英国アン王女自ら売り込み 世界が注目“日本の巨大廃炉ビジネス”

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3兆円規模の超巨大マーケット

今年10月に静岡で行われたラグビーW杯、スコットランド対ロシア戦を観戦する英国のアン王女(右から2人目)。数日後、英国の廃炉ビジネスの長所について日本の要人に説明した

世界の“廃炉ビジネス”市場は、3兆円規模になるともいわれる。海外から見れば18基の廃炉が決定している日本は、魅力的なマーケットだろう。中でも売り込みに熱心なのが英国。王室みずから営業に乗り出す本気ぶりなのだ。長年、経済界を取材してきたノンフィクション作家・児玉博氏が、廃炉ビジネスの最前線をリポートする。

…………………………

日本全土をラグビー熱で覆った「ラグビーワールドカップ」。快進撃を続ける日本代表が悲願のベスト8進出をかけ挑むスコットランド戦(10月13日)に、日本中の熱い視線が向いていた。

そのスコットランド戦の2日前、英国大使館では原子力発電所の廃炉措置を巡る日本と英国との共同開催カンファレンス(原子炉廃炉措置レセプション)が行われていた。若き日のエリザベス女王の肖像が掲げられた部屋に、集まった日英原子力関係者は80人以上。英国風なのだろう。会場の一角には、クッキー、サンドイッチ、紅茶などが参加者たちのために用意されていた。

廃炉――。つまり、炉心を停止させ、関連する施設を解体することだ。廃炉に至る経緯は、原発の老朽化による安全性の低下、または事業としての不採算などがある。東京電力「福島第一原子力発電所」の未曾有の事故以来、日本の原子力政策が不透明な中、18基の廃炉が決定している。

「日本に限らず、廃炉は原子力先進国で当たり前のように進められています。巨大なビジネスマーケットとして存在しているんです。すでに、3兆円規模の産業として成り立っているとの声も聞こえています。そうした廃炉ビジネスの先進国の目に映る日本は、潜在力を秘めた有望なマーケットなのです。廃炉となれば、1基700~800億円規模の資金が動くとされます。原発を設置している地元でも、それを新たな産業として捉えようとしているんです」(経済誌記者)

日本の原発のおよそ4分の1が集中し、“原発銀座”とも呼ばれる福井県南部。日本原電「もんじゅ」を始め、関西電力「美浜原発1、2号機」。同じく関西電力「大飯原発1、2号機」と、実に5基の廃炉を抱えている。この地で昨年、「つるが国際シンポジウム2018」が行われた。シンポジウムに招かれ示唆に富む報告をしたのが、スコットランドの最北部の町・ドーンレイからの代表者たちだった。

「’50 年代に高速増殖炉が設置されて以来、同地には5基の原子力発電所が設置されていました。’00年前半にドーンレイの原子炉は廃炉が決定したが、それを後押ししたのが’05年に英国政府の政府外公共機関として設置されたNDA(原子力廃止措置機関)です。原子炉の解体、使用済み核燃料の処理管理を行っています」(同前)

NDA主導のもと、「ドーンレイ・ステークホルダーグループ」が作られる。このグループは、一般市民から地方議会の議員、医療サービス関係者、商工会議所代表などによって構成された。同時に、廃炉が地元経済に資金を落とせるような仕組みも作られていった。廃炉を住民代表がコントロールする“新産業”と位置づけて、そのプロセスを踏んでいる。ドーンレイでの取り組みは、廃炉に取り組む日本にとって大きな視座となっているのである。

冒頭に戻ろう。ドーンレイでの取り組みが世界的に評価される中、今回の英国大使館でのレセプションはまさにその当事者達が来日し、日本の原子力関係者との情報交換、ビジネス対話を持つ機会を英国政府が提供したのだった。

スコットランドから来日したドーンレイ選出の地方議員や対外関係大臣などのスピーチ、それを受けての経産省資源エネルギー庁次長・平井裕秀、日本原子力発電役員・山内豊明などの挨拶が続いた。そして……。

「一堂、起立してお迎えください」

一瞬、会場は静まり返る。入場して来たのは、黒色のジャケットを纏ったアン王女だった。王女は、エリザベス女王の長女として’50年に生まれる。兄はチャールズ、2人の弟はアンドリューにエドワードだ。’92年の再婚に際しては一悶着が。王族の離婚、再婚をタブー視するイングランド国教会に配慮し、王女の再婚の結婚式はスコットランド教会で執り行われたのだ。以来、スコットランドを代表する存在でもある。

その王女が時に微笑を湛えながらスピーチをする。

「英国は、この分野で他国に無い知識と経験を積んでいます。廃炉は単なる技術的な面だけでなく、地元の人々との協力無くしては成り立ちません」

スピーチする姿は、凛とし、堂々としたものだった。

王女のスピーチが終わると、王女にエスコートされるようにスコットランドの原子力関係者(この中には廃炉を請負っている「キャベンデッシュニュークリアー」社、「ウッドPLCオペレーションズ」社も含まれている)と日本の原子力関係者とが別室に案内された。

英国大使館関係者によれば、この別室は商談の場であったという。つまり、アン王女が日英の関係者同士をつなぐ役割を演じたということになる。大英帝国時代から、国益を守るとはどういうことなのかを知り尽くしている英国の底力を見る思いだった。

  • 取材・文児玉 博

    '59年、大分県生まれ。早稲田大学卒業後、フリーランスとして活躍している。'16年に『堤清二 罪と業 最後の「告白」』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『文芸春秋』『日経ビジネス』などに作品を発表している。

  • 写真ロイター/アフロ

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