「ガンダム衛星」を作った福井県の宇宙に懸ける本気度がスゴイ

史上初の「県民衛星」打ち上げへ

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東京五輪関連プロジェクトとして開発された「G-SATELLITE」完成記者会見の様子

オリンピック期間中に宇宙からメッセージ

オリンピック期間中、宇宙からガンダムとシャアザクが地球にむけてメッセージを発する――そんな夢のあるプロジェクトが発表されたのは、今年5月のこと。そして12月3日、宇宙空間でも耐えるガンプラを搭載した小型衛星が完成、記者発表された。

1/200サイズのガンプラを搭載した小型衛星「G-SATELLITE」は、2020年春にISS(国際宇宙ステーション)へと運ばれて宇宙空間に放出され、地球上空400kmの周回軌道に乗る。

ガンダムとシャアザクは5色のオリンピックカラーに光る目をもち、その足下には電光掲示板が設置されている。オリンピック10日前から電光掲示板には「東京2020で会おう」「勝利の栄光を君に」といった応援メッセージが表示され、大会期間中は「○○選手、金メダルおめでとう」といった日本語のメッセージだけでなく、世界新記録が出た場合には、英語やフランス語などでも祝福メッセージを表示。その様子が衛星に内蔵された7台のカメラで撮影されて地球へと送信されるのだ。

このガンダム衛星=「G-SATELLITE」を開発・作成したのが、東京大学で航空宇宙工学を専門とする中須賀・船瀬研究室と、福井県である。じつは福井県は、官民一体で〝宇宙産業〟を県の主要産業に育てようとしているのだ。

「福井県のこれまでの地場産業は、繊維とメガネでした。ただ、これら産業は今、どんどん主力が中国に移っています。このまま手をこまねいているより、新たな選択肢を増やさなければいけないと考えていました。そこで出てきた案が宇宙産業だったんです」

こう話すのは、福井県新産業創出課の堤宗和参事だ。

「県では5年ごとに今後の経済新戦略を立てて、5ヵ年計画を策定しています。2014年の検討会で出てきたのが、人工衛星の打ち上げと、衛星から得られるデータを使った新ビジネスというものでした。そして立ち上がったのが、2020年に打ち上げを予定している『福井県民衛星』なんです」

福井県民衛星の模型と県民衛星に関わる県の人達。左から3人目が堤参事/撮影:中西優

福井県民衛星は、県が独自で打ち上げた衛星のデータを使い、山地や森林を継続監視して民生用に活用するというものだ。

「いまでは誰でもGoogle Earthで衛星写真を見ることができますが、あれって特定の場所については、数ヵ月に1度程度、福井県などですと実は3~5年に1度しか更新されていないんです。ですが、県民衛星は1週間に1度、必ず福井県の上空を通過しますので、そのときにリアルタイムの情報が手に入ります。たとえば先週と今週で地形が変化し、土砂崩れの兆候が起きている場所を見つけ、いち早くパトロールに向かうことができるのです」

福井は日本一「社長の多い」県

県が県民のために打ち上げる衛星――そして、できればそれは自分たちの手で作りたい。こう考えた県庁は、「福井県民衛星プロジェクト」を立ち上げ、県内の企業に「一緒にやりませんか」と声をかけていった。福井県は、日本で一番「社長」の多い県でもある。これは裏を返せば、小さな会社がたくさんある、ということだ。

プロジェクト参加に手を挙げた一社が「鯖江精機」である。

「鯖江精機」の工場内部。県民衛星プロジェクトには50近い県内企業が参加しているが、その中核企業のひとつだ/撮影:中西優

「私どもは、もとはメガネの造成機械を作る会社でした。メガネを作る機械を作る会社、というわけです。メガネは人の顔に沿った形状をしていますので、単純な直線はほとんどなく、意外と複雑なんですね。XYZの三次元軸で様々な動きをして加工する機械を製造していたため、その技術を転用して、近年ではスマホなどに内蔵されている積層セラミックコンデンサのメーカーとの取引が多くなっています。

県民衛星のお話が県から来たのは3年前。正直いって宇宙の『ウ』の字も知らない素人で(笑)。ただ、幸い本業が好調でしたから、蓄えのあるうちに新しい分野にトライするということを考えました。メガネは鯖江の代名詞ですが、廃業していくメーカーも多い。私たちはメガネより電子部品の機械製造が増えたために好業績でいられましたが、県が新産業を興そうとしていることは応援したいと思いました。それになんといっても宇宙ってロマンがあるじゃないですか」(鯖江精機・桐山勉副社長)

