中間管理職だからヒーローになれる? 「令和の半沢直樹」の姿とは

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小説から生まれ、時代を象徴するヒーローに上り詰めた半沢直樹。バブル世代の一銀行員が世に広く知られるきっかけとなったのが、2013年に放送されたドラマ『半沢直樹』の大ブレイクだった。

全視聴者が絶句した衝撃のラストシーンから7年、ついに彼が帰ってくる。

「ヒットの理由? まったくわかりません。とにかく、狙って打てたヒットではなかった」と語る池井戸潤氏

4月からスタートする『半沢直樹』新シーズン(堺雅人主演)の先駆けとして、1月3日深夜に放送されるスペシャル・スピンオフドラマ『半沢直樹イヤー記念・エピソードゼロ』(吉沢亮主演)。平成のヒーローは、令和でも輝くのか? そして、新時代を生き抜くために必要な条件とは? 期待の盛り上がる今、原作者である池井戸潤氏が語った。

ドラマのヒットは、まったくの想定外

 2013年の新語・流行語大賞の年間大賞に「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「じぇじぇじぇ」とともに輝いたのが、「倍返し」。この年は、半沢直樹が世を席巻した年だった。

その発端となったのが、同年7月からTBS系列の日曜劇場で放送された『半沢直樹』。池井戸潤氏作の「半沢直樹シリーズ」、その初期2作である『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』を原作とするドラマが、圧倒的な支持を受けたのだ。

「原作をください、と言いにくるプロデューサーや監督は、名刺1枚を持って来るのが普通。でも、TBSの福澤克雄監督は、紙袋いっぱいに僕の本を全部入れて持ってきて、『全部読みました。ぜひ半沢の物語をやらせてほしい』と言ってくれたんです。それで、作品をお預けすることにしました」(池井戸潤氏 以下同)

半沢直樹役は、高い演技力が評価されていた堺雅人。実は、池井戸氏自身も、「ドラマ化するなら堺さんがいいのではないか」と心に思い描いていたのだという。しかし、当初は「ドラマが受けるとはぜんぜん思わなかった」と振り返る。

「どのくらい数字(視聴率)が取れますかと尋ねたら、制作サイドからの返答は、最初は11(パーセント)か12、最終回に15を超えられたら、という話でした。銀行が舞台だし、おっさんしか出てこないし、まあそうだよな、と。

でも始まってみたら、初回は19.4パーセント。電話をくれた伊與田英徳プロデューサーの声も躍っていましたね(笑)。それから一度も下がらずに、最終回の42.2パーセント(平均視聴率)まで行ったんです。ヒットの理由? まったくわかりません。とにかく、狙って打てたヒットではなかった」

対立していた常務・大和田(香川照之)と白熱の一騎打ちを繰り広げ、勝利したものの、半沢に告げられた辞令は、まさかの関連会社出向。釘付けになっていた視聴者は、「早く、倍返しを!」と、心の中で叫んだに違いない。

この春放送される待望の続編は、第3作『ロスジェネの逆襲』と現在までの最新作『銀翼のイカロス』がベース。半沢直樹が、令和の時代に蘇るのだ。

「小説の舞台となった時代は2004年。今からもう15年ほど前です。だから、ドラマの時代設定にはなかなか苦労するでしょうね。とくに『ロスジェネ〜』の設定は、今の法律では成立しない。そのあたりをどう調整するのか……。

前回のドラマの撮影を見学したとき、片岡愛之助さんが演じる黒崎の姿を見て、これは面白いと思った。それで当時『週刊ダイヤモンド』で連載中だった『銀翼〜』に急遽、出る予定のなかった黒崎を出すことにしたんです。もし、もう一度書き直すとしたら、『ロスジェネ~』から黒崎を登場させたいですね」

ちなみに黒崎は、第2作執筆の際「フィクションであることを印象づけるため」あえて突飛な造形をされたいわくつきのキャラクター。しかし、ドラマで片岡氏が強烈な存在感を放ったことで、「あんな検査官がいるとは!」と、なんと金融庁にクレームの電話が殺到したという。前作の社会的影響の大きさをうかがわせる逸話である。

はじめての読者にもわかりやすく、共感できるように

ドラマの大ヒット以降、これまで小説を読まなかった層も含め、とてつもなく多くの読者が池井戸氏の作品に関心を寄せるようになった。発売日には書店の棚に本が積み上がる現在の状況は、作品を送り出す側の意識にもやはり変化を与えたという。

「読者の数が以前のままだったら、たぶん、自分が思ったままに書いていいんだと思います。でも、ありがたいことですが、数多くの読者の手に取られる小説は、好きなように書いただけでは満足させられない。読者の中には普段は小説を読まない方もたくさん含まれているので、とにかく読みやすく、わかりやすくと」

