プロも危険な冬の富士登山 登った者だけが見られる「影富士」の美
夏とは様相が一変して滑落の危険が。それでも、厳しいが故の美しさに魅せられて――
夏には登山客がひしめき合う日本の象徴・富士山。
しかし9月から翌年6月まで、登山道は閉鎖され、富士は長い眠りに入る。
一般の登山客を寄せ付けない過酷な世界に入る登山家が
冬富士の魅力と厳しさを明かす。

登った者だけが目にする巨大な雪原と 下界に広がる「影富士」
「毎年9月に登山道が閉鎖され、冬の富士は夏とは様相が一変します。それでも厳しいが故の美しさがあり、雄大な光景を人のいない中で堪能できます」
〝登山界のアカデミー賞〟と言われるピオレドール賞を日本人として初めて受賞した登山家で、富士山の公認ガイドでもある天野和明氏はこう語る。
「富士山は遠目にはなだらかな山に見えますし、夏の登山道はジグザグのルートに設定されているため、きつく感じないかもしれません。しかし、実は山頂付近は非常に傾斜が急で、しかも単独峰のため強風が吹き荒れて雪が吹き飛ばされ、斜面は巨大な一枚バーンと化しているのです。冬山では、しばしば滑落防止にお互いをロープで繋ぎますが、厳冬期の富士山では、周囲に岩も木もほとんどなく、いったん滑ってしまうとプロのガイドでも止めることが難しい。冬富士の死者のほとんどが滑落死なのはそのためです」
今年10月末にも、ライブ動画配信中の男性が山頂から滑落死する事故が発生し、改めて冬富士の厳しさがクローズアップされた。それでも登山家たちは、ヒマラヤ登山などの高所順応訓練のため、冬富士へと入っていく。

「私はアラスカやヒマラヤなど数々の山に登ってきましたが、その経験をもってしても一番激しい風は冬の富士山でした。厳しさも美しさも含めて、やはり富士は日本一の山だと思います」(天野氏)






『FRIDAY』2019年12月13日号より
撮影:天野和明 三戸呂拓也 渡辺幸雄