「巨人ブランド」失墜? 今季、巨人がFA戦線で惨敗したワケ | FRIDAYデジタル

「巨人ブランド」失墜? 今季、巨人がFA戦線で惨敗したワケ

鈴木大地にフラれ、美馬学にも袖にされた。FA戦線で主役を張ってきた巨人だが、今季は獲得者ゼロに終わった。巨人に何が起こっているのか?

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楽天からFA宣言した美馬学は、巨人など見向きもせずロッテに移籍
楽天からFA宣言した美馬学は、巨人など見向きもせずロッテに移籍

メディアは今季のストーブリーグに異変が起こった、と報道している。例年オフのFA移籍市場の主役であるはずの巨人が、一人のFA選手も獲得できなかったからだ。

今季、FA宣言して他球団に移籍を希望した選手は楽天の美馬学、ロッテの鈴木大地、ソフトバンクの福田秀平の3人だった。
巨人はこのうち美馬、鈴木の2選手に獲得の意向を表明したが、両選手ともに巨人のオファーを断り、美馬はロッテに、鈴木は楽天に入団した。「巨人ブランドが地に堕ちた」という報道も見かけられる。

しかし、今季の日本FA市場はかなり微妙なものだったのは間違いない。

昭和の時代、巨人のコーチは「よそのレギュラー選手も、うちにくれば一軍半だよ」とうそぶいたものだ。
筆者が覚えている限りでも田中久寿男 、高倉照幸(ともに西鉄)、森永勝也(広島)、富田勝(南海)などのレギュラー選手が巨人では代打や控え選手に甘んじたものだ。

しかしそんな巨人でも、リーグを代表するような超大物選手を迎えるときは、ポジションをあけて迎えた。
その最初は、1965年、国鉄から10年選手の権利を行使して移籍した金田正一だろう。そして1976年には富田勝、高橋一三との「世紀のトレード」で日本ハムから張本勲がやってくる。守備に難があった張本だが、長嶋茂雄監督は左翼のポジションをあけて張本を迎え、3番張本、4番王貞治の「HOコンビ」を組ませた。

1993年オフにFA制度が導入されて以降も、巨人は「超大物」選手にはポジションを用意して好待遇で迎えた。
1994年中日から移籍の落合博満、1997年西武からの清原和博、2007年日本ハムからの小笠原道大、そして近くは2019年、広島からの丸佳浩などだ。彼らはMVPを受賞したり毎年タイトル争いに加わるなど、図抜けた実力の持ち主だ。こういう選手には、巨人は特別待遇をしてきたのだ。

しかし巨人はFA制導入以後も、それよりも下のランクの、各球団のレギュラー級の選手も獲得してきた。
こういう選手は、巨人は、昔の田中久寿男 、高倉照幸と同様、ポジションの重なる選手と競争をさせ、結果次第では控え選手に落としてきた。

最近で言えば、2015年DeNAからの金城龍彦、ヤクルトからの相川亮二、2017年日本ハムからの陽岱鋼、2018年西武からの野上亮磨、そして2019年西武からの炭谷銀仁朗らがそれだ(年度はいずれも加入年)。彼らは巨人移籍後も、特別扱いされることなく競争環境に置かれている。
FA年限は選手のピークと重なることが多い。それだけに以後、実力は下り坂となって不本意な境遇になることもしばしばある。

ただ、昔は「一軍半でも巨人の方がいい」という選手がたくさんいたことも事実だ。
筆者は巨人V9時代にスコアラーとして活躍した小松俊広さんに話を聞いたことがある。小松さんは先乗りスコアラーとしてよく新幹線を利用したが、球団はグリーン席をとってくれた。あるとき「ひかり」のビュッフェ(食堂車)で南海ホークスの野村克也兼任監督と顔を合わせたが、野村監督は普通車指定席だったので、ひどく居心地が悪い思いをしたという。巨人と他球団ではそれくらいの待遇差があったのだ。
春季キャンプでも、他球団が日本旅館を宿舎とし数人が同じ和室で寝泊まりしていた時代に、巨人はリゾートホテルを借り切っていた。
また、引退後も「元巨人」の肩書があれば、解説者などの声もかかりやすかった。もちろん、大組織巨人だけにコーチや球団職員の口も多かった。
そういうこともあって、レギュラーになれなくても巨人に移籍を希望する選手が多かったのだ。

しかし現在は、待遇面で巨人と他球団の格差は急速に縮まっている。選手の移動や宿舎、春季キャンプの環境なども今では12球団とも大差ないレベルになっている。
また昨今は地上波での野球解説者の需要は減っている。引退後の身の振り方でも「巨人ブランド」は、それほどありがたいものではなくなっている。

今年のFA選手の楽天美馬、ロッテ鈴木はともに主力選手として長年活躍してきたが、タイトル争いやMVPに関係するようなクラスの選手ではない。
巨人にFA移籍すれば、力が近いライバルたちと競争しなければならない。リーグが変わって慣れない環境での競争では、出足に躓く可能性も結構ある。巨人には毎年新戦力がFAやトレードでやってくる。そうなると、次なるチャンスを与えられない可能性もある。
楽天美馬、ロッテ鈴木の脳裏に、そういう巨人での「未来像」が浮かんだとしても不思議ではない。事実、今の巨人にはそういう選手も散見されるのだ。

楽天の美馬はロッテに、ロッテの鈴木は楽天に。結果的にトレードのようになったが、勝手知ったるパ・リーグのチームに移るほうが安心感がある。
しかも、楽天、ロッテともに高額年俸で抱えた選手を控えに置く余裕はないから、FAで獲得した選手には出場機会がしっかり与えられるはずだ。

「鶏口となるも牛後となるなかれ」ということわざがあるが、二人のFA移籍はそういう意味があったのかもしれない。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

  • 写真時事通信社

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