熱狂の鍵は再現度 2.5次元舞台「肉体が衣裳」のイケメンたち | FRIDAYデジタル

熱狂の鍵は再現度 2.5次元舞台「肉体が衣裳」のイケメンたち 

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およそ226億円と大きな市場に成長した2.5次元舞台。2018年には197本のタイトルが上演され、今後も右肩上がりの成長が見込まれている。

市場が急激に成長した理由の一つとして、「2.5次元舞台の役者ファン」の熱心な活動がある。舞台鑑賞のキッカケは作品だが、舞台で役者に魅了され、今度は“推し”役者を追いかけて別作品の舞台を観るようになるという現象が起きている。

11月某日、都内で行われた合同トレーニングの風景
11月某日、都内で行われた合同トレーニングの風景

2次元ファンを3次元ファンへと変える舞台の魅力とは何か? 「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」の舞台づくりを軸に、その魅力と発展を考察する。

今作が舞台初主演となる幕之内一歩役の後藤恭路
今作が舞台初主演となる幕之内一歩役の後藤恭路

女性ファンを虜にする2.5次元舞台のしかけ

「2.5次元舞台」とは、漫画・アニメ・ゲームなど2次元作品を原作とした、3次元(現実)の舞台コンテンツの総称だ。「2.5次元」という言葉が生まれたのは、2003年初演のミュージカル『テニスの王子様』(通称「テニミュ」)などが発端だといわれている。原作キャラクターを忠実に再現した若手役者による「生」の演技を観て感激したファンの間で、自然発生的に使われるようになったのだ。だからこそ「2.5次元」という言葉には、夢と感動を与えてくれた原作(2次元)と、その作品を現実世界で再現してくれた舞台(3次元)、双方へのリスペクトが含まれているのだろう。

そして、つい最近のブームのように聞こえるが、アニメや漫画を原作とした舞台コンテンツの歴史は古い。その始まりは、1974年に初演された宝塚歌劇団の『ベルサイユのばら』だろう。当初原作ファンの中には、男装の麗人・オスカルを生身の人間が演じることに対する抵抗が少なからず存在したものの、結果的に、実際に舞台を観て宝塚の虜になったというパターンが多かったという。

現在のファンも、入り口は45年前と同じく「原作が好きだから」という理由だが、その楽しみをより広く、深く、持続できる仕組みが現在のブームを作り上げてきた。それが下記のような「楽しみの循環」だ。

①「作品をもっと楽しみたい!」潜在的欲求が膨らむ

まずは、漫画やアニメを楽しむところからスタート。作品やキャラクターの好き度が高まると、「グッズ収集」、「同人誌の売買」、「作品イベントへの参加」に発展。仲間と「好き」を共有しつつ、さらに積極的なコミュニケーション=「触れ合い」を求めるように

②「口コミでの良い評判」や「映像商品」の後押しを受け、舞台を鑑賞

③劇場で「生」の快感を味わい、「スゴイ、楽しい、もっと!」という気持ちが高まる

役者との距離の近さ=「生」の息づかいを感じ、現実感・親近感がUP!

観客を巻きこむ演出=自分も作品の世界観に入った一体感を共有

役者の出で立ちや演技からキャラクター愛を共有=役者のファンになる

④好きになった役者を追いかけて他の舞台(2.5次元以外も含む)を観るようになる

【市場への影響】作品・公演数の多さがファンの受け皿に→市場がさらに発展

【興行主への影響】資金調達の目処がたつ→質の向上や人材の発掘・育成が積極的に行われる

特に、現在のブームの強いけん引力となっているのが③と④。③段階で、作品・キャラクターへの愛情がより高まった結果、④の役者ファンが増える。45年前と現在で大きく違う点もここにあり、作品・公演数が多いためファンの熱が1つの作品に留まらず、役者を通じて他の舞台にも足が向くことだ。

また、現在のファンの大半が女性なのは、作品やキャラクターの“オリジン”を大切にする傾向が強い男性に比べ、女性のほうが多様性を大らかに受け入れられる気質があるからだと感じる。「原作も好きだけど、舞台も好き!」と、広く深く作品やキャラクターを愛し続ける情熱が、2.5次元舞台を支えているのだ。

