『絶対零度』滑り出し好調でも「月9」“高齢化路線”は時代遅れ

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「初回10.6%で好調」「“月97期連続二桁発進」
 
2020年冬クールの月9『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』は、このように順調な滑り出しと評価されている。
しかし性年齢別の個人視聴率でみると、まったく別の見方が可能だ。実は18年夏放送の『絶対零度3』と比べると今回のSeason4は、視聴者のバランスがより高齢化し、若年層比率がへっているからだ。
フジテレビ月9「絶対零度」は、シリーズ3と4で視聴者層に大きな変化が出ている
何故こんなことが起こっているのか、掘り下げてみた。

月9復活は『絶対零度』から

沢村一樹が主演する『絶対零度3』は、18年夏に放送された。
実はこれ以降、フジの月9は復活したとされている。
月9は栄光の時代から後に下落の一途となり、そして18年から少し盛り返した。そのきっかけが『絶対零度3』だったのである。

そもそも月9は、一世を風靡したトレンディドラマの代表的なドラマ枠。平成のテレビを象徴する大ヒット番組だった。

しかし2000年代に徐々に視聴率を落とし、09年以降は15%未満が当たり前、さらに16年から3年間は一桁と低迷した。

ところが18年夏の『絶対零度3』以降、二桁を回復するようになった。

フジテレビの看板ドラマ枠「月9」。1989年〜2020年の栄光から没落、そして復活(?)のヒストリー

遠藤龍之介社長が19年6月に就任した際に、「大きな喜び」と嬉しそうに語った通り、二桁を維持する月9は、長期低落傾向にあったフジにあって、久々の明るい話題だったのである。

世帯視聴率から個人視聴率へ

ところが遠藤社長が1月6日に行った新年の挨拶では、明らかにトーンが変わっていた。

「視聴率の新しい価値基準」

今年すべきことの筆頭として、この言葉を社長は挙げた。

「世帯視聴率という指標が高齢層の視聴を象徴するもの」になりつつあると説明。「スポンサーも細かいデータを要求する」ようになってきたと明言したのである。

実はテレビ局のスポット広告は、19年からリーマンショック以来の激減に見舞われている。

19年度第1四半期は、キー5局合計が4.3%減。第2四半期は6.7%減に拡大した。さらに第3四半期は、まだ確定していないが二桁減の可能性が高い。壊滅的な状況だ。世帯視聴率の多寡を広告主が評価せず、「個人視聴率」や「視聴者の属性」を重視し始めたのが一因だ。

つまり皮肉なことに月9は、何とか視聴率二桁を取り戻したのに、梯子を外されたかの如く、成功の瞬間に評価基準が変わってしまっていたのである。

視聴率挽回までの月9

まず視聴率二桁挽回のプロセスを確認しておこう。

この5年あまりを振り返えると、17年夏の山下智久主演『コード・ブルー3』を例外に、月9は3期にわかれる。

16年までは、全盛期のトレンディ路線を踏襲し“恋愛モノ”を並べていた。視聴率の下落が続いた時期である。

次が低迷脱出を狙った模索期。残念ながら、成果はあまり出なかった。

そして18年夏以降が、鉄板ネタを並べた視聴率重視期。二桁が続いている。

フジテレビ月9の「視聴率二桁挽回」のプロセス。ただし「コードブルー」は別格の数値

この鉄板ネタとは、刑事・弁護士・医療などのジャンル。もともとテレビ朝日が作り上げて来た“勝利の方程式”だ。しかもテレ朝は、新作にはあまり着手せず、当りドラマをシリーズ化することで、視聴率の安定を図ってきた。

つまり最近の月9の好調ぶりは、“月9のテレ朝化”と言うべき手法だったのである。ちなみに今回の『絶対零度4』は、“刑事もの”かつ“シリーズ4作目”。まさにテレ朝ドラマのお株を奪う番組なのである。

中高年で世帯を保つ

ただし月9の視聴率二桁は、時代遅れとなってしまった。

“恋愛モノ”を並べた16年冬までは、F1~2(女性20~49歳)が高く、F3(女性50歳以上)はさほど高くない。対照的なのがこの1年半。鉄板ネタを並べたため、世帯視聴率こそ高いが、若年女性の個人視聴率は「恋愛モノ中心期」を超えられなくなった。

では世帯視聴率は、なぜ上がったのか。

実はF3が最悪期の2倍ほどに跳ね上がり、世帯全体をけん引した。今のテレビの視聴者は、3層(50歳以上)が6割強を占めている。このボリューム層が好みそうなドラマを制作することで、世帯の数字を整えたのである。

一方残念ながら、3層に合せたためにF2やF1がついて来ない。いずれの層も恋愛モノ中心期を凌駕できないばかりか、下回ってしまう事態となったのである。

これでは「細かいデータを要求する」スポンサーの要求に応えられない。

データが暴く月9の課題

男性も含めた性年齢別のレイダーチャートでみると、課題はより明確になる。

5年前の月9『デート~恋とはどんなものかしら~』(杏主演)は、男女3-層(50~64歳)こそ『絶対零度3』や『絶対零度4』と同じ程度の含有率だ。

ところが男女3+層(65歳以上)は、他2作よりかなり少ない。逆に男女T層(13~19歳)や男女1層(20~34歳)、さらにF2は一番多い。

広告主にとっては、5年前の月9の方が視聴者層の分布が上質だったのである。

フジテレビ月9の視聴者層の変化。世帯視聴率が悪かった15年の「デート」だが広告主には別の価値があった

また『絶対零度』は、Season3から4で視聴者層分布が劣化した可能性がある。男女3+層の比率が高まり、男女T層やF1の比率が下がっているからだ。要は65歳以上の視聴者の比率が高まり、若年層の割合が下がっているということだ。

実はテレ朝の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(米倉涼子主演)も、17年秋の第5シリーズから19年秋の第6シリーズでは、若年層の比率が減り高齢層が増えていた。

どうやらシリーズ化は、世帯視聴率維持には効果的だが、広告主が望む若年層の獲得では課題があるようだ。

世帯視聴率だけでみると、順調なスタートを切ったかに見えた『絶対零度4』。まだ全体を断定的には言えないが、初回だけみると遠藤社長が掲げた今年の目標を達成する方向には向かっていない。

“これまでにない”がキーワード

そもそも月9のトレンディ路線は、フジがTBSや日本テレビのドラマを研究した末に生まれた。

TBS得意の本格ドラマや、日テレの青春モノや刑事モノにはない路線を目指して誕生し、バブル景気で夢を膨らませた若い女性に深く刺さった新ジャンルだったのである。

90年代末に大ヒットした『踊る大捜査線』(織田裕二主演)も、刑事モノだったが「これまでにない刑事ドラマ」をめざした。

結果として、「事件は会議室で起きているんじゃない」という名セリフが誕生した。またスリーアミーゴス(神田署長や秋山副署長など)という名キャラクターが生まれた。

このように以前のフジは、安易なシリーズ化ではなく、リスクをとって“これまでにない”ドラマに挑戦し、数々の大ヒットを飛ばしてきた。

これに倣うと、月9が本当の意味で復活するには、鉄板ネタに頼るのではなく、“これまでにない”に挑戦してこそ生まれるのだろう。

「視聴率の新しい価値基準」でも画期的な記録を作るような、新しい月9をぜひ見たい。

制作者たちのクリエイティビティに期待したい。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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