こうして募集に応じた10社ほどの企業から選抜された40人前後の技術者と県の工業技術センターの人間が、「特別講義」を受けに出向いたのが、「ガンダム衛星」も手がける東京大学の中須賀真一教授のところだった。

中須賀教授は、小型衛星研究の第一人者で、同研究室では実際にいくつもの超小型衛星を宇宙に送っている。軌道論から熱計算まで集中講義を受け、最後に中須賀教授が出題したテストを受けたところ、福井県の技術者の多くがほぼ満点を取り、教授を驚かせた。

その後、何人かの技術者が、実地訓練がわりに中須賀研究室で行われている3Uキューブサットという超小型衛星の組み立てに参加し、技術力の高さにお墨付きをもらった。この3Uキューブサットが「ガンダム衛星」にも使われることになったのだ。「福井県民衛星」打ち上げ前に、それよりなお小型の「ガンダム衛星」の受注を果たせたことで、福井県の技術者たちは奮い立った。

鯖江精機・桐山副社長が手にしているのが「ガンダム衛星」に使われる3Uキューブサットの筐体モデル。打ち上げ時にかかる衝撃や宇宙空間での厳しい温度差、放射線量など、さまざまな条件を計算して製作実験が繰り返された/撮影:中西優
12月3日、記者会見に登壇した中須賀真一教授と、現在は中須賀研究室の学生でもある宇宙飛行士・山崎直子さん
記者会見に登場したガンダム衛星は、実証実験などに使われ実機とまったく同じ性能を持つ「エンジニアモデル」。実機はJAXAに引き渡され、打ち上げ準備が進んでいる

費用は地元の企業の持ち出し

「中須賀先生は、これからは適度なサイズで数年間運用し、的を絞ったデータを取ってくるような中~小型衛星が衛星ビジネスの主流になるだろう、と考えておられます。大型衛星は三菱電機とかNECといった大手メーカーが独占していますが、小型衛星ならば、中小企業が多い福井県が受注することもできる、と考えています」(福井県・堤参事)

県から補助金は出るが、募集に応じた企業は原則として自分たちの持ち出しだ。

「衛星を宇宙まで運んでくれるロケットの製造や、JAXAさんが推進する『はやぶさ』のような大規模衛星は国家レベルのプロジェクトですが、私たちは県のレベル。でも、県民衛星に手を挙げてから、県民の皆さんに『鯖江精機さん、がんばってくださいね』と声をかけられることが増えたんです。県民の夢をのせたロマンを成功させなきゃ、と現状での損得は考えずにやっています。我が社も2名、本業はもう一切ノータッチでいいからと衛星専任にさせました」(鯖江精機・桐山副社長)

ガンダム衛星「G-SATELLITE」の打ち上げは2020年3月中旬。そして「福井県民衛星」も同年の上半期に、こちらはロシアのソユーズロケットによって打ち上げられる予定だ。

「当初はJAXAさんのイプシロンロケットでの搭載を目指していたのですが、その計画自体が1年遅れることになった。その時、県民衛星プロジェクトの運用をお願いしている東京の会社から『ソユーズロケットの搭載スペースに空きがあるらしい』という情報をいただいて、少しでも早く打ち上げたいと、そちらにお願いすることになりました」(堤参事)

県工業技術センター内に設置された、衛星が受信する電波を宇宙空間と同じ環境でチェックするための「電波暗室」。こうした宇宙産業のための特殊な施設がいくつも作られている/撮影・中西優

一度宇宙空間に出たら、故障しても修理に行くわけにはいかない。

宇宙空間という、地上に存在しない環境を再現、設定するための実験装置も福井県の科学技術センターに作られた。ゆくゆくは、全国の47都道府県すべてが地方自治体ごとに個別の衛星を打ち上げて、地球の周囲を取り巻き、連動するのが理想だという。

「福井県民衛星一つだと、県上空に衛星が回ってくるのは一週間に一度。ですが、46都道府県が一つずつ県民衛星を持って、それらがお互いに連携すれば、さらに観測精度は上がります。もちろん、衛星の製作は福井県にお任せしてもらいたいですね」(堤参事)

11月10日には、公募されていた「福井県民衛星」の名称が「すいせん」に決まった。水仙の花言葉「私の元へ帰ってきて」の意味がこもっているという。福井県が始めたチャレンジは大輪の花を咲かせるか。

  • 取材・文花房麗子

Photo Gallary7

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