多角的な作品分析が生み出す“リアル”

ファンを魅了する2.5次元舞台の魅力とは、ズバリ再現度の高さ。

逆をいえば、再現度が低かったり、ファンが感じている魅力と演技の方向性があまりにも違ったりする場合は、興行が振るわぬまま終演を迎えることを意味している。だからこそスタッフは、文字通り一丸となってあらゆる角度から原作を分析して「再現性」を高め、なおかつ「演劇」として楽しめるように演出を凝らすのだ。

今回取材した「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」では、かつてTVアニメで約1年半6クール全75話分、主人公・幕之内一歩を演じきった喜安浩平を、作・演出に起用。原作者の森川ジョージも太鼓判をおすほど深い彼の作品への理解度と、劇団員としての経験から、舞台での表現力にも期待が寄せられている。

そしてボクシングのシーンでは、ファイトコーディネイターの冨田昌則も一役を担う。冨田は、ミュージカル『テニスの王子様』、ミュージカル『刀剣乱舞』への役者としての出演経験があり、「美少女戦士セーラームーン」のステージコンテンツでは殺陣・アクションコーディネイトも手がけているベテラン。その冨田も、格闘技を舞台で演技として見せるのは初めての試みだという。11月某日、役者陣と一緒にトレーニングに参加した冨田は、ボクシング演出のアプローチをこう語った。

左・幕之内一歩役の後藤恭路、中・ファイトコーディネイターの冨田昌則
左・幕之内一歩役の後藤恭路、中・ファイトコーディネイターの冨田昌則

「パンチを当てずに迫力をどこまで出せるのか。それを、役者さんとのトレーニングや体を動かす遊びを通して作っています。もうひとつ、本物の試合では動きが速かったり複雑だったりして理解しづらいことも、演出として見せることができる可能性が高い。ですから、舞台を観に来てくれた人に、選手たちがリングの上で感じている痛みや危機感、緊張感を感じてもらいたいと考えています。舞台で追求するのは、そういった人間的な感覚の“リアル”です」

観客と「好き」を共有する役者が作り上げる“リアル”

では、役者たちはどんなアプローチで役づくりをしているのだろうか。

求められているのは、キャラクターを深く理解した上で、さらに役者独自の解釈や個性をのせた表現力。まずは2. 5次元舞台の経験がある3人の役者に、キャラクターへのアプローチを訊ねてみた。

宮田一郎役・滝澤諒

「やっぱり作品を愛していらっしゃる原作ファンのみなさんにも受け入れていただきたいという思いがあります。だから、外見から内面までキャラクターを理解しているというのは大前提です。その上で大切にしているのは、キャラクターを好きでいること。好きになればなるほど、そのキャラクターの良い部分も悪い部分もクリアになる。それを全部丸ごと舞台で出して、お客さんと共有したいと思っています。

個人的に“好き”と“演技”は、別に表現できることがあると思っていて、演技は考えてやっていける部分もありますが、好きでいると、自分が思ってもみなかった部分でキャラクターとリンクしていける気がします」(宮田一郎役・滝澤諒)

千堂武士役・松田凌

「2.5次元の舞台では、原作に対する責任が伴います。僕はまず自分が役者として表現したいことが半分、残りは原作への尊敬と愛で演じています。それが原作を愛し、そして僕の演じる役を愛してくれる人に対する役者としての責任だと思っていて。両立は難しいことだとは思いますが、演じると決めた以上責任をまっとうします」(千堂武士役・松田凌)

鷹村守役・滝川広大

「100%キャラクターになるのは不可能かもしれませんが、諦めずにできる限り近づけていくのが大切だと思っています。原作では描かれていないけれども、普段の鷹村守はこういう姿じゃないのかな、こんな一面があるんじゃないのかなという見方に変換できるくらい、キャラクターを愛して役を作っていけば、きっとお客さんに届くものがあると信じていて。自分が演じるキャラクターをいかに愛していただけるかが、目標です」(鷹村守役・滝川広大)

