わたせせいぞうに志磨遼平が聞く『ハートカクテル』制作秘話!

若者よ、どんどん恋愛しよう。そしてどんどん傷つこう!

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わたせせいぞう氏(左)と志磨遼平氏

わたせせいぞう氏といえば言わずと知れた『ハートカクテル』の作者。80~90年代の若者のライフスタイルに大きな影響を与えた大ヒット作だ。そのわたせ氏が2019年、画業45周年という節目を迎えた。さらに、受注生産となる『ハートカクテル』35周年を記念した豪華な画集も発売になっている。そこでご本人にインタビューをお願いし、『ハートカクテル』の制作にまつわるこぼれ話、さらにはその世界観はいかにして出来上がったかを伺ってみた。インタビュアーは『ハートカクテル』の大ファンを公言している気鋭のミュージシャン、ドレスコーズの志磨遼平氏。意外な組み合わせのインタビューで、意外な話が飛び出した。

志磨遼平と『ハートカクテル』の出会い

志磨:いつもはインタビューされるほうなので、至らないところがあると思いますが、今日はよろしくお願いいたします。
わたせ:こちらこそ、よろしくお願いします。志磨さんはおいくつなんですか?
志磨:37歳です。
わたせ:そんなお若いのに読んでくれてたんですか!(『ハートカクテル』は1983年に連載開始)
志磨:小学校低学年の頃なんですけど、日曜にいつも家族で行くカフェのようなお店があったんです。そこの本棚に『ハートカクテル』の1巻~3巻までが置いてあって、行くたびに読んでました。1990年前後だったと思います。
わたせ:へーえ、ありがたいことですねぇ。

『お元気ですかァ?』より
『人魚がため息をついたテーブル』より

志磨:そもそもどういった経緯で連載を始められたんですか?
わたせ:当時の「モーニング」の編集長から電話があって「お目にかかれませんか」と。それでお会いしてみたら「カラ-4ページ差し上げますから描いてもらえませんか」って。もう嬉しくて二つ返事で「是非やらせてください」と。
志磨:へえ! 最初から「カラーで」というオーダーだったんですね。
わたせ:そうなんです。その編集長が、僕が他誌でカラーで描いたのを見てくれてたみたいで。でも、カラ-4ページっていうスタイルが僕にとってはちょうど良かった。しかも注文は何にもなくて「どうぞ好きに描いてください」と言ってくれたのもありがたかった。『ハートカクテル』は俳句みたいなもので、話の前後は読者に想像してもらえるように描いてました。

志磨:ご自身で印象に残ってる回はありますか?
わたせ:今回の画集にも収録したんですけど、一つは『思い出ワンクッション』。これは女性の手鏡を使って何かできないか、と考えていた時に事務所に行ってブラインドを上げたら光がサーっと射してきた。「あ、これだ」とラストシーンがひらめいたんです。もう一つは『ごく限られた地方に降った雪』。これは雪が降らない晴れの日に、どうやったら「雪が降った」となるかな、って大人の世界を描いたものですね。
志磨:うわあ、おしゃれ!  憧れました。僕は大人になったら、天井にファンがついてる部屋に住んで、庭にはコリアンダーが植えてあって、朝はタバスコ入りのトマトジュースを飲むみたいな生活をするぞ、と思ってたんですが、途中で音楽を好きになって、薄暗い部屋で曲を書く不健康な生活になっちゃいました。だからいまだに憧れというか、未練みたいなものがあるんです。
わたせ:それがあるのは大事なことじゃないですかね。「もう一つの道」というか。あの交差点で右じゃなくて左に曲がってたらどうなったかな、とかね。また今からでもそんな交差点にぶつかるかもしれないしね。多様でいいんじゃないかと思いますよ。
志磨:あ、なるほど。そうですよね。
わたせ:僕の父親もね、絵描きになりたかったんだけど、芸大の受験に3回失敗して、九州に呼び戻されるんです。祖父は医者で、後を継がそうと思ったんですね。でも、九州に戻る途中で神戸で降りちゃって。小磯良平さんという高名な画家がいるんですけど、彼に師事するためにね。僕が絵に興味を持ったのも父親の影響です。で、大学を出ると神戸の倉庫会社に勤めるんですけど、最初に行った日にデスクに綺麗な人が座ってて、それが僕の母親です。
志磨:うわあ、すごい! まるで『ハートカクテル』みたいなエピソードですね。
わたせ:だから神戸ってすごくロマンチックなイメージがありますね。

わたせせいぞう氏に熱く質問する志磨遼平氏

わたせと志磨、それぞれの作品作りについて

志磨:ご自身の恋愛は作品に反映されてますか?
わたせ:逆に志磨さんはどうですか? 曲作りに反映されてます?
志磨:そうですね、反映しますね。ラブソングは聴くのも歌うのも好きなので、どんなテーマで曲を作っても結局ラブソングになりがちですね。
わたせ:やっぱり恋愛って大切ですよね。絶対に大切。A地点からB地点までの恋愛をするんですよ、僕らは。だけど、さらにCとかDとかEとかもあるかもしれないじゃないですか。それを想像しちゃうんです。あの時、駅で別れたけど、電車を1本見送って一緒にいたらどうなったか、とかね。そこから話を作るんです。ですからAからBへのリアルな恋愛は絶対に必要なんです。
志磨:うわー! すごい。わたせさんメソッドですね。
わたせ:実際の恋愛だと修羅場があったり、セックスだってするけど、それを描いたってつまらないでしょ。だからもっと違うところで心を通わせたことなんかを描いてます。終わった恋とか、昔の恋を思い出してとかね。だから振られた話とか男のヤセ我慢の話が多いかな。
志磨:キスシーンもほぼないですもんね。僕は振られた相手に泣いてすがりつくとか絶対にできないんですけど、きっと小さい頃から読んでいる『ハートカクテル』の刷り込みでヤセ我慢してるのかもしれません。

