田村優 ONE TEAMが敵同士で激突するトップリーグでの目標
W杯ベスト8を達成したスタンドオフが、激闘の舞台裏、新たな抱負を語る独占インタビュー
日本中を熱狂させたラグビーW杯から2ヵ月。決勝トーナメント進出という偉業を達成した興奮はいまだ冷めやらない。代表メンバーは年明けに開幕するトップリーグへの準備の他に取材やテレビ出演に追われる日々だ。田村のもとにもメディアからの依頼が殺到したという。
「W杯が終わった直後はめちゃめちゃ忙しかったんですが、強引に1週間空けてもらって、家族で宮古島に行きました」
W杯のオープニングゲームでもあったロシア戦。プール戦の対戦相手4チームの中では唯一格下と言える相手だった。しかし、開始早々の4分、ハイパントの処理ミスからロシアが先制。ぎこちなさを感じさせるスタートだった。
「開幕戦のプレッシャーなどもあって、前日もあまり寝られず、体調も良くなくて。勝って当たり前であるうえに勝ち点を5ポイント獲らなきゃいけなかった。相手に手こずったというよりは自分たちの心の持ち方が難しく、そういう点では一番難しい試合だったなと思います」
最初の20分で「勝てる」と
序盤苦しめられながらも勝利した日本。第2戦目の相手はW杯開幕時点で世界1位だったアイルランドだった。当然、前評判では圧倒的に敵方が有利。だが、田村には勝つ自信があったという。
「最初に相手に12点取られましたけど、開始20分ぐらいで、僕は『絶対イケるな』と思っていました。トライを奪われた一瞬以外はしっかりと集中できていて、自分たちのほうが勝っているという手応えを皆、感じていました。日本の一番の課題である体格を武器にしたコンタクトプレーでも負けていなかった。だから勝ったときも、4年前に南アフリカに勝ったときほどの衝撃はなかったです。普通にやって普通に勝った、という感じです」
結果は19対12。過去9戦して一度も勝てなかった相手からの歴史的勝利は、必然の勝利だった。ここから日本代表の快進撃は加速し始める。サモアを降(くだ)して3勝で迎えたプール最終戦、予選突破の前に立ちはだかった相手は、4年前に唯一敗北を喫したスコットランドだった。
「スコットランド戦は、絶対に負けられないうえ、ミスも許されない。そんな試合は初めてでした。まさに歴史を変えるにふさわしい相手で、サモア戦が終わった直後から、僕はもうワクワクしていました。スコットランドはやはり強いチームでした。でもあの試合だけに限れば、あのときの日本代表チームは世界最強だったと思います。勢いもエネルギーもスピードも精度もありましたし、誰一人ミスを恐れず、気持ちも充実していました」
”史上最強”の日本代表はその言葉通りスコットランドに勝利し、決勝トーナメント出場という歴史を創ったのだった。
しかし、連戦の日々は彼らの身体と心を少なからず消耗させていた。
「口には出しませんでしたが、皆、身体はもう限界でした。さすがに5戦目ともなると身体も心もきつかったです。いま所属チームのキヤノンに南アの選手がいるのですが、彼の話では、あの試合の前、南アフリカはロッカーに僕の写真を貼って、本気で僕を壊すつもりで練習していたそうです。そこまでやられると完敗ですね。やはり世界一になったチームです。強かったです。ただ、思いっきり挑戦してはじき返された。恥ずべきところはない、いいチャレンジだったと思います。
終わったときにはメンバーやスタッフが皆、泣いていたので、僕も思わず感極まってしまいました。いろいろな感情がどっと溢(あふ)れてきたんです。悲しい気持ちも、ほっとしたという気持ちも、やっと終わったという気持ちもありました。とにかくいろいろな感情が込み上げてきてしまって……」
トップリーグに向けて
’20年1月からはいよいよトップリーグが開幕。キヤノンイーグルスのSOとして、田村の新たな戦いが始まる。
「W杯は自分がいままでに経験した中で一番大きな舞台でした。そんな大舞台だからこそ、本当に自分の”本気”を出せたと思います。ステージが大きいほど燃えるタイプなんですよ。だから終わってしまって次の目標は? と聞かれたときに何もないんです。非常に焦ってます(笑)。もちろんトップリーグで日本一になるという目標はあります。日本一はなったことがないですから。いまのチームはそういった大舞台に立ったことのない選手ばかりなので、チームをいい方向に持っていければと思っています」
W杯でともに戦ったチームメイトと、今度は敵として勝負する。田村がどんなプレーを見せてくれるのか注目である。
最後の南ア戦が終わったときは 皆の涙を見て感極まりました
『FRIDAY』2020年1月10・17日号より
- 撮影:濱﨑慎治