値上げ影響なし 19年映画界が今世紀で最大動員・興収のワケ | FRIDAYデジタル

値上げ影響なし 19年映画界が今世紀で最大動員・興収のワケ

〔映画ジャーナリスト・大高宏雄に聞く「日本映画界・19年総決算&20年展望」第4回〕

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『天気の子』原作・脚本・監督:新海誠  ©2019「天気の子」製作委員会
『天気の子』原作・脚本・監督:新海誠  ©2019「天気の子」製作委員会

東宝&ディズニーの双璧が牽引

2019年、映画界では料金の値上げがあったにもかかわらず、映画人口(映画人口=国内の映画館の総観客動員数)は21世紀最高を記録した。興行収入でも前年比10%から20%の増加が見込まれるという。映画ジャーナリストの大高宏雄氏に、値上げの影響、大手配給会社の注目作、IMAXなどの最新施設の普及状況などを聞いた。

動員数・興収ともに今世紀最高、そのワケは?

――2019年の映画界の状況はどうだったのでしょうか。

「映画界では10年以上前から「映画人口2億人」を、ひとつの目標に掲げてきた。これまで2億人の壁は非常に高かったが、2019年は1億9千万人台到達が見えてきた。達成の場合、21世紀最高の観客動員数となる。

映画人口は1958年の11.2億人が最高だった。テレビが普及し始めた1960年代から70年代にかけて10億人から1.6億人程度にまで急減した。1996年に1.2億人の最低数まで減って、ようやく2億人近くまで戻ってきた形だ」

――映画人口が増えた理由は?

「2019年は、『アラジン』(6月~、興収122億円)、『トイ・ストーリー4』(7月~、101億円)の2作品が興行収入100億円を突破し、『ライオン・キング』(8月~)も65億円を超えたディズニーの攻勢が大きかった。『アナと雪の女王2』(11月22日公開)は正月映画になるので興収としては2020年扱いになるが、こちらも年明けに112億円を突破した。公開日を基準に、配給会社1社で100億円を超える作品が年間に3本というのは、これまでにないことだ」

――2019年の興収は?

「映画界全体の興行収入は、11月末の段階では、主要12配給会社の累計が2111億円。前年18年よりも約19%上がっている。11月に『アナ雪2』、12月に『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開されて数字はさらに伸びているようだ。『ボヘミアン・ラプソディ』が想定外のヒットを飛ばした2018年も興行収入はよかったが、低く見積もっても2018年よりも2019年は17%~18%増で推移する計算だ。

さきのディズニー以上に成績を上げたのは、毎年のことながら東宝だ。昨年の11月末で、興収738億円を記録。年間では775億円前後が見込まれる。これは同社の歴代2位の成績にあたる。邦画、洋画を通して、全体のトップとなった『天気の子』はすでに141億円となり、邦画興収の歴代7位。「名探偵コナン」や「ドラえもん」シリーズを基盤に、やはりアニメーションが圧倒的に強かった。とくに『天気の子』は、スタジオジブリ作品や細田守作品などとともに、新海誠監督作品が、定番以外の強力アニメとしての位置を築いたことの意味は、同社にとって計り知れない。今や誰も指摘しないが、『君の名は。』と同じ監督の次の作品が大ヒットする保証は、確実にあるわけではなかった。監督への期待感も含めて、作品の力が素晴らしい成績に結びついたのだと思う」

他社も健闘、年間を通して“谷間なし”

――他の配給会社はどうでしたか?

「映画興行には、ある鉄則のようなものがある。大ヒットが続けば、必ずその反動があるということだ。それが、19年は違った。とくに年間を通しても、トーンダウンする傾向が高い10月から11月に踏ん張った。その牽引役が、50億円を超えた『ジョーカー』だ。東宝、ディズニー作品が一段落した少しエアポケットのような時期だっただけに、その貢献度は非常に大きかった。歴代記録が視野に入ったこともさることながら、絶えることがなかった興行の流れが、19年は抜きん出ていたと言うべきか。

実は19年は松竹、東映も興行の流れはまずまずだった。松竹は10億円以上のヒット作品が8本あった。『劇場版 うたの☆プリンスさまっ マジ LOVE キングダム』(6月~、18億円)、『ザ・ファブル』(6月~、17.6億円)、『ラブライブ! サンシャイン!!  The School Idol Movie Over the Rainbow』(1月~、14億円)、『人間失格』(9月~、13.2億円)、『引っ越し大名!』(8月~、11億円)などだ。

東映は『ONE PIECE STAMPEDE(スタンピード)(8月~、55.3億円)、『ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー』(12月~、40億円)、『翔んで埼玉』(2月~、37.6億円)が大ヒット。両社とも年間を通して歴代3位の興収が予想されている。

