「ベンツに勝て」BMWジャパンで横行したディーラーいじめの実態

「もう失うものは何もない」元販売店社長が怒りの実名告発

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東京・練馬区にあるBMW販売店。告発者である横山氏は’17年9月末までこの店舗のオーナーを務めていた

「状況が変わったのは’13年頃。BMWから課されるノルマが過剰に増え始めたのです。本来、日本全国のディーラーを合わせても年間で販売可能な台数は3万5000台ほど。しかし、現在全国のディーラーに課されたノルマは計5万8000台。このギャップを埋めるため、ディーラーは月に何億円もかけてBMWの『新古車』を作らされるのです」

’17年9月末に高級輸入車・BMWの正規ディーラー契約を打ち切られた横山健治氏(63)は、切々とそう語った。

いま、車好きの間で密(ひそ)かに囁(ささや)かれている噂がある。「BMWの『新古車』が市場に溢(あふ)れ返っている」というものだ。

「新古車」とは、ディーラーが販売ノルマをクリアするために自ら購入した新車同然の車両のこと。運輸支局に所有者登録し、ナンバープレートが付いただけなので、走行距離がほぼ0㎞の場合も多い。それでも価格は中古車並みに下落する。

客にとっては喜ばしい状況に見えるこの現状。だが、その裏にはBMWジャパンと全国のディーラーとの間で交わされた、〝奴隷契約〟とも言うべき悪質な内容の契約が存在していたのである。

今回、元ディーラーの横山氏が「もう失うものは何もない」と本誌に契約の実態を告発。BMWジャパンからディーラー契約を一方的に打ち切られるまでの経緯をすべて語った――。

「何が何でもベンツに勝て」

「初めてBMWとディーラー契約を結んだのは’86年10月。BMW側から頼み込まれて契約を結んだ形です。当時はBMWが日本に進出してきたばかりでディーラーの立場のほうが上でしたからね。

契約書には、『2年ごとに契約を更新』し、『ディーラーが販売目標を達成できず、また目標達成の努力をしていないと見なされる場合、BMWはディーラーとの契約を解除できる』と書かれていた。しかし、当時のディーラー優位の状況からすれば、一方的な契約解除なんて想像も付きませんでしたし、実際、20年以上はほぼ自動的に契約が更新されていました」

東京・練馬区で順調にBMW車両の販売を続けてきた横山氏。しかし’13年後半、ドイツにあるBMW本社からのある〝至上命令〟をきっかけに、横山氏を取り巻く状況は一気に変わった。

「’13年頃からライバル社であるメルセデス・ベンツとの売り上げ競争が激化し始めました。ドイツ本社からは日本に、『必ずベンツに勝て』との命令が下され、’14年には売り上げ至上主義の社長がドイツから派遣された。すると、BMWジャパンはディーラーに対して過剰なノルマを課すようになったのです。

ノルマは正式名称を『計画台数』と言い、実際にお客様に買っていただいた台数とは少し違う。『計画台数』は簡単に言えば、『販売台数』+『自社登録した新古車の台数』。自動車業界で実績として重視されるのは、この『計画台数』なのです」

’13年以降は『計画台数』が異常に増え続け、数十台もの新車を自ら購入しなければノルマを達成できなくなった。

「『計画台数』をクリアすると、BMWから数千万円のボーナスが貰えるんです。このボーナスが無ければディーラーの経営はそもそも成り立たないので、我々も数台の新古車登録なら従います。しかし、’13年以降は『計画台数』の4割は自社で登録した新古車という状況になり、ボーナスを貰っても新古車登録にかかった費用を補えなくなりました」

横山氏が経営するディーラーの収支状況は年々悪化。’13年度は102%だったノルマ達成率も、契約を打ち切られる前年の’16年度には71%まで下落した。

「この頃になると、BMWから圧力をかけられるようになりました。毎月末、『このペースだとノルマは達成できないぞ』と電話がくる。部下の中には、BMW社員から『ふざけんなコラ!』というような恫喝紛(どうかつまが)いの電話を受けた者もいました。私も言われたセリフは、『自社登録をしていないのはお宅だけだ』とか、『お宅のディーラー権を剥奪(はくだつ)し、販売エリアを拡大したがっている別の会社に譲渡するぞ』というもの。この電話が怖くて、毎月末は夜も眠れないほど苦しめられました。

私だけでなく、全国にある他のBMWのディーラーも同じ目に遭っている。このような強権的な手法を続けていては、BMWの経営は破綻していくでしょう」

自費での店舗建て替えを要求

ノルマ未達成が続く横山氏を見限ったのか、BMWは横山氏に無理難題を押し付け、強制的な契約解除に動き始めた。

「’15年、BMWから突如、『自費で5億円を出してショールームの建て替えをしろ』と迫られました。当時の経営状況からして、当然そんな金額の投資が可能なはずもなく、我が社は店舗の建て替えをすることができませんでした」

この結果を受け、BMWは’16年1月、書面で’16年末に横山氏との契約を解除する旨を一方的に通知した。

「頭が真っ白になったのを覚えています。従業員も在庫も抱えているのに、急に会社を潰(つぶ)すと宣告されたのですから。結局、我が社は’17年9月末で契約を解消されました。抱えた負債は約3億円。30年間も契約を結んできたビジネスパートナーに対する仕打ちがこれかと、あまりにあっけない最後に呆然としました。

これは『投資の約束を守らなかった』ことを口実に我が社との契約を切る、BMWの策略です。その証拠に、我が社に代わって店舗を引き継いだディーラーは、契約開始から2年経った今でもショールームの建て替えをしていませんから」

現在、横山氏はBMWジャパンを相手取り、負債の約3億円を損害賠償として請求する民事裁判を起こしている。

「問題の根源は、『2年契約』『ノルマを達成できなければ打ち切り』そして『ノルマ達成時のボーナスがあってやっとディーラーの経営が成り立つ』というシステムにあります。この〝奴隷契約〟を解消しなければ今後も多くのディーラーが立ち行かなくなるはず。私の告発をきっかけに、少しでもBMWとディーラーとの間の力の差が解消され、公正で平等な契約が交わされるよう願っています」

本誌はディーラーとの契約内容についてBMWジャパンに質問状を送ったところ、「コメントは差し控えさせていただきます」との回答を得た。

BMWがディーラーに課した一方的な契約について、企業コンプライアンスに詳しい弁護士の郷原信郎氏はこう語る。

「BMW側が実情を意図的に隠して契約を交わし、ショールーム建設など多額の投資をさせたとすれば、民事上の不法行為責任を問われる可能性がある。さらに、新車を強制的にディーラーに買い取らせていた場合、『優越的地位の濫用』で独占禁止法違反に問われるかもしれません」

ブランド力は信用によって成り立っている。このようなディーラーいじめを続けていては、BMWのブランド力は地に落ちてしまうだろう。

3億円の負債を抱えたまま一方的に契約を切られた元ディーラーの横山氏。本誌に契約の実態を告発した
9月に公正取引委員会が入ったことを受け、11月にBMWジャパンは全国のディーラーへ説明の場を設けた
’19年7月末までBMWジャパンの社長を務めたペーター・クロンシュナーブル氏。強権的な経営手法をとった
’16年1月、それまで約30年間ディーラー契約を結び続けてきた横山氏のもとに突然、BMWジャパンから「’16年末で契約を解消する」旨の通知書が届いた

『FRIDAY』2020年1月3日号より

  • 撮影結束武郎写真時事通信社(4枚目)

Photo Gallary5

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