快調『ドクターX』はジリ貧! “勝利の方程式”に金属疲労!?
第6期となった米倉涼子『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)が、今クールも快調だ。
ところが内実をよく見ると、かつてのような盤石さが崩れ始めている。
以前のようなクール中盤以降の力強さに欠ける。また65歳以上の高齢者には相変わらず圧倒的だが、若年層は少しずつ離れ始めている。
何が起こっているのかを、各種データで分析してみた。
テレ朝ドラマの“勝利の方程式”
今クールGP帯(19時~23時)の民放連続ドラマ14本の中では、平均視聴率が18%台の『ドクターX』が圧倒的に強い。
2位水谷豊『相棒』(テレビ朝日)に3%以上の差をつけている(図1)。

ちなみにテレビ朝日のもう1本、沢口靖子『科捜研の女』は、秋クールの平均が12%で4位につけている。つまり同局の3本は、すべてトップ5入りを果たしている。
これらは全て長寿シリーズで、このやり方で同局はこのところ、高い視聴率をとり続けている。
勝利の方程式は幾つかある。
まずドラマ3枠のうち、2枠は刑事ものとミステリーに固定している。
次に今クールの3本に代表されるように、新作は極端に少なく、長寿シリーズが多い。こうして最大公約数を効率的に拾い上げ、人々の視聴習慣を定着させることに成功している。
さらに1話完結に徹した姿勢。
途中の回を見そびれた人も、後の回から戻って見ても理解できる。視聴率を高く維持しやすい工夫なのである。
しかも平日午後帯に同じシリーズの過去作を再放送し、視聴促進を図っている。番組宣伝まで効率的なのである。
かくしてテレ朝は、GP帯に放送されるドラマの年間平均が、キー5局の中で唯一5年連続で2ケタを維持してきた。特に直近3年は12%台以上で、1ケタに留まるフジや日テレを大きく引き離している。
“長寿シリーズのテレ朝”と呼んでも過言でない。
『ドクターX』の金属疲労
ただし長寿ドラマには“マンネリ”、“ワンパターン”、“既視感”などの批判がつきものだ。
特に極端なキャラクターの主人公が、内面の微妙な感情をあまり見せることなく、大学病院を典型的な構造に固定し、現実にはありえない難手術を毎回奇跡的に成功させていく『ドクターX』。
この劇画風な描き方は、他の追随を許さない高い視聴率をもたらしたが、同時に人々の視聴意欲を減退させ、早めにジリ貧を招きやすい危険がある。
これまで6期を振り返ると、2~3期(13年、14年)がピークだった(図2)。

特に3期の最終回、世帯視聴率27.4%が金字塔と言えよう。ところが4期~5期(16年、17年)と数字が伸びなくなり、このままでは今期は歴代最低となる可能性がある。
シリーズ数がまもなく20に届こうとする『相棒』や『科捜研の女』と比べると、急伸したものの早めにジリ貧を迎えた印象が拭えない。
実は4期に、その状況が顕在化していた。
当時関東で1000人のテレビ視聴状況を毎日追跡していたデータニュース社「テレビウォッチャー」は、途中で見るのを辞めた人々の声を拾っていた。
「新鮮味を感じなかった」 59歳男…(初回で視聴ストップ)
「米倉涼子はかっこ良いが、だんだん敵役が歴代そろい踏み風で無理がありそう」 27歳男…(初回で視聴ストップ)
「マンネリ化が否めないし、すっきり感がだいぶ薄れてきた感じがする。もっと新しい感じがしないとダメだと思う」 29歳男…(第2話で視聴ストップ)
「ストーリーも演技もくどい」 33歳女…(第2話で視聴ストップ)
世代で受け止めに差
3期までの勢いが、4期以降変化し始めた点は、視聴データにも表れている。
関東で2000世帯50000人を調べるスイッチ・メディア・ラボの調査によれば、個人視聴率が最も高かったのは3期だった。しかもその数字を支えたのは、3+層(男女65歳以上)より3-層(50~64歳)だった(図3)。

