中村哲さん殺害 アフガン支援に尽力した医師が襲撃された訳

洪水から民を救い、砂漠を緑の農地へ変えた「世界の英雄」は、なぜ命を奪われたのか

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『ペシャワール会』でともに井戸掘りや農業用水路建設を行っていた中村哲医師(左)と杉山大二朗氏(右)

「10年ほど前、アフガニスタンで大洪水が起こり、先生が修復し終えたばかりの用水路から水が溢(あふ)れたことがあった。その場の誰もが呆然とするなか、先生だけは迷いもなく、修復したての用水路を壊し、下流の住民を洪水から救ったのです」

『ペシャワール会』現地派遣ワーカーとしてアフガニスタンで活動した杉山大二朗氏は、声を震わせながらそう語った。

アフガニスタン東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで12月4日、NGO『ペシャワール会』現地代表の中村哲医師(享年73)が銃撃を受けて死亡した。アフガニスタンに井戸や農業用水路を建設し、1万6500haもの砂漠を緑の農地に生まれ変わらせるなど、中村医師は命がけで現地の人々の暮らしを支えた。冒頭の杉山氏が続ける。

「大洪水のなか先生が飛び込んでいったのは、最も氾濫(はんらん)が激しく命を落としかねない場所だった。だから皆、『先生やめてくれ、危ないよ!』と止めたんです。でも先生は『住民の命が先だ!』と言ってやめなかった。その迫力に現場の男たちの士気が上がった。全員が『この男を死なせてはいけない』という思いで団結したのです。危険な場所へ自ら真っ先に入っていき、その背中を見て周りが付いてくる――中村先生はそんな男でした」

保守的で外部の人間に警戒心を示すアフガン人も、中村医師に対しては畏敬の念を抱いていた。

「長年、先生の側近として活動していたアフガン人のサルフラーズという男性がいます。彼は歴戦の軍人で、アフガン人の中でも尊敬を集めている。以前、そんな彼と先生がゲリラ軍による爆撃を受けたことがあった。そのとき、サルフラーズは一瞬で先生の前に身を投げ出し、先生を守ったのです。サルフラーズは大ケガを負いましたが、先生はおかげで無事だった。アフガン人にすら、『この人のために命をかけよう』と思わせる力が先生にはありました」(前出・杉山氏)

日本人、アフガン人を問わず尊敬されていた中村医師が、なぜ殺害されなくてはならなかったのか。現在、「黒幕の正体」として二つの説が浮上している。一つは、〝水争い〟に巻き込まれたとする見方だ。

「農業用水路が建設され、一部の住民は自分たちが住む地域の流水量が減ったと感じているようです。実際、ナンガルハル州知事のミヤヘイル氏は、『中村医師の水関連の仕事に原因があった』という趣旨の発言をしている。干ばつに悩まされるなか、住民が中村医師に筋違いの恨みを抱き襲撃に至ったとしてもおかしくはありません」(全国紙国際部記者)

もう一つの説は、タリバンやイスラム国(IS)などアフガン政府と反目し合っているテロ組織の〝ターゲット〟にされたとする見方である。

「中村医師はISなどアフガン政府のガニ大統領と敵対する勢力から命を狙われていたようです。その原因となったのは、中村医師が’18年2月にガニ大統領から勲章を授与され、今年10月には名誉市民権を贈呈されたことでしょう。これによりアフガニスタン国内でのネームバリューが上がり、テロ組織の標的にされやすくなった。テロ組織には、より有名な人物を殺害することで国内の政情不安を世界にアピールする狙いがありますから」(報道カメラマン・横田徹氏)

2年前に好きだったタバコを止め、「長生きしてあと20年は活動を続ける」と意気込んでいたという中村医師。彼を殺害した襲撃犯の行為はあまりにも愚かだが、そんな襲撃犯すら許すのが中村医師なのかもしれない。

ナンガルハル州の襲撃現場。襲撃犯は中村哲医師を待ち伏せし、確実に命を奪うために2度も銃撃したという
12月8日、成田空港にて。中村哲医師の遺体は妻の尚子さん、娘の秋子さんらとともに日本に帰還した

『FRIDAY』2019年12月27日号より

  • 写真杉山大二朗氏提供(1枚目写真) アフロ

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