17歳で人生の岐路 ザギトワが引退報道を即否定した本当の理由
熾烈な「回転競争」と一線を画す五輪女王の願い
「今季はもう大会に出場しない。私はすべてを手に入れた。スタート地点に立とうという意志を取り戻したい」
12月13日、ロシアの国営テレビでこう語ったアリーナ・ザギトワ(17)。’18年2月に平昌五輪で金メダルを獲得してからわずか2年弱。あまりに早い〝引退宣言〟に世界中が困惑した。だがその2日後、ザギトワは自身のインスタグラムで引退を否定。騒動の真相に注目が集まっている。
思えば平昌五輪以後のザギトワは成績低迷が続いていた。’18年12月にはロシア選手権で表彰台を逃し、’19年12月のグランプリファイナルではロシアの年下選手らに惨敗を喫している。
不調の原因の一つは、身長が伸びたことによる体型の変化だという。元フィギュア女子日本代表で現在はプロスケーターの渡部絵美氏はこう語る。
「ここ2年ほどで、ザギトワの身長は7㎝ほど伸びたと言われている。身体のバランスが変わるとジャンプの跳び方も変えなければならない。17歳の身体は日に日に成長するため、ザギトワも毎日、ジャンプの跳び方を調整する必要があるのです」
高得点ジャンプを跳ぶ選手が増えていることも、ザギトワの成績が振るわない理由の一つだ。
「現在の採点方法では、4回転を跳ぶ選手が圧倒的に有利です。例えば、同じサルコウジャンプでも4回転サルコウは3回転サルコウの倍以上の基礎点が付く。3回転だけを跳ぶザギトワが4回転ジャンパーの得点を上回るのは、至難の業と言えるでしょう」(日本フィギュアスケーティングインストラクター協会副理事長・大西勝敬氏)
だが、ここで終わるザギトワではない。彼女にはほかの選手には真似できない強みがあるのだ。
「ザギトワの持ち味はキレのある動き、観客を魅了する表現力、そして、クセがなく滑らかなスケーティングです。4回転がもてはやされる時代ですが、彼女は自身の美しいスケーティングが再び評価されることを願って、『リンクに戻ってきます』との意志を示したのでしょう」(前出・渡部氏)
17歳で競技人生の岐路に立ったザギトワだが、その演技を評価するのか、しないのか。フィギュアスケートという競技もひとつの岐路に立たされているのかもしれない。
写真:時事通信社