ところが4期で3-層を3+層が逆転し、5期では完全に3+層がメインとなった。シリーズが進むにつれ、視聴者は徐々に高齢化していたのである。
そして今期、厳密には最終回までのデータで比較しないと正確ではないが、若年層はごく僅かではあるが減少傾向にある。
“繰り返しの表現”は、心地よいものと受け止められることがある。
例えばお笑いで、同じギャグが繰り返されると安心して笑うという習性だ。ところがその反復は、一定の度を超えると、笑えなくなる。
どうやら高齢者は寛容の度合いが高そうだが、若年層は新奇性により走るのかも知れない。
ツイッターにも、“マンネリ”“ワンパターン”を批判する声が少なくない。
「リアリティがなくなってきた ドクターX ネタ切れ?」
「もうマンネリで飽きたわね」
「3話から見なくなった。ワンパターンで、面白くない」
「正直飽きたしネタ切れ感否めなくてつまらない」
若年層に多い途中離脱
途中で見るのを辞めるのは、やはり若年層に多そうだ。
今期の初回から7話までの個人視聴率を見ると、3+層はほぼ横ばいで、3-層もあまり数字を落としていない(図4)。

ところがT層(男女13~19歳)や1層(男女20~34歳)では、右肩下がり傾向が見て取れる。特にT層は初回に比べ7話は半分以下だ。
近年のテレ朝は、世帯視聴率重視の傾向があった。
そのためには、人口構成以上に高齢者が多いテレビの視聴者ゆえ、高齢者の感性にあわせて番組を制作する傾向にある。
例えば今期7話では、外科医の加地秀樹(勝村政信)と原守(鈴木浩介)は英語ができない役で出て来た。ところがこの設定に、視聴者は大いに反発した。
「ドクターYでの加地先生の流暢な英語はどこいったの…」
「原守先生って過去に英語で会話する彼女(シャーロット・ケイト・フォックス)が居る=英語話せる設定じゃなかったっけか」
「英語が分からないのに手術するって、ますますリアリティがなくなってきた」
「親がつけてたので久々に見たら、英語出来なさすぎてて胸糞で視聴をやめた」
「あの寒い英語のくだりいらない」
シリーズが長期化して、設定に矛盾が生じていたとすれば、制作側のケアレスミスだろう。
そうでないとしても、英語ができない日本人を笑うセンスは、高齢者の一部に共感を得られたとしても、非現実的と反発を覚える若年層は少なくないようだ。
「絶対失敗しない」はずの長寿シリーズに、あってはならないミスと言えよう。
1話完結の落とし穴
視聴率を高く維持するための1話完結にも、副作用がありそうだ。
関東地区で50万台以上のネット接続テレビの視聴動向を調べるインテージ「Media Gauge」は、その落とし穴をデータで示している。
今クールで視聴率が高い4ドラマの、毎話の序盤と終盤の接触率を比べると、『ドクターX』は毎話で序盤より終盤が極端に高くなっている。ただし次回の序盤は大きく下がっており、前回で上昇した分はほぼ消えてしまっている(図5)。

実は1話完結の『相棒』も似た傾向にある。
どの回を見ても理解できるよう、1話完結で同じパターンの中で少しずつ設定や展開を変える手法は、数字を獲りやすいというプラスもあるが、視聴者が集中して見てもらえないという落とし穴がありそうだ。
その逆が、1クールを通じて物語が展開する木村拓哉『グランメゾン東京』(TBS系)や高畑充希『同期のサクラ』(日本テレビ)だ。
1話の中での上昇率は『ドクターX』ほどではないものの、前回終盤の数字を大きく落とさずに、次回の序盤が始まっている。途中から見た人が、その後も集中して見る傾向にあり、結果としてクール中後半に数字を上げる傾向となっている。
以上が視聴データなどに現れた『ドクターX』金属疲労の要因だ。
20%前後とあまりに高い世帯視聴率ゆえ、局の方針としても簡単に止められない事情もあろう。それでもリテラシーの高い視聴者は少なくない。小さなミスや感性のずれを見逃さない。高齢者だけにあわせた作りが、如何に危険か、今期の『ドクターX』が示唆しているのかもしれない。
まだまだニーズは高い作品だ。
ぜひもう一段の頑張りで、一級のエンターテインメントを出し続けてもらいたい。
文:鈴木祐司
(すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。