加えて、現代は多種多様な価値観やコンプライアンスに気を配る時代。男性の多いビジネス場面における女性の描き方、意見や表現への配慮など、「気を使うところはたくさんある」という。

多くの人が共感を寄せるのは、書き方だけではなく、その物語に登場する人の多様な価値観に触れられるせいもあるだろう。半沢シリーズをはじめ、池井戸作品では、主人公の敵役を含めた多くの人物のバックグラウンドが丁寧に紡がれる。

なぜこんな行動を取るのか、どうしてこんな人になったのか……原因や理由が描かれることで、毎作、必ず誰かに思い入れてしまうのだ。

「人間を書くのが小説ですから、脇役であっても人物を掘り下げるというのは、やはり大事なこと。小説を書き始めた頃はプロット重視で、ストーリーに重点を置いて書いてきましたが、『シャイロックの子供たち』(2006年刊)を書いた頃から人間重視、キャラクター重視で描くことに軸足を移しました。

書き手としては、けっこう大変です。なにしろプロットがないので、どんな小説になるのか、書いてみないとわからない。下手をすると、何百枚も書いた時点でボツにする羽目になります。最近だと、『ノーサイド・ゲーム』(大泉洋主演で2019年7月にドラマ化)がそうで、600枚書いたところでいったん全部捨てて書き直しました。ドラマの放送も迫っていましたが、それでもやっぱり自分に嘘はつけない。一作一作、納得できるまで書いていくしかないんです」

付加価値を生む仕組みを編み出さなければ、日本は衰退する

平成の世を駆け抜け、新時代へ。バブル世代の半沢は、設定通りならば、令和の現在は50代半ばになっているはずだ。銀行にいれば、おそらく支店長か、役員か、相応の役職になっているかもしれない。しかし、生みの親である池井戸氏は「それじゃあ、面白くないでしょうね」と言う。

「半沢が頭取まで上り詰めるような物語には、たぶんならない。やっぱり中間管理職で、上にも下にも頭にくるヤツがいる、そういう状態が面白いと思います。だから、時代としては、やはり2004年くらいにはなってしまうんですが……。

最近思っているのは、サザエさんのようにずっと年を取らないという方法もあるのか? ということ。この先、だんだん時代小説のようになっていくのかもしれませんね(笑)。たとえば、池波正太郎の『剣客商売』のように、毎度毎度現れる敵をバッサリ斬っていく。そんな連作短編として続けていく方法もあるのかな」

しかし、同時代人としては、今の世に生きる彼の姿も見てみたいもの。令和の金融業界を舞台にするなら、半沢が向き合う敵はいったい何だろうか?

「既存の銀行の枠組みがいつまで通用するだろうか? と僕は思っているんです。クラウドファンディングなど、資金の調達方法が多様化している今、個人にもさまざまな選択肢があって、ある特定の銀行とずっとつきあっていく必要はまったくない。

メインバンクの概念がなくなりつつある中、大手だから信用できるという理屈はもはや通らないでしょう。それなのに、銀行のやり方は、預金だとか融資だとか、メニューがあんまり変わっていない。付加価値が、どんどんなくなってきています」

確かに、キャッシュレス決済や電子マネーなど、目に見えない金の流れが当たり前になった現在。最近では、フェイスブックがリリースしようとした仮想通貨「Libra(リブラ)」が話題になった。

「ああいうことは、本来、銀行が思いつくべきことだった。そうして、世界の主導権を握るべきだったんです。ブレイクスルーのアイデアが今の日本の金融界から出てくるとは思えません

金融業界だけでなく、日本全体がそういう状態にある、と池井戸氏。ブレイクスルーを実現するには「とにかく考えること」だと、力を込める。

「以前は世界の大企業ランキングの中に日本の会社がたくさん入っていましたが、今はほとんど入っていない。真剣に考えて、付加価値を高める工夫をしなければ、日本はあらゆる業界で負け組になりますよ」

令和の時代に再び現れる半沢直樹。彼の発する熱量は、現状打破を求める時代の背中を押す活力になってくれるだろうか。

 

池井戸 潤 1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な作品に『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』『陸王』『民王』『ノーサイド・ゲーム』などがある。2020年は1月3日深夜にTBS系列で『半沢直樹イヤー記念 エピソードゼロ』が放送。4月からTBS日曜劇場で『半沢直樹』、同じく4月にWOWOWで『鉄の骨』が再ドラマ化される。

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  • 取材・文大谷道子カメラマン田中祐介

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