決戦前の無言の握手 大学ラグビー決勝に挑む早明ライバル秘話 | FRIDAYデジタル

決戦前の無言の握手 大学ラグビー決勝に挑む早明ライバル秘話

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早稲田の指令塔、岸岡智樹(左)と明治のWTB山村知也のボールの奪い合い。ともに最終学年の最後の戦いに燃える
早稲田の指令塔、岸岡智樹(左)と明治のWTB山村知也のボールの奪い合い。ともに最終学年の最後の戦いに燃える

ラグビー大学選手権決勝は、連覇を狙う明治大学と11シーズンぶりの優勝を目指す早稲田大学が激突する。同大会の通算優勝回数は早稲田が最多の15回、明治はそれに次ぐ13回。ともに関東大学対抗戦に所属し、実績、人気の両面で日本の大学ラグビーを牽引してきた。決勝では過去9度対戦し、対抗戦、決勝と2連勝できたのは計4回。対抗戦の勝敗は必ずしもアテにならない。

舞台は、新装されたばかりの新国立競技場。先のワールドカップにおけるラグビー熱の余韻が残る中、歴史の扉を開く聖地初戦を迎えるまで、両校は今季開幕前から火花を散らしてきた。

早明、国立…これ以上ないシチュエーション

なんという巡り合わせだろうか。

昨季22年ぶりに大学日本一の座に返り咲き、今季の関東大学対抗戦で全勝優勝を遂げた明治を率いるのは、就任2年目の田中澄憲監督だ。1997年度のキャプテンであり、自身も紫紺のジャージーを着て何度も国立競技場の芝を駆けた経験を持つ。当時3年生でSHとして出場し、優勝した1997年以来、23季ぶりに早稲田と決勝を戦う心境を、こう明かす。

「ライバルという意識はありますし、新しくなった国立で行われる初めての決勝の相手がワセダということで、『きたか』という感じはしますね。『きてほしかった』というよりは、『くるのかな』と思っていました」

早稲田の相良南海夫監督は6学年上。学生時代に直接対戦したことはないものの、日本ラグビーを牽引してきた伝統校の監督として、お互い通じ合うところがあるのだろう。昨季は準決勝で対戦し、31-27の激闘を演じたが、試合後、相良監督からこう声をかけられた。

「『ある程度の責任は果たしたよな』と。(ラグビーファンが楽しみにする)1月2日の準決勝に、ワセダもメイジもいる。(伝統校と言われる)ワセダ、メイジの監督をやっていれば、そういう(そこにいなければならないという)意識はありますね」

36-7で快勝した今季の関東大学対抗戦後には、相良監督と「決勝でやりましょう」と話したという田中監督。秩父宮ラグビー場で行われた1月2日の準決勝の試合前には、先に第1試合で52―14と天理大に勝利し、引き上げてくる相良監督とロッカールームの前で遭遇し、握手をかわした。

「その時、相良さんが『待っているぞ』という目をされていた。言葉はかわしませんでしたが、そういう思いは、お互いあると思います」

前回の対戦時の早稲田はCTB中野将伍、FL相良昌彦のレギュラー2人がケガで欠場していたが、今度の決勝ではそろって復帰。「特に4年生の中野君は中心選手で、彼が戻ってきたということは別のチームになる。前回の試合のことは忘れて、強いワセダにチャレンジする気持ちで戦う」と田中監督は気を引き締める。最前線でチームを引っ張るHO武井日向主将の決勝に向けての意気込みはこうだ。

「ワセダはプライドを持ってくると思います。ただ、こっちにもプライドはある。そこの戦いじゃないですかね。負けられない気持ちというか、最後まであきらめない姿勢、苦しくてもきつくても体を当てる、走る…というのを、どちらができるか。そこにかかってくると思います」

連覇へ向け力強く歩みを進める明治に、心の隙は見当たらない。

昨年12月の早明戦は完敗。早稲田の主将、齋藤直人がテンポのいいパスを放り続ければ、十分勝機あり
昨年12月の早明戦は完敗。早稲田の主将、齋藤直人がテンポのいいパスを放り続ければ、十分勝機あり

