いきなり!ステーキ 店舗1割を閉店“いきなり!客離れ”の理由
都内ターミナル駅近くの昼下がり。マクドナルドやコンビニでは、昼食のハンバーガーやおにぎりを求め行列ができている。そんな中、客入りが寂しい店があった。ペッパーフードサービスの運営する肉専門店チェーン「いきなり!ステーキ」だ。コンビニで300円ほどののカップ麺を購入した、40代の男性サラリーマンが語る。
「何回か『いきなり!ステーキ』で食事をしたことはありますよ。ただ肉ばかりだと飽きてしまい、行くのを止めてしまいました。価格も2000円と高いしね」
「いきなり!ステーキ」が急失速している。今春までに、国内489店舗のうち1割にあたる44店舗を閉店すると発表。1月13日には、まず26店舗が閉まった。’19年12月業績を当初、売上高約935億円、営業利益60億円と見込んでいたが2度も下方修正。売上高665億円、営業損益は7億円の赤字としたのだ。
「『いきなり!ステーキ』は’、13年末に東京・銀座で1号店を出しました。上質な分厚いステーキを、立って食べられるという真新しさがヒットし人気が爆発。’14年に30ほどだった店舗数が、’15年には77店、’18年には397店と急拡大したんです。一瀬邦夫社長は1000店舗を目標に、店を増やしていきました」(全国紙経済部記者)
だが、こうした急拡大路線がアダとなる。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が解説する。
「限られた店舗数だと希少性があり、物珍しさから客が集まっていました。しかし店の数が増えたことで、真新しさがなくなってしまった。各店舗の距離が近くなり、自社の店同士で客を奪い合うという状況も生まれたんです」
さらにスタンダード価格2000円(リブロースステーキ300g税抜き2070円)という、値段の高さも敬遠される要因となっている。松崎氏が続ける。
「2000円では『1回ぐらい食べてみよう』という客はいるかもしれませんが、定期的に通う人はおカネに余裕がある人に限られます。家族層などの来店を期待し、群馬県や埼玉県などの大通り沿いにも出店しましたが結果は散々。低価格志向の郊外に住むファミリーには、値段の高いステーキは受け入れられなかったようです」
同社も手をこまねいているワケではない。’19年5月に、新メニューとして一部の店舗で子ども用メニューや牛タン、生ガキを提供。12月にはサントリーホールディングスと組み、「黒烏龍茶」を無料で供するようになった。さらに同月、都内の店舗では次のように書かれた一瀬社長直筆の紙を貼り出し、客の情に訴えたのだ。
〈お客様のご来店が減少しております。このままではお近くの店を閉めることになります〉
前出の松崎氏が語る。
「社長の貼り紙は『上から目線だ』などの反発があり、2週間ほどで取り外されました。いろいろ対策を建てているようですが、とても有効だとは言えません。そもそも『いきなり!ステーキ』は、店舗をどんどん増やすことで利益を上げるビジネスモデル。店舗を増やせば、逆に客に飽きられるという矛盾にハマっているんです。よっぽど世間が驚くような新メニューを発表しない限り、客が戻ってくることはないでしょう。このままでは、まったく違う業態に変わるか、大手外食チェーンの傘下に入るかしか打開策はないと思います」
“いきなり!客離れ”に苦しむ「いきなり!ステーキ」。沖縄で企業した低価格の「やっぱりステーキ」や女性一人でも入れる雰囲気の「ステーキ屋松」、肉メニューにも力を入れる定食チェーン「松屋」などライバルも続々登場している。資金繰りにも困り、今夏にはみずほ銀行や三菱UFJ銀行など6行から約41億円を借り入れる予定だ。