしながら物語を読み進めてしまうのだ。

現代の知識で圧倒的有利に! 学校の勉強や趣味が報われる世界への憧れ
どちらのパターンも、「異世界転生モノ」のお約束で、現実世界の記憶と知識を持っており、知恵を絞れば悪役令嬢の転落を回避する方法が編み出せるというのがミソ。
意地悪や悪戯を控えるだけでもヒロインの好感度は違ってくるし、予めヒロインの行動が予測できるので、自身の破滅フラグをさりげなく阻止することもできる。現実の処世術とゲーム攻略を組み合わせた「知識」が武器になるという仕掛けも、読者の心を大いにくすぐる。
そんな中、異彩を放っているのが『どうしても破滅したくない悪役令嬢が現代兵器を手にした結果がこれです』。現代兵器大好きなミリタリーオタクである主人公は、「悪役令嬢」として転生した己の運命を「火力こそ正義!」と兵器の力で変えようとするのだ。
「火薬」を「炎の魔法」で代替する過程や、銃を撃つために自分の身体能力を魔法で捕おうとするなど、現実世界で育んできた趣味の知識を十二分に活かして、せっせと破滅回避に備える姿を見ていると「前世がオタクだったお陰で、今世が充実していてよかったね」と報われる思いがする。

結局、悪役令嬢だって最後は幸せになってほしいというのが、読者の本音。マイナスからのスタートだが、己の努力で運命を変え、“悪役”のまま終わらないという世界への憧れは、現実も自分の努力が報われる社会であって欲しいという願望の投影かもしれない。そんな現代の夢を見せてくれる「悪役令嬢モノ」の、さらなる発展が楽しみだ。
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取材・文:中村美奈子