女のくせに!と叩かれてもプラモデルを愛し続けたモケジョの40年 | FRIDAYデジタル

女のくせに!と叩かれてもプラモデルを愛し続けたモケジョの40年

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「もともと図画工作の授業が苦手な子供でした」

と意外なことを言うのは、プラモデルを愛する女子「モケジョ」を束ねつつ、「ホビーラボ」を主宰する“右衛門”こと、おぎのゆか氏。人から指示され、独創性を求められる物作りは体質的に合わなかったそう。

タミヤ 1/24 フェラーリXX  雑誌掲載作品。赤は色を重ねて行くうちに濃くなって黒っぽくなるので、塗装はとても神経を使う。特にフェラーリの赤は独特

「でも、編み物や刺繍などの手芸は好きでしたね。きちんと設計図があり、完成形がはっきりしている安心感と、綺麗に仕上がった時のなんとも言えない達成感がたまらなかったから。そういう意味では、プラモデルにハマった理由も同じかもしれません」

きっかけは小学3年生の時。一緒におもちゃを買いに行った叔父が、おぎの氏のお小遣いで勝手に買ってしまったポルシェのプラモデルだった。訳も分からず手伝わされるうちに、どんどん引き込まれていったと言う。

あの時代、女の子の遊びといえばリカちゃん人形やおままごとだったが、もともと人形が大の苦手。遊びの選択肢が今ほど豊富でなかった当時、周りの男の子たちは皆プラモデルに夢中だったという環境も、モケジョへの道を進んでいく要因となった。

「丁寧に部品の一つ一つを組み立て、綺麗に仕上がれば必ず褒められる。独創性を求められる図画工作には自信がなかったけれど、設計図に沿って進めていく物作りは苦にならなかったし、夢中になれました」

ただ、プラモデル作りにのめり込んでいくおぎの氏の身近な理解者は叔父のみ。母は全く理解を示さず、棚に大切に飾った完成品はしばしば“ハタキの餌食”に。

「これはもう、私に限らずプラモデル愛好家あるあるだと思いますけどね(笑)」

そんな青春時代を送り、プラモデルの魅力に憑りつかれたまま大人になったおぎの氏。手がける作品も、車から城、ガンダム、そしてジオラマ製作まで幅を広げていく。

童友社 1/500 プレミアム姫路城 平成の大改修後の姫路城ということで屋根も白目に塗装。石垣にこだわりモールドを深く刻み込み塗装。『マツコの知らない世界』にも登場した

「城の模型に『売り家』とか『コンビニまで〇分』なんて看板をつけて遊んだりして……(笑)。それだけでは飽き足らず、2000年からはホームページを作り、作品を発表することに。結果、他の模型マニアから差別的なコメントが来たり叩かれたりするんですけどね。『女にしては上手なんだね』とか『女のくせに!』とか」

まだまだ女性がマニアックな世界に参入すると排除されがちだった時代。“右衛門”という名前で活動し始めたのには、そんな面倒を避ける意味もあった。そんな空気が少し薄まってきたかな、と感じ始めた2009年にプラモデルをこよなく愛する女子5人で「モケジョ(Mokejo)」を結成。ちょうど、それまであまり表に出てこなかった「オタク女子」たちが市民権を持ち始めた頃のことだ。

「女子モデラーの第一人者であるオオゴシトモエちゃんと一緒に何かやりたい! という気持ちがきっかけで、彼女が参加してくれなければ、スタートしていなかったと思います。彼女の作品は本当にすごい! ちょうど、『山ガール』とか『〇〇女子』なんて言葉が一般的になり、有名人の可愛い子たちまでオタクであることを隠さなくなってきていたので、そろそろいいかな、というタイミングでもありました」

同志との結束を強めイベントなどでも活発に作品を発表するようになるなか、地元の仲間たちと「ホビーラボ」を設立し、代表となる。物作りのイベントを主催したり、講演会に出たり、学校や本屋の片隅でワークショップを開催したり。

「ホビーラボの仕事が本業ではありますが、それだけで食べられたわけではなく、飲食店を始め様々なバイトと掛け持ちしながらやってきました。でも、保育園や小学校の子供たちとの交流は本当に楽しくて……。まだ頭の中が固定概念に汚染されていない彼らは、例えば『恐竜は、まだ誰も本物を見たことないのよ』と伝えると、スパークして本当に面白いものを作る(笑)。

タミヤ1/35恐竜シリーズ ベロキラプトル6体セット タイトル「Surprise」 滝はサランラップと手芸用の綿、絵画用メディウム使用。植物は紙創りのミニチュアペーパーキット(http://www.kamizukuri.jp/)

現代の生活は、切符を買わずに電車に乗れたり、キーレスで車に乗れたり玄関が開いたりと、本当に『手』を使わない。ドライバーなどの工具を使える子のほうが珍しいくらいですよね。プラモデルのいいところは、やればやるほど完成度にこだわり、いろんな道具を使いたくなること。初めはパーツを手でちぎって組み立てていたのが、爪切りを使うようになり、ニッパーを使うようになり、さらに完成度を上げるために何種類ものヤスリを使うようになり……。

そしてこの趣味の楽しい副産物は、『本物を見に行きたくなる』ということ。全国の城はもちろん、モーターショーとか自動車博物館とか。ああいうところで全体像ではなく車の下に潜り込んでディテールを観察したり、ホイールの中まで覗き込んで喜んでいるのは、だいたいがモデラーです(笑)」

ハセガワ1/350戦艦三笠 司馬遼太郎作「坂上の雲」に感動し製作トライした戦艦模型

今年は「モケジョ」結成から10周年。「ホビーラボ」の法人化に向け、動き出す。

「自治体からの仕事などを受ける際、個人事業主の集団だと手続きが煩雑ということもあり法人にしようと。同世代が定年に近づくこの年齢で、会社を作ることになるとは思いませんでしたが」

子供の頃から好きなことを貫き、それが仕事として結実するとは、なんとストレスから無縁の人生……と思いきや、

「いやー、ストレスだらけですよ! 雑誌からの依頼で苦手な分野のキットを作っている時もそうだし、逆に好きなものを作らせてもらったとしても、思い入れが強すぎて、読者に絶対伝わらないところにまで凝り始めて締め切りとの戦いになるし」

と豪快に笑うおぎの氏。今後は、業界内のみならず、いろいろな企業とコラボすることで物作りの楽しさを伝えていきたいと言う。

おぎのゆか(右衛門) プロモデラー 「ホビーラボ」主宰 山梨県出身。小学3年生からプラモデルを作り続け、女子モデラーグループ「モケジョ(Mokejo)」を結成。イベントへの出品や「月刊モデルアート」など雑誌への執筆活動を続ける。2015年にはTBS系「マツコの知らない世界」に「プラモデルに人生を捧げた50歳の模型女子“モケジョ ”」として出演し、話題となる。

  • 写真提供おぎのゆか

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