絶対にやりたかった相手

一方、6大会ぶりに決勝進出を果たした早稲田。関東大学対抗戦で戦った12月1日以来となる明治との再戦に、「絶対にやりたかったので、(決勝の相手が明治に決まって)すごくうれしかった」と闘志をたぎらせるのは、キャプテンのSH齋藤直人だ。

「やっぱりワセダにとってメイジは特別な相手ですし、ここまで勝ち上がってこられたのは『もう一度メイジとやりたい』という強い思いがあったから。みんなもきっとその思いはあるはずです。だからこそ、今度は絶対に勝ちたい」

創部100年目の昨シーズンに就任した相良監督は、1991年度のキャプテンを務めたFLで、2年時は清宮克幸主将(現日本ラグビー協会副会長)のもとでレギュラーとして大学選手権優勝を果たしている。そのシーズンから大学4年時までの3季で、早明戦と大学選手権の準決勝、決勝を合わせて旧国立競技場での公式戦に8試合出場しており、国立と明治には深い縁がある。

監督2年目の今季は、1年時から活躍してきたSH齋藤やCTB中野、SO岸岡智樹といった主軸メンバーが最終学年を迎え、近年でもっとも戦力的に充実している年といわれてきた。また1年生ながら先発に名を連ねるFL相良は、自身の次男でもある。そうした背景に加え、6シーズンぶりに勝ち上がった決勝の舞台が新国立競技場、しかも対戦相手は明治――というドラマのようなストーリーに、「いろんな意味で、いい巡り合わせの中にいるなと感じます」としみじみ語る。

明治の田中監督とは、今季の関東大学対抗戦の開幕時から「(早明戦は)絶対に全勝対決にしましょうと話をしていた」そうで、早明戦後も大学選手権決勝での再戦を誓い合ったという。ちなみに両校は、明治側からの申し出で年末にBチーム同士の練習試合を実施(明大〇31―26●早大)。一番の目的はメンバー外の選手たちのモチベーション向上だが、強敵と対戦する準決勝を前に、「絶対、決勝に上がってこいよ」とお互いにエールを送る気持ちがあったのも確かだろう。

天理大学に快勝した準決勝後に明治の田中監督と握手した場面を、「思わずそういう感情になっていましたね」と振り返り、決勝の相手が明治に決まった時の胸中を「最高の舞台が整った」と表現した相良監督。雪辱を期して臨む今季2度目の明治戦に向けたイメージを聞くと、こう答えが返ってきた。

「長年のライバル関係があるからこそ、負けているほうは挑みやすいかなと。我々は仕掛けるしかない。アタックもディフェンスも、攻める気持ちでいきます」

明治が挑戦を退け連覇を達成するのか。それとも早稲田が雪辱を果たし、11年ぶりに日本一を奪回するのか。いずれにせよ、大学ラグビー史に刻まれる名勝負の予感はある。

【早大、明大が大学選手権決勝で対戦した年の両校スコア】

①1972年12月3日 早大○19―14●明大

1973年1月6日 早大●12―13○明大

②1973年12月9日 早大○13―9●明大

1974年1月6日 早大○29―6●明大

③1974年12月7日 早大○30―13●明大

1975年1月4日 早大○18―0●明大

④1975年12月7日 早大△10―10△明大

1976年1月4日 早大●7―18○明大

⑤1976年12月5日 早大○26―6●明大

1977年1月3日 早大○34―6●明大

⑥1981年12月6日 早大○21―15●明大

1982年1月4日 早大●12―21○明大

⑦1990年12月2日 早大△24―24△明大

1991年1月6日 早大●13―16〇明大

⑧1995年12月3日 早大○20―15●明大

1996年1月15日 早大●9―43○明大

⑨1996年12月1日 早大●15―19○明大

1997年1月15日 早大●22―32○明大

【注】上段のスコアが早明定期戦、下段が大学選手権決勝。会場はすべて旧国立競技場。参考文献「早稲田ラグビー史の研究」(日比野弘著、早稲田大学出版部)

明治・田中澄憲監督
明治・田中澄憲監督
早稲田・相良監督
早稲田・相良監督
  • 取材・文直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

  • 撮影井田新輔

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