渋野日向子 コーチと父親が明かす「スマイル・シンデレラ」の苦悩
スペシャル・ノンフィクション 一躍人気者となったヒロインの素顔に迫る
日本女子プロゴルフツアーの最終戦・リコーカップでの優勝が絶望的となり、「逆転賞金女王」の可能性も潰(つい)えた最終18番――。渋野日向子(21)のティーショットはフェアウェイをとらえ、第2打もピン横2.5mの距離に。悠々とバーディを奪い、スマイルがようやく弾けた。
「ドライバーを思いっきり振って、セカンドショットもパターも強気でピンを攻めていく。この一年の彼女のゴルフを象徴するバーディの取り方でした」
そう語ったのは、渋野が2年前より師事する青木翔プロだ。高校卒業後、渋野は’17年のプロテストに失敗し、昨年の今頃はツアー出場権を目指すQTで四苦八苦していた。だが、今季は国内で4勝を挙げ、さらに8月のAIG全英女子オープンを制し、国民のヒロインとなった。
「もちろん技術的な成長が要因ですが、『自分のゴルフ』を見つけたというのが正しい表現だと思います。彼女の潜在能力が凄かったんだなと驚かされた一年でした。しかし、足りない技術はたくさんあります。あれだけ攻めるゴルフを徹底すれば、ショットがぶれることもある。その分、アプローチがスコアを左右しますから、まずショートゲームをさらに磨かないといけないでしょう」(青木プロ)
今後10年間で「全海外メジャー制覇」がチームシブコの長期的な目標だという。
渋野がゴルフを始めたのは、小学2年生の頃。週末はソフトボールでも汗を流していた。ポジションは投手で、渋野曰(いわ)く、「90㎞/hぐらいの球速だった」という。小学生ではかなり速い部類だ。
父・悟さんが振り返る。
「投手は打たれたり、四球を出してもすぐに気持ちを切り換えて、次の打者を抑えなければならない。当時、私が伝えたのは、そのために『感情を表に出しなさい』ということ。プロ野球選手が三振すると、バットを折ったりして鬱憤(うっぷん)を晴らすじゃないですか。私はスポーツ選手にはそういう姿勢も大事だと思っているんです。まさかゴルフでソフトボールの経験が活(い)きるとは思っていませんでした」
渋野は体幹がしっかりしたアスリート体型で、グローブのサイズは23㎝と男性並み、足も26.5㎝だ。ふくらはぎは太く、足首はキュッと引き締まっている。幼い頃から身体のケアを怠らず、今季はケガらしいケガがまったくなかった。
「私はケガに苦しんだアスリート人生を送りました。だから小学生の頃から彼女には痛みがあるなら必ず訴えるように伝えていて、私は『この症状なら整骨院』、『この痛みなら鍼灸』と、ケアしてきたつもりです。手の大きさは母親譲り。母親もかつてはソフトボールをやっていて、捕手だったんですよ」(悟さん)
スマイリングシンデレラと呼ばれ、人気者となった。渋野は、いまは地元の岡山でも気軽に出歩くことができず、気晴らしにしていたドライブも控えている。
「不自由さはあるでしょうが、家にいれば妹と遊んで、駄菓子を食べながら楽しそうにしている。(重圧?)それは私らのほうが感じています(笑)」(悟さん)
五輪イヤーとなる’20年も、渋野はゴルフの結果と共に「スマイル」が期待される。大会後、渋野はこう語った。
「全英のイメージが出来上がって、ずっと笑っていなきゃいけないのかなと悩んだこともあった。でも今は自分の人生だから、やりたいようにやっています。応援されたら、自然と笑っちゃいますよ」
当面の目標は東京五輪の出場権を獲得すること。その上で「金メダルを獲りたい」と話し、長い一年を締めくくった。
『FRIDAY』2019年12月20日号より
- 取材・文:柳川悠二