熱心に質問に答えるわたせせいぞう氏

わたせ:若い人によく言うのは「とにかく恋愛しろ」と。嬉しいとか楽しいとかつらいとか、恋愛したら感情の振れ幅が何十倍にもなるからってね。以前に講演をした時に、聞いていた高校生が「よくあんなキザなこと言えるな」って言っててね。だから言ってやったんですよ。「キミも恋愛したらもっとキザなことを言うようになるよ」って。
志磨:あははは、確かにそうですよねぇ。
わたせ:今の若い男の子って、恋愛にビビってるんですよ。傷つくのが怖いって。だからとにかく恋愛しろ、どんどん傷つけって言いたいですね。それによって人生がうんと豊かになるんだから。ただ、いまは社会全体に余裕がなくなってる感じはしますけど。
志磨:社会の余裕って言えば『グリーンの軌跡』の回で、芝刈りのアルバイトをしてる主人公が途中で小休止だって昼寝をしちゃうじゃないですか。それを見て雇い主が「おーい君っ! 気分でも悪いのか?」って声をかけるんです。今だと「サボってんじゃねー! 金払わねーぞ」って怒鳴られそうですよね。余裕があって若者にも寛容な時代だったんだなあと思います。

これが『グリーンの軌跡』

わたせ:ところで、僕は仕事にかかる時はいつも音楽をかけてるんです。インストをね。それによってイメージを膨らませて、イラストやマンガを描いてるんです。志磨さんは曲作りの時に何か頼ってるものってありますか?
志磨:うーん、これといったものはありませんが、最近は煮詰まった時でも寝ないで仕上げるようにしていますね。以前はまた明日、って寝ちゃってたんですけど、忌野清志郎さんが「芸術の神様は深夜2時に降りてくる」って言ってたのを信じて。だから最近は根を詰めて明け方までやってます。よく、夜中に書いたラブレターはろくでもないから送るなって話がありますけど、僕の場合は夜中に書いた詞を次の日に読んでみると「これ誰が書いたんだ?」みたいな思いもよらないものが出来てたりして面白いから、そのままにしちゃうんですよ。
わたせ:そういえば歌い方とか忌野清志郎さんに似てますよね。
志磨:うわあ! 聴いてくださったんですか。ありがとうございます。
わたせ:でも僕もね、広告用のイラストで女性を描く時にね、夜中、下描きを鉛筆で入れるでしょ。そのあと一晩枕元に置いておくのね。まあ添い寝ですね。すると翌朝その女性が言うんです。「私、こんなに二の腕が太いかしら?」とか。もちろん実際には聞こえませんけど(笑)。
志磨:あははは、とてもいいお話ですね。あと、ご本人を前にして恥ずかしいんですけど、僕の初期の頃の歌詞って「だヮ」とか「だョ」とか語尾をカタカナの小文字にしてたんですけど、それはわたせさんの真似です。
わたせ:ああ、確かにセリフでもト書きでも小さいカタカナが多かったですからね。でも嬉しいですねぇ、こんなに若い人がずっと読んでてくれたなんて。
志磨:子供だったので全部が全部「わかるわかる」とはならないんですけど、ちゃんと理解してたと思います。恋愛なんかまだしたこともないけれど、ああロマンチックだなあ、とか、いつか僕もこんな気持ちを味わうのかなあって思いながら読んでました。
わたせ:そうなんですねぇ。作品を作る時に大人向けと決めつけたり、分かりやすいようにって目線を下げちゃダメなんですね。子供の力って侮っちゃいけないんですよ。

志磨:今後のご予定は何かありますか?
わたせ:「You Tube」を始めたいですね。僕が話を考えて、若いミュージシャンに曲をつけてもらってね。
志磨:インスト、作ります!(笑)
わたせ:その時はお願いしますよ(笑)。

【わたせせいぞうプロフィール】

1945年、神戸市で生まれ北九州市で育つ。早稲田大学法学部を卒業後、損害保険の会社で営業マンとして働く傍ら画業を開始。1983年~1989年に『モーニング』で代表作『ハートカクテル』を連載。

【志磨遼平プロフィール】

1982年、和歌山県出身。2010年にロックバンド毛皮のマリーズでメジャーデビュー。2011年の日本武道館公演をもって解散する。2012年、4人組のドレスコーズ結成。2014年9月に志磨以外のメンバーがバンドを脱退。以降は志磨の単独体制となり、ゲストプレイヤーを迎えてライブ活動や作品制作を行っている。最新アルバムは2019年5月に発表した「ジャズ」。11月20日にはライブBlu-ray / DVD「ルーディエスタ / アンチクライスタ the dresscodes A.K.A. LIVE!」をリリースした。

作品展のお知らせ
2020年1月4日(土)~13日(月・祝)大丸京都店
くわしくはアップルファーム http://www.apple-farm.co.jp/index.html

受注生産
『わたせせいぞう画業45周年 ハートカクテル 35th Anniversary A collection of works』(発行:講談社)
〇収納ケース:(約)天地271×左右376×束22mm
〇複製原画:B4サイズ(20枚収録)
2020年1月16日発売「モーニング」7号掲載の新作4ページを含む。
〇わたせせいぞう氏の挨拶文と各作品の索引を同封。
〇わたせせいぞう氏の直筆サインを入れてお届けします。
価格:本体32000円(税別)
*別途発送手数料がかかります。

講談社オンラインストアにて申し込み受け付け中。
https://kodanshaonlinestore.jp/products/detail.php?product_id=319
締め切り:2020年1月31日23時59分まで
発送は2020年2月中旬より順次発送予定。
  • 撮影松本時代

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