日本贔屓が溢れている 五輪イヤーに考えるスポーツの「客観報道」 | FRIDAYデジタル

日本贔屓が溢れている 五輪イヤーに考えるスポーツの「客観報道」

「日本がんばれ」だけでない、スポーツの魅力を伝えてほしい!

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東京五輪では開・閉会式のほか陸上競技、サッカーなどの会場となる新国立競技場(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
東京五輪では開・閉会式のほか陸上競技、サッカーなどの会場となる新国立競技場(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

今年はオリンピックイヤー。しかも自国開催の五輪だ。メディアは新年から東京オリンピックへの期待感を掻き立てる報道を連日繰り広げている。

確かに4年に1度のオリンピックは、国を挙げての大イベントではある。しかし、NHKから民放、新聞もこぞって「日本がんばれ!」になっている昨今の風潮に、筆者は違和感を覚えずにはいられない。
スポーツだけでなく、あらゆる事象を報道するとき、民主主義国家のメディアは「客観性」を担保すべきではないのか?

近年、スポーツ報道において「客観性」よりも「日本の視聴者、読者が喜ぶ情報」を伝える傾向に拍車がかかっているように思われる。

記憶に新しいのはMLBに移籍した日本人選手にまつわる騒ぎだ。
イチローや松井秀喜のロッカールームに日本人記者が大挙して押し寄せる。そして一言一句も漏らさぬ勢いで取材をする。それだけでなく、日本人記者は周囲にいる同僚選手に日本人選手について聞きまくる。ヤンキースの大スター、デレク・ジーターなどに、本人のことは一切質問せずに「ヒデキ・マツイについてどう思うか?」と聞く。こうしたメディアの過熱ぶりに、当の日本人選手が困惑することもしばしばだった。

2008年、ゴルフの石川遼が華々しくデビューした時には、タイガー・ウッズに対して日本人記者が何の脈絡もなく「リョウ・イシカワをどう思うか?」と聞いて、外国メディアの顰蹙を買った。
日本の多くのメディアは、自国の選手とその朗報を待ちわびるファン以外は眼中にないという「贔屓の引き倒し」をするようになったのだ。

こうした報道姿勢はイチローがMLBで大活躍するとさらに過熱した。
2016年6月、イチローが日米通算でピート・ローズが持つMLB通算安打記録の4256安打に迫った時には、日本のメディアは当時76歳のピート・ローズを追いかけまわした。ローズは当然不快感をあらわにしたが、日本のメディアはこれを「嫉妬」と報道した。
MLB公式サイトは「日米通算」を公式に認めていない。あくまで参考記録だ。しかし、日本のメディアは「世界新」と騒ぎ立てた。
NHKのMLB中継でイチローの打席で(日米通算)とカッコつきで安打数が紹介されると、アナウンサーは「このカッコがなくなるのは、いつになるのでしょうか?」と言った。

2016年に「日米通算」4257安打を達成したイチロー(写真:アフロ)
2016年に「日米通算」4257安打を達成したイチロー(写真:アフロ)

当然ながら、アメリカではイチローの偉業をたたえつつも、歴史も試合数も違うMLBとNPBを合算することに、否定的な意見が大勢を占めた。
かつて王貞治がハンク・アーロンの本塁打記録を更新した時も同様の狂騒曲があったが、当時のメディアは「参考記録」と明記していた。昭和の時代の方が冷静だった。
少なくとも、メディアは野球の宗主国アメリカに対するリスペクトを示す必要があったのではないか。

一方で、2003年、のちにロッテ、巨人などで活躍した李承ヨプが韓国プロ野球で、王貞治などの55本塁打を抜く56本を記録したときに、韓国メディアは「アジア新記録」と大々的に報じたが、日本のメディアは全く報じなかった。この姿勢はダブルスタンダードと言われても仕方がないだろう。

「贔屓の引き倒し」は、韓国のスポーツメディアでも顕著だ。2012年のロンドン五輪で、女子フェンシングのトップ選手の申アラムは、エペ個人準決勝でドイツの選手に敗退したが、韓国のコーチは「タイムの時間が1秒長かった」と1時間にわたり猛抗議。しかしこれは通らず、申は個人でのメダルを逸し、団体の銀メダルだけに終わった。
韓国メディアは帰国した申の映像に「団体銀メダル(本当は個人金)の申アラム」というテロップをつけた。オリンピックというスポーツ最高のイベントでの公式記録を否定する報道に、日本をふくめた他国の人は大いに違和感を抱いたはずだ。しかし日本にとって韓国は「他山の石」だ。

日本のメディアは、日本選手の動向以外はほとんど報じない。昨年、史上初めて日本人の八村塁がNBAのドラフト1巡目で指名されたことは大々的に報じられたが、八村は全体で9位だった。全体1位のザイオン・ウィリアムソンについて報道した主要メディアはほとんどなかった。
昨秋の野球プレミア12でも日本の優勝は大々的に報じられたが、オリンピック初出場を果たしたメキシコについて報じたメディアは非常に少なかった。
オリンピックでも日本人が銀、銅メダルを取ればメディアは大騒ぎするだろうが、その上の金メダルを取った外国人選手はほとんど報道されないはずだ。
端的に言えば「日本、日本人選手以外は、みんな引き立て役」というのが、日本メディアの姿勢だ。

ただ昨年は、こうした傾向にある変化があった。
ラグビーのワールドカップは日本代表がベスト8に進出して、日本国中が沸いたが、この大会では外国同士の対戦だったベスト4、そして3位決定戦、決勝も15%以上の高い視聴率となった。これを受けて、各メディアも優勝した南アフリカやイングランド、ウェールズなどのチームについてかなり詳細な報道をした。

今回のラグビーブームは「にわか」と言われたが、「日本がんばれ!」だけではなく、純粋な「ラグビーの面白さ」に目覚めたファンもたくさん生んだのだ。

メディアはこの変化を重視すべきだ。日本人は「日本がんばれ」以外の「スポーツの魅力」も理解できる成熟度、リテラシーを有している。
そういうレベルにある日本の視聴者、読者は「日本人選手のいいニュース」しか報道しない今のメディアに懐疑的になっている。ネガティブな情報は報道しなかったり、極端に小さな扱いにするテレビや新聞をあまり信用しなくなっている。だからネットで裏をとろうとする。
スポーツだけでなく、テレビの視聴率や新聞の部数が減少しているのは、都合の良い報道ばかりするメディアへの信用が薄れていることも大きい。

東京オリンピックでは「日本がんばれ!」一色ではなく、他の国のトップアスリートについてもしっかり報道してほしい。そして「がんばったけれども結果が出せなかった日本人選手」についてもきっちりと報じてほしい。もちろんパラリンピックも同様だ。
そうした姿勢が本当のスポーツファンを増やすことにつながるし、スポーツ報道の信用を高めることにもなるだろう。
自国開催だからこそ、メディアは「客観性」を取り戻してほしい。

 

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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