1億円を詐取「木嶋佳苗の闇」 結婚詐欺犯は連続殺人者だった 

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第38回

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結婚詐欺で逮捕された女性が、実は多くの不審死に関わっていた事件は、大きな注目を集めた。犯人の木嶋佳苗は、逮捕された後も獄中から手記を発表したり、獄中結婚を行うなど、その言動にはいまでも関心が寄せられている。ノンフィクションライターの小野一光氏が当時の取材メモから事件の背景を振り返る。

09年6月、渋谷区にある料理学校の修了式に出席した木嶋

2009年9月25日に最初の詐欺容疑での逮捕に始まり、結果として3件の殺人と6件の詐欺・同未遂、1件の窃盗の罪が問われた「首都圏連続不審死事件」。交際相手に結婚をちらつかせて現金を騙し取り、ときに殺人にまで及んでいた犯人の木嶋佳苗(逮捕時34)には、さいたま地裁で開かれた裁判員裁判で、12年4月13日に死刑判決が言い渡された。その後の控訴審、上告審を経て、17年5月9日に死刑が確定。彼女は現在、東京拘置所に死刑囚として収監されている。

この事件については、木嶋が埼玉県警に逮捕されてしばらくしてから、彼女の周辺で不審死が相次いでいるとの情報がもたらされていた。そのため、同年11月には木嶋について、「知人男性が連続不審死している、婚活サギ犯の”K被告”」との扱いで、記事を掲載した。そこでは、死亡した男性のうち2名について取り上げており、警察担当記者から聞いた話を以下のように記述している。

「今年(09年)5月には、K被告が訪問介護と称して出入りしていた千葉県野田市のAさん(当時80=本文実名)が、自宅を全焼する火事で死亡しています。また、8月には都内の会社員・Bさん(当時41=本文実名)が埼玉県富士見市で、施錠されたレンタカーの後部座席で死亡しているのが発見されました。Bさんの死因は、練炭による一酸化炭素中毒。奇妙なことに、二人とも遺体から睡眠薬成分が検出されており、Aさん宅からも燃え残った練炭が見つかっています」

まだ殺人容疑では逮捕されていない木嶋が、詐欺については容疑を認めるものの、殺人への関与を全面的に否定しているなか、こうした”疑惑”について具体的に触れた記事を出したのには理由がある。Bさんから検出された睡眠薬の成分が、木嶋が処方されていた睡眠薬と一致していたこと、さらには彼女のパソコンを解析した結果、ネット上で練炭を大量購入していたことが判明したという、捜査関係者の情報が入っていたからだ。

また実際に私は、医療関係者から次のような証言を得ていた。

「木嶋には07年頃からかかりつけにしているX医院という病院があり、そこで寝つけないと症状を訴えて、睡眠導入剤を処方してもらっていました。なんでも、彼女自身が過去に処方された薬3種類のメモを読み上げ、それらが1回につき2週間分処方されており、まずAを飲み、それでも寝つけないときはBを、さらにそれでもダメならCという使い方をするようになっていたとのことです。そうしたことが多いときは月に2回くらいあり、X病院には今年5月28日に千葉県警、8月11日には埼玉県警が事情を聴きにやってきました。埼玉県警の捜査員に対して、前に同じような話を聞きたいと千葉県警の捜査員が来たということを説明したところ、そのことは初耳だったみたいで、驚いていたようです」

Aさんの死亡が千葉県警、Bさんの死亡が埼玉県警の所管であることは言うまでもない。こうした裏付けを経て、警察が両者の死に疑惑を抱いているとの記事の掲載に踏み切ったのである。

同時期、記事には反映されなかったが、駐車場に停めていたバイクに、木嶋が運転していた赤いベンツをぶつけられた美容室店主の話なども、彼女の二面性を表すエピソードとして興味深いものがあった。同店主は言う。

「近所の駐車場に僕とスタッフのバイクを停めていたところ、(09年)6月にその背後が駐車位置だった彼女の車が車止めを乗り越えてぶつかったんです。すぐにうちの店に電話がかかってきて、申し訳ないということと、警察に連絡を入れて事故証明を取り、保険会社が入るということを説明してきました。非常に丁寧な感じで、そのときの印象は悪くなかったんです。ただ、それから1カ月近く、保険会社からなにも連絡がなかったんですね。それでバイクが使えなくて困っているから、せめて交通費を請求させてほしいと保険会社に連絡しました。そうしたら数日後、彼女から店に電話がかかってきたのですが、以前とはまるで違う印象で、最初から喧嘩腰で『(駐車場の)大家さんから聞かれました?』と口にし、『おたくのスタッフのバイクの停め方、なんとかならないんですか?』と、まるでこちらのバイクの停め方が悪いようなことを言い出したんです。私が呆れて言葉を失っていると、『私はもう引っ越しますから、もうなにも関係ないんですけどね』との捨て台詞を吐いて、電話は切られました」

結果として保険会社が動き、壊れたバイクの修理はちゃんと保障されたが、その電話の後味があまりにも悪かったため、彼女のことを覚えていたというのである。

2010年2月2日、送検される木嶋佳苗

こうしたエピソードが、都内にある木嶋の自宅マンション周辺に限らず、彼女の出身地である北海道・別海町や、さらには通っていた料理教室など、取材の範囲が広がるにつれて、いたるところで集まった。また、その渦中で木嶋の名前は「K被告」ではなく、実名で報じられるようになる。そうしたことも相まって、彼女が学生時代からやっていた援助交際について本人から話を聞いた同級生の証言や、上京後に「父親よりも年上の男性から月に50万円の手当を貰っている」との連絡を受けた知人の証言なども飛び出してきた。

さらに、逮捕前の木嶋はブログを開設していたのだが、そのなかで頻繁に滞在したと記される、福島県の裏磐梯にあるリゾートホテルを取材したところ、被害に遭った男性たちとは明らかに別の男性との”逢瀬”があったことも判明した。同ホテル関係者は次のように明かす。

「彼女は(09年の)2年くらい前から、年に4~5回くらい来ていました。いつも決まった男性と一緒で、男性はがっちりした体型で痩せマッチョといった感じ。カネは女性が支払うことが多かったと思います。べたべたしたりはせず、女性が主導権を握っている様子でした。歩くときはいつも彼女が先でしたね。最後に二人で来たのは今年の7月です」

木嶋が被害者たちから得ていた金額は総額1億円に上る。しかし逮捕時に彼女の貯金はほとんどなく、贅沢な日々の生活や、こうした豪遊の数々に費やされたと見られている。

殺人について、木嶋が一貫して否認を続けるなか、事件が新局面を迎えたのは10年2月1日のこと。埼玉県警がBさんに対する殺人容疑で彼女を再逮捕したのである。やがて東京都青梅市の会社員Cさん(当時53)、さらにAさんへの殺人容疑での再逮捕が、立件のハードルの高さを物語るように時間を空けて続き、捜査はようやく終結したのだった。

なお、最初の逮捕から約2年3カ月後の12年1月10日の初公判でも、木嶋は殺人については否認しており、罪状認否の際には「私は殺していません」と述べるなど、それを覆すことは一度もなかった。

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか。最新刊は『震災風俗嬢』(集英社文庫)

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