世界を変える「遠隔ビジネス」最前線 運転、診療、遠足も! | FRIDAYデジタル

世界を変える「遠隔ビジネス」最前線 運転、診療、遠足も!

ANAも本気で参入。遠隔操作のロボットやサービスで、外出しなくても働ける社会が来る?

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航空会社が遠隔ロボに参入

ANAホールディングスが米企業と開発する二足歩行型の「アバターロボット」。左上のディスプレイには、実際に二足歩行をする様子が映し出された
ANAホールディングスが米企業と開発する二足歩行型の「アバターロボット」。左上のディスプレイには、実際に二足歩行をする様子が映し出された

「世界人口を75億人と仮定すると、飛行機を年間に1回以上利用する方は、全体の約6%にしかすぎません。さまざまな理由で飛行機に乗れない方や移動が困難な方へエアラインという垣根を超えて新しいモビリティ(移動手段)を提示するために、自社開発のアバターロボットをリリースしました」(ANAホールディングスアバター準備室・松尾美奈氏)

航空会社の使命は、移動手段を消費者に提示すること。だったら、飛行機に限らなくてもいいのではないか――。

ANAHDは、’18年に発表した中期経営戦略で「ANA AVATAR VISION」を策定。アバターとは、ロボット工学や触覚を擬似的に伝える技術を用いて、あたかも自分がその場にいるように遠隔操作する技術だ。今年4月から専任の部署「アバター準備室」を新設し、第1弾アバターロボットとして12月からコミュニケーションロボット「newme(ニューミィー)」を順次配置すると発表した。

これはディスプレイを搭載した自走式のロボットで、タブレット端末などを通して遠隔操作し、遠く離れた場所で物を見たり、音を聞いたり、人と話したりすることができる。

「アバターを使えば、不要な移動をせずにコミュニケーションを取ることができるため、業務効率を向上させることにもつながります。その場にいなくても、リモートワークが可能なため、移動コストの削減や人材不足の解消にも有効です。もちろん、遠隔操作で水族館を回るなど、時間に関係なく、行きたい場所を楽しむこともできます」(松尾氏)

ANAHDは米オレゴン州立大学発のスタートアップ企業「Agility Robotics」と提携し、屋外型アバターロボットの開発にも乗り出した。上写真が試作機で、二足歩行を行う自立走行ロボットは上半身と両腕を備えており、階段の上り下りや荷物の持ち運びも可能だ。

「たとえば、宅配先の住所を入力して玄関先まで荷物を運ぶこともできます。将来的には、買い物弱者となっている高齢者への活用や山での遭難者の捜索、人が入れない危険区域での災害救助などでの活用が期待されています」(松尾氏)

いま、企業は総力をあげて「遠隔ビジネス」に取り組んでいる。背景にあるのは、通信技術の劇的な進化だ。ITジャーナリストの久原健司氏が言う。

「遠隔操作のロボットやサービスが多数登場しているのは、まもなく日本でもスタートする次世代移動通信規格『5G』を見越してのことでしょう。『5G』は通信のタイムラグを大幅に減少させる『超低遅延』が大きな特徴です。タイムラグは円滑なコミュニケーションの障害になります。昔から遠隔操作のロボットやサービスはありましたが、一般に普及しなかったのは、この遅延によるものが大きかったのです」

自動運転を例に取ると、これまでの4G回線では、時速100㎞で走っている車にブレーキを踏めと遠隔で命令しても、実際にシステムが作動するまでに1m40㎝走行してしまっていた。しかし、5Gなら3㎝以下に短縮されるというのだ。

「11月末からは秋田県上小阿仁(かみこあに)村で自動運転サービスが始まりました。まだ路面電車の延長のようなサービスですが、将来の自動運転の実現に期待が持てる試みだと思います。

さらに日本外科学会は、手術支援ロボット『ダビンチ』を使って『遠隔手術』を行うための指針作りに着手しました。将来的には、大学病院などと地方の医療機関を5G回線で結び、ベテランの外科医が遠隔手術を施すことが当たり前になるはずです」(久原氏)

政府も遠隔医療に力を入れ始めている。’15年には厚生労働省がオンライン診療を事実上解禁。それに伴って、続々と医療系IT企業が参入している。医薬経済社記者の今岡洋史氏が解説する。

「遠隔医療は地方と都市部の医療格差の解消につながり、地域の連携も高めるなど、利点の多いツールです。地方は医師不足に悩んでおり、このままでは医療格差は広がるばかり。遠隔操作で補える医療サービスがあれば、地方に住む人が定着することにもつながります。

市場調査会社『富士経済』によれば、オンライン診療の市場は、’25年には’16年の10倍となる42億円になると予想されています。まだ市場規模は小さいですが、今後伸びていく分野でしょう。スマホを使った診療のみならず、米国ではドローンを使って医薬品を患者に届けた事例がすでに報告されています。遠隔医療が定着すれば、スマホひとつで世界的名医の診療を受けることができる。そんな未来も近いかもしれません」

長野県伊那市では、’19年度中に医師による遠隔診療が受けられる移動診察車『ヘルスケアモビリティ』の実証実験をスタートする。ソフトバンクとトヨタ自動車が共同出資する『MONET Technologies(モネテクノロジーズ)』などが実施する。

「12月から始まる実証実験では、医療機関側からの予約による運行を行い、オンライン診療の手順や効率的な運行ルートなどを検証します」(同社担当者)

伊那市では、’20年度から遠隔服薬指導を始め、’21年度以降にはドローンを使った医薬品の配送も検討しているという。

外出できなくても働ける

すでに実用段階に入っている「遠隔ビジネス」が、分身ロボットだ。そのパイオニア『OriHime(オリヒメ)』は法人向けに約600体が稼働し、実際にテレワークのツールとして活用されている。

開発者で『オリィ研究所』所長の吉藤オリィ氏がその意図をこう語る。

「開発したのは私自身が体調を崩して3年半、学校に通えず、孤独感に悩んでいたことがきっかけです。なぜ人間の体はひとつしかないのだろうかと思っていました。この体験から、自分の体が病気であっても授業を受けたり、人間関係を維持したりできるようにしたいと思い、分身ロボットを発明しました。

これを使うことで、たとえ身体に障害があっても、ロボットを遠隔操作することで働けますし、代わりに旅行に行ってもらうこともできます。実際、私の会社には一度も出社せずに、OriHimeだけで仕事をしている人もいます。テレビ電話やチャットだけで仕事をしていても働いている実感を持つことができないのですが、分身ロボットを使えば、その会社で実際に働いているんだと、自分の存在を実感することができるのです」

生身の肉体でなくとも、生産活動に従事することは可能なのだ。最終的には、生身の体を触れ合うことなく、性交渉ができる時代がやってくるかもしれない。

「アバターが触ったものの感触を、グローブを介して操縦者に伝える技術はすでにあります。遠く離れた場所の匂いを再現する技術もある。5Gの時代には、これらの精度が一気に高まるでしょう。電送できるデータ量がケタ違いに増加し、精度の高い映像、音声、感触、匂いなどをリアルタイムでお互いに楽しめるようになれば、リアリティのある性交渉を擬似体験できると思います。

そうなると、人はもう外に出る必要がなくなります。家にいながら仮想空間でコミュニケーションを取って、欲望が満たされる。人類はその方向に進んでいるような気がします」(前出・久原氏)

私たちはいま、世界が変わる瞬間に立ち会っているのである。

『FRIDAY』2019年12月20日号より

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