死亡事故で露呈 インフルでも休めない はとバスの過酷な労働環境 | FRIDAYデジタル

死亡事故で露呈 インフルでも休めない はとバスの過酷な労働環境

事故を起こした運転手の元同僚が決死の告白

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本誌取材に応じる元同僚ドライバー。森容疑者を擁護すべく告発を決意した
本誌取材に応じる元同僚ドライバー。森容疑者を擁護すべく告発を決意した

「あの過酷な労働環境やすさみきった職場を考えれば、いつかは起こる事故だったと思います」

声を震わせながらそう告発するのは、伊藤隆夫さん(仮名・30代)。人気観光バス「はとバス」に長年勤め、昨年退職した元ドライバーだ。

12月4日の午後6時半過ぎ、東京都新宿区西新宿2丁目の路上で、ツアー運行中のはとバスが停車中のハイヤーに乗り上げる事故が発生した。車のトランクを開けて作業していたハイヤー運転手の宮崎昭夫さん(52)が下敷きになり死亡。黄色い車体で浅草や皇居など東京の名所を巡るツアーが人気を博す、はとバスの大事故は世間を驚かせた。

事故を起こしたはとバス運転手の森聡一容疑者(37)は警察病院に搬送され、インフルエンザと診断された。体調不良にもかかわらずバスを運転したことが、事故の原因と考えられている。

もちろんハンドルを握っていた森容疑者の責任は重い。しかし前出の伊藤さんは、事故の背景には、異常なまでに過酷なはとバスの労働環境があるという。

「はとバスのドライバーは、一日16時間近く拘束され、月に25日勤務することも珍しくありません。たとえば私が勤務していた頃の一日のスケジュールだと、朝7時に出勤して小学生を乗せ、15時までツアー。その後、夕方の定期観光ツアーに出かけ、戻ってくるのは22時半過ぎでした。途中の観光地で停車する際も、お客様の対応などに追われて心が休まることはなく、会社に戻った後はバスの清掃をして、家に帰るのは24時頃。翌朝8時には出勤しなくてはならず、睡眠時間もろくにとれませんでした。

特に辛いのは体調を崩したとき。人員削減のため予備ドライバーがおらず、代わりに上司である管理職が運転することになる。彼らはそれをとても嫌がるので、点呼のときに体調不良を申告しようものならキツイ口調で責められますし、治ってからもしつこく嫌味を言われます」

また、日常的なパワハラもあった。

「外部からクレームが入ると、問答無用で『説教部屋』と呼ばれる小部屋に詰め込まれ、『お前、何したんだ?』と詰問されます。理由を説明しても聞く耳を持たず、始末書を書くまで部屋から出してもらえません。こんな会社だからやめていく人はあとを絶たず、常に人手不足です」

伊藤さんは森容疑者とも親しかったという。

「そんな中でも、森はポジティブに仕事に取り組んでいた。森のバス運転手歴は10年ほど。はとバスに入社する前は海外旅行客を乗せるバスのドライバーをやっていて、はとバスに憧れて転職してきたんです。仕事熱心で、すごくいい仲間でした。休憩中でもバスを掃除しているようなマジメなやつなんです。

森は事故を起こす日の朝に市販薬を服用していたと報道されていますが、あの責任感ある森が体調不良を言い出せなかったのは、相当なプレッシャーがあったからだと思います」

拘束時間は300時間以上

国土交通省が定めたルールによると、ドライバーの一日の拘束時間は原則13時間以内、一ヵ月で260時間以内が限度だ。このルールを恒常的に破っている企業は取り締まりの対象になる。だが、本誌が独自で入手した森容疑者の今年11月の勤務記録によると、月の拘束時間は300時間を超え、一日の拘束時間が13時間を超える日も10日以上あった。これでは体調を崩すのも無理はない。そんな状況でも、体調不良を言い出せない環境だったのか。本誌が検査入院のため釈放中の森容疑者の携帯電話に連絡し、取材を申し込むと、容疑者は弱々しい声でこう答えた。

「ご想像にお任せします。業界全体に迷惑をかけてしまうので、これ以上お話しするのは難しいです」

株式会社はとバスに事実確認を行うと、広報室の担当者は次のように回答した。

「16時間近くの拘束時間になることや一ヵ月25日働く月があることは事実です。ただし、労働基準法の適用範囲内でシフトを作成しております。お客さまからご意見をいただいた際、面談し事実を確認する場合がございます。その後に報告書の作成をお願いすることはあります」

過酷な労働環境に加え、社内モラルも崩壊しているという。伊藤さんが続ける。

「実は、社内はドライバーとバスガイドの不倫天国でもあるんです。飲み会ではガイドの子と肩を組んだり、膝の上に乗っけて抱きついたりとセクハラ三昧。同郷の集まりで旅行に行ったときは、男たちでお目当ての子にお酒を強要し、部屋に連れ込もうとしていました。ガイドとの不倫が発覚して、奥さんとモメるのも日常茶飯事でした」

企業コンプライアンスに詳しい若狭勝弁護士は言う。

「会社の労働環境が悪かったことが原因での事故であれば、当然会社側にも責任が問われます。今回の場合、体調が悪いことを申告しにくい環境を会社がつくっていたならば、管理者に刑事責任が問われる可能性は十分あります」

近年頻発しているバスドライバーによる交通事故。個人の問題に帰結させるのではなく、バス業界全体の問題として取り組んでいくべきだろう。

目に涙をにじませながら、ドライバー時代の出来事を回想する伊藤隆夫さん。告発は2時間にも及んだ
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事故前、森容疑者の社員インタビューが顔写真つきで、会社のホームページに掲載されていた
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伊藤さんが勤務していた頃は、12月頭は休みがとれないことも
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「安全最優先」を謳っているはとバスだが、四半期で15件の有責事故を起こしていた
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休みの日に出勤する「公出」を要請するなど慢性的なドライバー不足だった
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基本給が7万円台のため残業代も少なかった
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伊藤さんの給与支給明細書には25日勤務したことが記されている
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『FRIDAY』2019年12月27日号より

  • 撮影樋口琢生(伊藤さん)

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