神戸市は組み体操を全面禁止 子どもの「スポーツ事故」どう防ぐ?

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昨年末、小中学校での事故を重く見た神戸市教委が、2020年から組み体操を全面禁止にするというニュースが報じられたように、近年子どもがスポーツや運動をする現場で、危険が野放しにされているケースに注目が集まっている。

中学高校の運動部では年間35万件の事故が発生し、2006~2016年の10年間には死亡事故が152件発生したというデータもあるのだ。

神戸市教育委員会は、市立小中学校の運動会での組み体操で、2019年度に骨折6人を含む66件の事故が発生したの報告を受け、2020年度から組み体操を全面的に禁止すると発表した 写真:アフロ

後を絶たない子どものスポーツ事故の背景には何があるのか、そして事故を防ぐためにはなにが必要なのか。スポーツドクターとして安全性を国内・海外で啓蒙する活動をしている二重作拓也(ふたえさく・たくや)医師に現状を聞いた。

子どものスポーツ事故事情

まず、二重作医師は最近の子どものスポーツ事故をどう考えているのか。

「昨年秋には、小学生が柔道の練習中に頭を打ち命を落としたというニュースが相次いで報じられ、子を持つ親として私自身心が痛みました。現場の指導者、保護者、教師ら大人たちが、子どもの心身を守れなかったことが悔やまれます。

事故が起きてしまう原因はいろいろ考えられますが、正しい医学知識の共有で救われる命は少なくないはずです。こうした悲惨な事故をゼロにするには、子供の身体と心の特性から発想し、スポーツを再構築する必要があると考えています」(二重作拓也医師 以下同)

子どもに大人のスポーツを当てはめるのは、こんなに危険だった

東京オリンピック、パラリンピックの年を迎え、未来のトップアスリートに育てる夢を抱きながら、勉強と同じように、スポーツも小さい頃からの英才教育が効果的だと考える親は多いのではないだろうか。ところが二重作医師はそこに異を唱え、大人のスポーツを子どもに当てはめる危険性を訴える。小児科の医師たちも、「子どもは大人のミニチュアではない」と強調する。身体や脳が発達途中にある子どもには、スポーツの内容によって始めてよい時期があるという。

「全身の骨が完成するのは20歳前後です。レントゲンでみるとわかりますが、成長途中の子どもの骨は未完成でまだ軟らかいので、脳や心臓、内臓といった『命に直結する部分』に外からの力が到達しやすい。

例えば、頭蓋骨は脳が大きくなる『圧』に伴って成長します。そのため、発達途上である子どもの頭蓋骨の中は大人より脳が隙間なく詰まっており、頭蓋内出血などが起きた時、短時間で圧迫されて致命的な状態になりやすいのです。そんな大人の身体との差異を無視すれば、思わぬスポーツ事故を引き起こしかねません。

『赤ちゃんの頭は柔らかい』『高齢者の骨は弱い』、これは共通理解としてありますよね? 同様に、大人向けの激しいスポーツやトレーニングにも『やっていい年代』と『やってはいけない年代』があるということです。無理なスポーツが子どもの将来に影を落とすだけでなく、命を失う危険も忘れてはならないのです」

子どもが胸や背中を打って意識を失ったときは、迷わずAEDを

身体ができ上がっていない子どものスポーツ現場で考えられる危険とは、どのようなものだろうか。二重作医師に致命傷となる事例とその対策を聞いた。

まず挙げられるのは「心臓震盪(しんぞうしんとう)」だ。肘などが胸に当たる、背中を打つなどで心臓に不整脈が起こり命を失うことがある。子どもは胸郭の骨が未完成なため、心臓にダメージを受けやすいためだ。心臓震盪は打撃を行う格闘技だけでなく、球技や兄弟げんかでも発生する。90年代の米国でスポーツ中の子どもの突然死を研究する中で、その危険性が注目されるようになった。

「胸や背中を打った後、子どもが倒れ意識を失い呼吸が怪しい場合は、救急車を呼ぶと同時にAEDを使用します。『患者の状態がわからないのに、いきなりAEDを使って大丈夫なのか?』と不安になるかもしれませんが、必要な状態かどうかはAED自身が判断してくれます。装着したAEDが自動的に解析し、必要な場合は音声ガイダンスによって除細動ボタンを押す指示を出すのです。

緊急時の敵は、なんといっても『時間』です。救急車が到着するまで平均で7分。時間の経過に応じて救命率が下がり、3分放っておくと救命は極めて困難となります。即座に適切な対処ができれば、救われる子どもの命は確実に増えるでしょう。そのためにも『心臓震盪が疑われる時はAED』との知識が大切になります」

頭を打った後は、元気でも72時間は目を離さない

もうひとつ、子どものスポーツ現場で深刻なのは「頭部外傷」だ。子どもの脳は血管が細く大人に比べて脆弱なため、命の危険につながりやすい。

「頭部外傷の場合、頭蓋内で出血が起こっていても外からはわからないのが恐いところです。しかも脳細胞には痛覚が無いので、いわゆる『痛み』がありません。自覚症状で『ヤバい』と感じられないのです。しばらく元気でも『突然の意識消失』で危険な状態になることもあります。

もしお子さんが頭を打ったときは、まずは病院で客観的な検査を含めた診断を受けることが大切です。CT検査などで異常がなかったとしても、少なくとも72時間は誰かがそばにいて、意識の変容などを確認したほうがよいでしょう。