役者は個々でキャラクターを深め、さらにトレーニングや稽古を通して、演出家や他の出演者といっしょに役をなじませていく。そうして作り上げた場と役の一体感が、「私が好きなキャラクターが実際にいる!」と観客に思わせるリアリティの表現に繋がるのだ。

さらに「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」では、「肉体が衣裳」という合い言葉のもと、役者がトレーニングに励んでいる。特に、今作が本格的な舞台デビューとなる幕之内一歩役の後藤恭路は、キャラクターさながらの真面目さで目の前の課題に取り組んでいた。

幕之内一歩役・後藤恭路

「一歩は本当にすごい筋肉を持っているので、本番までにきちんと体を作り上げていきたいです。ファイティングスタイルも説得力が出るように、原作の一歩のモデルになったマイク・タイソンの試合映像を観て研究していて。デンプシー・ロールも、モデルとなったジャック・デンプシーの映像と原作を比較しながら、両方のパターンでできるように自主練習しています。

8の字を描く動きは同じなんですが、一歩は右・左・右・左と交互にパンチを打って、ジャックは左2発で右1発というようにランダム。僕は交互で打たないジャックのやり方がやりやすいんですが、その原因は一歩のような下半身の筋力がないために、遠心力で体が振られてしまうこと。だから一歩と同じ打ち方ができるように、階段を走って昇るなど下半身を鍛えています」(幕之内一歩役・後藤恭路)

その一歩を指導する鴨川ジムの会長・鴨川源二役は、『名探偵コナン』の高木刑事役でおなじみの高木渉。TVアニメで青木勝を演じていた縁で、初の2.5次元舞台への出演となった。20代が多いボクサー役キャスト陣に混じって、同じトレーニングを受けている。

鴨川ジム会長 鴨川源二役・高木渉

「トレーナー側の役割は、選手にやる気を出させたり、気持ちを鼓舞したりすること。そういう意味で、ミット打ちでもいい音を出してあげたい。そういう演出を、生の迫力でお客さんに味わっていただきたいと思うと、ひとりでやれる仕事ではなく、ボクサー役みんなと力を合わせる必要があると思います。

初心者の僕には無謀な挑戦だと思うんですが、みんなといっしょに基礎から学びながら、舞台で迫力のあるお芝居として見せられるものにしていくという心構えでやっています。ぎっくり腰にならないようにがんばりますよ!」(鴨川ジム会長 鴨川源二役・高木渉)

「ここまで理解して演じているんだ!」という感動で、観た者はその役者のファンになる。劇場ならではの距離の近さ、生身の人間が演じるからこそ感じる息づかい、演出としての客席いじりなども、役者を身近に感じさせてくれる要素。そういった“リアル”も、2.5次元舞台の魅力だろう。

 

舞台コンテンツでは、演出家・役者だけでなく観客も舞台の一部。好きな作品やキャラクターへの愛を共有しながら作品を楽しむ2.5次元舞台の体験は、ひとりで楽しむのが基本だった漫画やアニメ、ゲームの世界を3次元に引き寄せ、新たな楽しみ方を提示したといえる。

2000年以降、ストリーミングサービスなどで客足が遠のいていた演劇界も、2.5次元舞台の成功で活気づいており、小劇場で力を培ってきた演出家や脚本家の参加はもちろんのこと、若手俳優の登竜門にもなっている。城田優や斎藤工、窪田正孝、佐野岳、井上正大、真剣佑も、2.5次元舞台で頭角を現した後にメジャーになった俳優。こうした“未来の原石”に会えるとあって、原作ファン以外の新規ファンも増やしており、さらなる発展に注目だ。

左から、滝川広大、滝澤諒、後藤恭路、冨田昌則、松田凌、高木渉
左から、滝川広大、滝澤諒、後藤恭路、冨田昌則、松田凌、高木渉

 

「リアルファイティング『はじめの一歩』The Glorious Stage!!」 2020年1月31日(金) ~ 2月9日(日) 品川プリンスホテル ステラボール 〒108-0074 東京都港区高輪4-10-30 マクセル アクアパーク品川内 チケット料金:8,000円(全席指定・税込) 一般発売日:2019年12月22日(日)10:00~

  • 取材・文中村美奈子撮影田中祐介

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