王者・東海大の西田、国学院大の浦野 今年の箱根は「山の神」争い | FRIDAYデジタル

王者・東海大の西田、国学院大の浦野 今年の箱根は「山の神」争い

箱根駅伝のメンバー発表目前 今年は「花の2区」以上に「5区」に逸材集結の予想

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前回王者・東海大の5区を走ることが予想される西田壮志。前回は区間新記録を出した直後に国学院大・浦野に塗り替えられた悔しさを内に秘める
前回王者・東海大の5区を走ることが予想される西田壮志。前回は区間新記録を出した直後に国学院大・浦野に塗り替えられた悔しさを内に秘める

山を制するものは箱根を制す――。いつの時代も語り継がれてきたこの格言は、新年号最初の箱根駅伝で特にクローズアップされることになりそうだ。

箱根路で最も脚光を浴びる区間は、鶴見中継所から戸塚中継所までの23.1キロ。各大学のエースが集うことから「花の2区」と呼ばれる。ただ、今回は小田原中継所からスタートする往路の最終区間「山上りの5区」に2区さながらの華のあるタレントたちが集まり、デットヒートを繰り広げそうだ。
これまで、5区で素晴らしい走りを見せた順天堂大の今井正人、東洋大の柏原竜二、青山学院大の神野大地は「山の神」と呼ばれてきた。しかし、彼らは在学中に同じ区間で争ったことはない。ずば抜けた走りで観る者を魅了したが、ライバルのいない中の独走というイメージが強い。「山の神」が現れる前には、5区で激しい先頭争いが繰り広げられたこともあった。そして、まさに今大会では、実力者が顔をそろえ、近年稀に見る山上りでの激戦が繰り広げられるのではと言われている。
今回は、山上りの5区に注目して、各校の戦力を見ていきたい。

箱根駅伝の前哨戦と言われる11月の全日本大学駅伝を制し、初の箱根連覇を狙う王者東海大には”山の名人”がいる。西田壮志(3年)は、前回大会、2年生で初めて5区を走った。その結果、往路2位、総合での初優勝に大きく貢献した。今季も10月の出雲駅伝6区で区間2位、全日本でも4区で区間賞と結果を残し、箱根に向けて順調に仕上げてきており、今季は区間賞に照準を合わせる。

西田は小中学生の頃はサッカーに熱を注ぎ、本格的に陸上を始めたのは熊本・九州学院高に入学してから。高校で陸上にのめり込むと、自然と箱根駅伝が憧れの舞台となった。特に魅せられたのは5区。2016年、高校の先輩でもある東海大の宮上翔太が山を上る姿に感銘を受けた。

「高校時代、両角速監督に勧誘されたときから『5区しか走るつもりはありません』と言ってきました。箱根の山を上るために東海大に来たようなものです。今回も楽しみにしています。次は勝ちますよ。前回は負けていますから」

実は前回、西田は1時間11分18秒の区間新記録を出しながらも、そのわずか1分半後に記録を塗り替えられた。往路2位に食い込んだ東海大に続き、芦ノ湖に現れたのは国学院大・浦野雄平(当時3年)だった。なんと山上りの5区で3人を抜き去り、往路3位でフィニッシュ。区間タイムは1時間10分54秒。西田のタイムを24秒も上回る、圧巻の区間賞だった。

今回も5区で快走が期待される国学院大・浦野雄平(右)。出雲王者の勢いで往路制覇をめざす
今回も5区で快走が期待される国学院大・浦野雄平(右)。出雲王者の勢いで往路制覇をめざす

最終学年を迎えた国学院大のエースは、山の主役の座を簡単に譲り渡すつもりはない。前回大会は2区への未練を残し、自らの思いを押し殺して5区を走っていたが、今季は「覚悟を持って山を上る」と早くから宣言。出雲、全日本では、区間3位以内と安定した力を発揮したが、本人は区間賞を逃したことを悔いており、箱根に向け万全の準備を進めている。前回は序盤の平坦なコースでタイムを稼ぐプランを立てたが、今回は厳しい坂道でガンガン仕掛けていくつもりだ。浦野はこう語る。

「上りの選手として頑張り、攻めていきます。ほかの大学が僕をマークしてくるのは分かっていますが、一番は自分との戦い」

目標は自らの区間記録を更新し、国学院大を初の往路優勝に導くことだ。出雲では三大駅伝初優勝を飾っており、チーム力もある。往路のラストで東海大の西田と競り合う展開が予想されている。それでも、浦野は1着で往路のゴールテープを切ることしか考えていない。

「僕のところで、先頭に立ちますので」

いまでこそ学生トップランナーの座まで上り詰めた浦野も、陸上に力を入れ始めたのは富山商高に在学していた頃。中学生までは野球に情熱を傾け、器用に小技を操る2番打者だった。ポジションはセカンド。野球部時代を笑いながら振り返る。

「半日走るだけで練習が終わることもありました。富山県内の野球部で一番走っていたのではないですか。日本海の砂浜を走らされることもあり、足腰は相当鍛えられました」

よく走り込んだ中学校の外周コースは、アップダウンのある約1.8キロ。そこを3周全力で走るのがお決まりのパターンだった。ランナーとしての才能に気づいたのは、ひょんなきっかけからだ。中学3年生の頃、陸上部の助っ人として参加した駅伝大会でアンカーを務め、驚異の8人抜きを披露。

「適当なフォームで思い切り走っただけでした」

と、話す。
素質があったのだろう。陸上の名門・富山商に勧誘されると、ランナーとして一から鍛えられて成長し、国学院大ではさらに飛躍した。大学では山のスペシャリストとして鍛えられてきたわけではない。2年時には箱根の1区で区間2位。トラックでも5000mで13分45秒94、1万mで28分25秒45と学生トップレベルのタイムを持つ。山に懸ける思いは、チームとして結果を残したいからこそである。

「僕は『山の神』と呼ばれたいとは思わないです。そこにこだわりはない。ただ、一番になることには執着があります」

区間賞を狙っているのは、浦野と西田だけではない。2大会前に区間新で区間賞を取った男も、今回は黙っていない。最終学年を迎える法政大・青木涼真は2年時に山上りで9人抜きの快走を見せ、話題をさらった。前回も区間3位と結果を残す山のスペシャリスト。前述の2人に対抗心を持つのは当然だろう。チーム力では東海大、国学院大に及ばないかもしれないが、後ろから一気に追い上げて、山の戦いを盛り上げる可能性はある。

さらに、実績では浦野、西田、青木の3人に及ぼないものの、名門の駒澤大・伊東颯汰(3年)は山での雪辱に燃えている。前回は2年生で初めて山に挑戦し、区間5位と奮闘。それでも、国学院大の浦野に抜かれた悔しさは、いまも消えていない。

「忘れたことはないです。今回は浦野さんに勝って、山の神になりたいです」

国学院大を率いる前田康弘監督(駒澤大OB)は、大八木弘明監督の教え子であり、駒澤大の選手たちには「(国学院大は)負けてはいけない大学」という意識もある。

令和最初の箱根駅伝に「山の神」は誕生するのだろうか。

2大会前に区間新記録で区間賞をとった法大・青木涼真
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駒大・伊東颯汰は前回、国学院大・浦野への「雪辱」に燃える
駒大・伊東颯汰は前回、国学院大・浦野への「雪辱」に燃える
  • 取材・文杉園昌之

    1977年生まれ。サッカー専門誌の編集兼記者、通信社の運動記者を経て、フリーランスになる。現在はサッカー、ボクシング、陸上競技を中心に多くの競技を取材している。

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