また『脳震盪(のうしんとう)』にも十分注意したいところです。脳震盪は一過性の意識障害ですので、画像検査上、出血などの器質的異常を伴いません。それだけに頭部外傷の中では軽症と思われがちで、すぐに運動復帰をしてしまう例が見られるのですが、本来なら脳震盪後しばらくは運動禁止が妥当です。

脳震盪では、セカンドインパクトシンドロームと呼ばれる現象にも注意が必要です。これはまだ科学的解明の点において議論がありますが、1度目の脳震盪を起こした後、短期間に2度目の衝撃を受け、取り返しのつかないダメージにつながる現象のことです。とても重症化しやすく致死率は50%とも言われ、助かっても後遺症が残りやすい。そのため脳震盪の後の学校復帰、体育の授業を含めた運動復帰、競技復帰は医師との十分な協議の上でなされるべきでしょう。

大前提として、大人でも子供でも脳は『十分に守られるべき器官』です。海外では子供のうちから脳に外力が加わる、脳が揺らされる競技のルールは、どんどん見直される傾向にあります」

「やる気と根性」から、エビデンスを元にした指導へ

楽しいはずのスポーツで、子どもが命を失う。そんな悲惨な事故の背景には、何があるのだろうか。二重作医師は、子どものスポーツ現場において「命と健康を守る意識」がまだまだ希薄だと語る。

指導者の中には、優秀な選手だった自身の経験則で「厳しい練習を課し、耐えられる才能を見つけ出す」という、日本の人口が増え続けた時代のやり方をとっている者がいまだ多くみられる。まだ価値観が定まっていない子どもたちは、自身の無理に気づかず大人の期待に応えようとし、そこで事故が発生する。

現在は、やる気と根性の弊害が表面化してきており、『どんなタイプでも伸ばしていける』指導が求められています。数値やデータ、解剖学や運動生理学、脳科学などのエビデンスをしっかり選手と共有して、選手の心と身体を守りながら可能性を引き出す指導が増えつつあります」

子どもの成長過程に合わせた練習こそが、才能を開花させる

では子どもが安全にスポーツを楽しみ、才能を伸ばしていくためには何が必要なのだろうか。それは、子どもの身体が完成する時期に才能が開花する「指導の設計」だという。例えば野球なら20~30代というように、競技によって身体の能力が最大限に発揮される時期がある。そこに合わせて子どもを上手に育てていく。

二重作医師は、「指導者や親はまず子どもの成長を知るべきだ」と強調する。子どもの成長段階に合わせたトレーニングが、子どもの才能を伸ばしていく。子どもは11歳までは主に脳と神経系統が発達する。この時期は多種多様な動きで俊敏性を高め、どんなスポーツにも適応できるような運動機能の向上をメインにする。

心肺機能が発達する12~14歳では無理のない範囲で少しずつ「続ける能力」を上げていく。身長の伸びが止まり、身体がある程度出来上がった段階で筋力をつけるトレーニングを行うなどだ。

「例えば子どもの対人競技では殴り合いより、ステップワークやピンポン玉等を避けるディフェンス能力、また正確に動ける型やフォームをつくるほうが将来につながります。早い段階から身体の壊し合いをやると、健康が損なわれますし競技でも上まで行けません。

いくら才能があっても、子どもが成長段階で脳にダメージを負うような練習や試合はお薦めできません。サッカーはアメリカでは10歳以下、スコットランドでは12歳以下のヘディングを禁止しており、プロでも制限すべきという意見が出ているくらいです。アメフトでも慢性外傷性脳症は大きな問題になっています。

いま習い事として人気のある子供の直接打撃制空手やキックボクシングは、国や州によっては違法な地域もあるくらいです。これはお酒や煙草同様、『成人がリスクを理解した上で行って良いこと』と『その時期までは我慢すべきこと』だと理解しています。

僕がスポーツドクターを志したのは、スポーツ文化に大きな魅力を感じているからです。スポーツだからこそ得られる充実感や仲間との関係性はとても素晴らしい。だからこそスポーツが子どもたちの可能性を拡大させるものであってほしい、未来を閉ざすものであってはならないと考えています」

数々の有名選手をサポートしてきた二重作医師は、選手が引退した後の人生についても語る。どんなに素晴らしい選手でも、活躍できる年代は限られる。格闘家がリングを降りた後の人生も、選手のときと同じように輝いてほしい。だからこそ消耗品である身体にダメージを負わない、スポーツの理論が重要だ。

それは未来の可能性をたくさんもっている子どもならなおのことだ。子どもたちひとりひとりがスポーツを安全に楽しみ、自身の才能を開花させる。そのために必要な活動を、今日も続けている。

二重作拓也 挌闘技ドクター スポーツドクター 富家病院リハビリテーション科医師 格闘技医学会代表 スポーツ安全指導推進機構代表理事

1973年、福岡県北九州市生まれ。福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業 8歳より松濤館空手をはじめ、高校で実戦空手養秀会2段位を取得、USAオープントーナメント日本代表となる。研修医時代に極真空手城南大会優勝、福島県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。リングドクター、チームドクターの経験とスポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。専門誌『Fight&Life』では連載を担当、「強さの根拠」を共有する「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。著書に『Dr.Fの挌闘技医学』『ジュニア格闘気・武道安心安全強化書』『KOの解剖学DVD』『Fightology(英語版/スペイン語版)』『プリンスの言葉』など多数。

  • 取材・文浜千鳥

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