上を見たらキリがないが、これは2社がある程度の独自性を出したことが大きいと思っている。松竹なら、アニメの他にユニークな実写作品が並び、東映なら、やはり同社の真骨頂である国民的な人気を誇る強力アニメが基軸になった。東映は、自社企画中心の実写作品に一層の工夫が加味されれば、もっと強くなるだろう」

劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』(2019年8月9日公開) ©️尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』(2019年8月9日公開) ©️尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会

テレビ局映画は日本映画の中心軸、中でもフジが特出

――テレビ局映画の結果も気になります

「テレビ局映画は、2019年も多くの作品が盛況だった。日本テレビの『キングダム』(4月~、57.3億円)、フジテレビの『マスカレード・ホテル』(1月~、46.4億円)、テレビ朝日の『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』(8月~、26億円)、TBSの『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(9月~、22.4億円)などがヒットし、テレビ東京は『引っ越し大名』にも出資している。

テレビ局映画が、今も邦画興行の中心軸をなしているのは間違いないが、なかではフジテレビが、企画のバリエーションの多彩さで、一頭地抜けている。かつて、人気テレビドラマの映画化というのが、同局に関わらず、テレビ局映画の定番だったが、それを揺り動かそうとしているのが、この局の強さだ。他の局も、独自性を出しつつある。一時、低迷を続けたテレビ局映画は、再び勢いを盛り返してきた。若い人のテレビ離れが言われるが、テレビ局は映画事業で活力を取り戻すかもしれない」

値上げの影響は、以下のところなし

――2019年6月に、映画料金が1900円に値上げされました。

「値上げ前には、話題作の数が減って選択する作品が滞る場合を想定し、1900円を高く感じる人たちの足が映画館から遠ざかるとの意見も聞いた。

実際には、東宝とディズニーが次から次へと話題作を送り出し、松竹、東映、ワーナーなどの作品もヒットした。テレビ局映画も健在で、多彩な映画群が尽きなかったということだ。結果、料金アップへの忌避感は弱まったと見ている。

IMAX、4DX、Dolby Cinema(ドルビーシネマ)など色々な施設が次々に導入されているが、どれも料金は高い。ただ、『高い』と言いながら、IMAXなどで映画を観る若い人は多い。映画はより大きなスクリーンで観る、より音響のよいところで観るなど、映画を観るスタイルに非常にこだわりが出てきた。このあたりも見逃せない」

――特に大都市のシネコンではIMAXが盛況と聞きます。シネコンの勢いは留まる気配が見えませんか?

「忘れている人が多いようだが、かつてシネコンは郊外にあることが多く、2000年代の後半までは、映画館別の観客動員数ランキングで郊外のシネコンが上位に入っていた。その後、新宿ピカデリー(2008年にシネコンとして再オープン)あたりを皮切りに大都市の繁華街にシネコンが建設されて集客力を増していく、という現在の状況になっている。

その結果、映画興行は東京を中心とした大都市の集中化が極めて高くなってきた。しかも、新宿、日比谷、池袋など、シネコンがある繁華街に集中している。池袋は2019年に新しいシネコンがオープンしたばかりだが、すでに全国トップクラスの集客を見せている。20年にもTOHOシネマズがオープンする。

都会の若い人はクルマにそれほど頼らなくなり、電車などで繁華街に出て映画を観るスタイルに変わってきている。クルマ社会を背景にした郊外型のシネコンより、繁華街型が人気になってきた理由のひとつがそれだ。地方のシネコンでは今後、閉館するところもあるかもしれない。閉館する数が多くなればトータルの興行収入の数字にも影響が出てこよう。地方シネコンの動向にも注目したい」

***

2019年の映画興行は、興行収入も動員数も21世紀最高となる公算大だ。だが、「19年が頂点で、20年から再び減少する可能性もある」と、大高氏は指摘する。1996年の1.2億人の最低数から、ようやく1.9億人まで戻してきた観客動員数に、いったい何が起こるのか? 私たちを楽しませてくれる映画業界から、2020年代も目が離せない。

  • 解説大高宏雄

    映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員。1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」、日刊ゲンダイ「「日本映画界」最前線」、ぴあ「映画なぜなぜ産業学」などを連載。著書は『興行価値―商品としての映画論』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(同)、『映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年』(愛育社)、『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか」(同)など多数。

  • 取材・構成竹内みちまろ

    1973年、神奈川県横須賀市生まれ。法政大学文学部史学科卒業。印刷会社勤務後、エンタメ・芸能分野でフリーランスのライターに。編集プロダクション「株式会社ミニシアター通信」代表取締役。第12回長塚節文学賞優秀賞受賞。

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