筒香 秋山だけじゃないメジャーへの流出!日米経済格差の是正を

メジャーでは、日本人野手の評価が下がっていると言われて久しい。それでもメジャー挑戦を表明する選手が後を絶たないのはなぜなのか?

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2017年のWBCでの筒香嘉智。この時もDeNAと同じ背番号25だったが、移籍するレイズでも25をつけることが決まっている

NPBを代表する選手たちのMLB挑戦の流れが止まらない。このオフには西武の秋山翔吾、DeNAの筒香嘉智、広島の菊池涼介、巨人の山口俊、さらに来オフには日本ハムの有原航平と西川遥輝が移籍の意思表明をしている。過去にもこういう時期があったが、実は今回は極めて異例だ。

NPBからMLBに選手が移籍したのは1964年、南海の村上雅則が最初だが、自らの意思でMLBに挑戦したのは1995年の近鉄、野茂英雄が最初だ。野茂のドジャースでの華々しい成功を見て、以後長谷川滋利、伊良部秀輝、吉井理人などNPBのエース級投手の挑戦が相次いだ。
また2001年にオリックスのイチローが、阪神の新庄剛志とともに野手では初めてMLBに挑戦、イチローが一年目で首位打者、盗塁王、最多安打、新人王、MVPと賞を総なめすると、以後、巨人の松井秀喜、西武の松井稼頭央などNPBの野手たちが海を渡った。

これらのMLB移籍ブームは、野茂英雄、イチローなど先達の活躍があってのことだった。当時、MLBでもNPB選手への評価がうなぎのぼりとなり、MLB球団はNPBという「新しい鉱脈」を発見して、人材獲得に乗り出していた。

しかし今回のMLB移籍ブームはかなり事情が違う。

投手こそヤンキースの田中将大、カブスのダルビッシュ有、ドジャースの前田健太と、そこそこの活躍をしているが、野手は二刀流のエンゼルス、大谷翔平だけ。
ここ10年、NPBからMLBに挑戦した野手では青木宣親がまずまずの働きだったが、西岡剛、川﨑宗則、田中賢介は一度も規定打席に到達せず。中島裕之(現・宏之)に至ってはメジャー昇格も果たせないままNPBに復帰した。
MLB側のNPB打者への評価は、近年、大きく下落しているとみられる。

そんな状況で、野手を中心にMLB移籍ブームが起こったのはなぜなのか? ひとつには、ここ20年、ほとんど経済成長していないNPBの現状がある。

過去20年のNPBの最高年俸選手の推移(金額は推定 外国人選手を除く)

2000年 5.3億円 イチロー(オリックス)
2001年 5億円 松井秀喜(巨人)
2002年 6.1億円 松井秀喜(巨人)
2003年 5億円 中村紀洋(近鉄)
2004年 6.5億円 佐々木主浩(横浜)
2005年 6.5億円 佐々木主浩(横浜)
2006年 5億円 松中信彦(ソフトバンク)
2007年 5.5億円 金本知憲(阪神)
2008年 5.5億円 金本知憲(阪神)
2009年 5.5億円 金本知憲(阪神)
2010年 4.5億円 金本知憲(阪神)
2011年 5億円 ダルビッシュ有(日本ハム)
2012年 4.5億円 岩瀬仁紀(中日)
2013年 5.7億円 阿部慎之助(巨人)
2014年 6億円 阿部慎之助(巨人)
2015年 6億円 金子千尋(オリックス)
2016年 6億円 金子千尋(オリックス)、黒田博樹(広島)
2017年 5億円 金子千尋(オリックス)
2018年 5億円 柳田悠岐(ソフトバンク)
2019年 6.5億円 菅野智之(巨人)

過去20年、NPB選手の最高年俸はほとんどアップしていない。各球団の年俸総額も、40億から60億円程度で推移している。
NPBの観客動員は、今季、史上最多の2653万人余を数えたが、NPB全体として経済規模は横ばいのままだ。

この間のMLBの最高年俸の推移(Baseball Referenceより)

2000年 1571万ドル ケビン・ブラウン(ドジャース)
2001年 2200万ドル アレックス・ロドリゲス(レンジャーズ)
2002年 2200万ドル アレックス・ロドリゲス(レンジャーズ)
2003年 2200万ドル アレックス・ロドリゲス(レンジャーズ)
2004年 2250万ドル マニー・ラミレス(レッドソックス)
2005年 2600万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2006年 2168万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2007年 2343万ドル ジェイソン・ジアンビ(ヤンキース)
2008年 2800万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2009年 3300万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2010年 3300万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2011年 3200万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2012年 2900万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2013年 2800万ドル アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)
2014年 2600万ドル ザック・グレインキー(ドジャース)
2015年 3257万ドル クレイトン・カーショウ(ドジャース)
2016年 3457万ドル クレイトン・カーショウ(ドジャース)
2017年 3557万ドル クレイトン・カーショウ(ドジャース)
2018年 3557万ドル クレイトン・カーショウ(ドジャース)
2019年 4214万ドル マックス・シャーザー(ナショナルズ)

途中浮き沈みがあったが、ここ20年で3倍近くになっている。1ドルを110円とすると2000年の日米の最高年俸は、日本1に対し米3.26だったが2019年には7.13にまで広がっている。
2019年のシャーザーの4214万ドル(46.35億円)は、ソフトバンクと巨人を除くNPB10球団の年俸総額を上回っている。また総額100億円を超える大型の複数年契約も珍しくない。MLBでは選手の平均年俸も伸びている。イチローが移籍したころ、各球団のレギュラー選手の年俸は800万ドル程度だったが、今では2000万ドルクラスも珍しくなくなっている。

NPBのトップクラスの選手は5〜6億円程度を天井として、これ以上の伸びしろがなくなる。しかしMLBに移籍すれば年俸は飛躍的に伸びる可能性があるし、アスリートとしても成長の余地がある。

レイズに入団が決まった筒香嘉智は、まだメジャーで1打席も立っていないが、年俸は2年総額1200万ドル(13億2000万円)。今年のDeNAでの年俸4億円から大きく跳ね上がった。
端的に言えば、メジャー契約にこぎつけさえすれば、NPBでは手にすることができない年俸を保証されるのだ。

MLBは観客動員こそ伸び悩んでいるが、放映権、フランチャイズ、ライセンスなど各部門での売り上げを拡大させ、国際的なビジネスも展開して経済規模を大幅に拡大している。
NPBの経済規模は1800億円とされるがMLBは1兆円を超えると言われる。

こうした「経済格差」が、NPBからの人材流出を招いている。

もうひとつ言うなら近年の「フライボール革命」によって、従来非力だとされた打者も普通に二けた本塁打を記録するようになった。ボールの反発係数も上がっていると言われる。
大谷翔平の本塁打率もNPB時代よりもMLBに移籍してからの方がアップしている。
数年前とは投打のバランスが大きく変わっている。またNPBの強打者も「フライボール革命」の影響で、打法が変わりつつある。
これらの環境変化がNPB野手の背中を後押ししている可能性はあろう。

筒香や秋山らがMLBで「大活躍」といかないまでも「合格点」の成績を残せば、NPBのレギュラークラスの選手はMLBへの移籍を現実的な選択肢として考え始めるだろう。

そうなれば新たなビジネスモデルを創出せず、百年一日のごとき経営を続けるNPBは、人材流出を引き留める術はないはずだ。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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