病院に行かずともできる認知症療法『リコード法』が世界標準になる | FRIDAYデジタル

病院に行かずともできる認知症療法『リコード法』が世界標準になる

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検査項目を細分化し、オーダーメイドの治療を施す。早期発見で9割もの患者が回復するとの報告が

認知症患者の脳のMRIスキャン画像。全体的に萎縮しているが、記憶をつかさどる海馬の萎縮が顕著だ 写真:Getty Images
認知症患者の脳のMRIスキャン画像。全体的に萎縮しているが、記憶をつかさどる海馬の萎縮が顕著だ 写真:Getty Images

40代ごろから明確な症状もないまま静かに進行。そして60代にさしかかり、症状が現れたときには末期手前。早期発見が難しく、有効な治療法もない。長く「罹(かか)ってしまったが最後」と恐れられてきたのがアルツハイマー型認知症だ。

だが、状況は劇的に変わりつつある。早期であればなんと9割もの患者が回復すると報告された革命的治療法『リコード法』がいま、世界のスタンダードになろうとしている。

認知機能の低下(COgnitive DEcline)の回復(REversal)という3つの英単語の頭文字から名付けられたリコード法を確立したのは、30年にわたって脳の研究を続けてきたアメリカのデール・ブレデセン博士だ。ブレデセン博士はアルツハイマー型認知症には「ホモシステイン(動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞などのリスクを増やす要因とされる物質)の増加」や「炎症反応」など、36の因子があることを突き止めたのである。

これまで、認知症を引き起こす原因ははっきりしていなかった。有力視されていたのは「アミロイド説」だ。

脳が活動することで生み出される老廃物「アミロイドβ(ベータ)」というタンパク質がたまることで、老人斑(神経細胞の外にできるシミ状の異常構造)が形成され、神経原線維にネジレが発生。神経細胞が死に、脳が萎縮して機能が低下する――という仮説である。

リコード法に早くから着目して認知症の治療に取り入れ、日本初のリコード法認定医となった『ブレインケアクリニック』理事長の今野裕之医師が解説する。

「これまでの研究では、アルツハイマー型認知症の治療法はアミロイドβが増えないようにすること、凝集して蓄積しないことを目指したものが主流でしたが、目立った成果は上げられませんでした。というのも、凝集しているアミロイドβにはたしかに毒性はあるのですが、単体ではあまり害はない。むしろ、抗菌作用や抗酸化作用、神経保護作用など有益な効果があることが報告されているのです。つまり、アミロイドβは脳に害を及ぼす因子に対する防御反応として増えている、とも考えられるのです」

アミロイドβを除去しても根本解決とならないばかりか、逆に症状が悪化するケースもあるというのだ。〝原因〟ではなく、〝結果〟なのだから、アミロイドβをいくら取り除いても成果が上がらないのは、当然といえば当然だったのである。

日本人患者も回復

従来の認知症検査はMRIや血糖値の測定など5項目程度だったのに対し、リコード法の検査項目は60にも及ぶ。

そして、どの項目が正常値から乖離(かいり)しているのかを調べて改善するのである。ちなみに正常値は一律でなく、患者の年齢や生活習慣、既往歴などから適正値を決める。まさに患者ごとにオーダーメイドの治療を施すわけだ。

リコード法によって、アメリカでは’17年12月の時点で、500人以上の患者に症状改善の効果が見られたという。

一方、今野医師のもとでリコード法に基づく検査を受けた患者は約120人いるが、こちらも効果が上がっている。

「50代の若年性アルツハイマー型認知症の女性Aさんは、言葉を思い出せなくなる記憶障害のほかに不安感、イライラ感、意欲の低下などの症状が見られました。診察すると、清涼飲料水や甘いものを日常的に口にしていること、たまに歩くくらいで運動をほとんどしていないことがわかりました。検査では、ビタミンB群の不足、ホモシステイン値の高さ、炎症、化粧品やプラスチックに含まれる毒素などの暴露が疑われました」(今野医師)

リコード法では36の因子をもとに、認知症の原因を次のように、6つにタイプ分けしている。

●炎症性 虫歯などによる炎症

●萎縮性 ホルモンやビタミンの不足

●毒物性 重金属などの毒素

●糖毒性 高血糖

●血管性 血管の病気の併発

●外傷性 頭部のケガなど

Aさんは炎症性、萎縮性、毒物性、血管性の併存型と診断された。

「虫歯や歯周病を治療し、オリーブオイルや発酵食品を活用することで炎症を抑制。食事を見直し、サプリメントでビタミンBを補給するなどの指導を行ったところ、徐々に頭がはっきりし、3ヵ月もすると意欲的に動くようになった。いまでは自ら部屋の片づけや家事をするようになったそうです。イライラもなくなり、落ち着いているといいます」(今野医師)

90代の女性Bさんは認知症の発症により、まったく会話ができなくなり、一度の食事に2時間もかかっていた。

今野医師が続ける。

「診察の際、声をかけてもほぼ返答はありませんでした。Bさんは清涼飲料水や甘いものを日常的に摂取していて、歯の根管治療を受けた痕がありました。ダニ噛(か)まれた経験もあった。検査ではグリコアルブミン(糖化タンパク質)とホモシステインの値が高く、亜鉛とビタミンDの不足が見られました。診断は萎縮性、糖毒性です。Bさんは施設に入居していたので食事内容は変えられませんでしたが、ビタミンなどを補うサプリを摂っていただき、パンやうどんなど小麦の食品を控えていただきました。半年もすると表情がしっかりし、現在は家族と会話できるようになった。2時間かかっていた食事が40分で済むようになったそうです」

明日から始める「認知症予防」

アルツハイマー型以外にも脳血管性認知症やパーキンソン病、鬱(うつ)病や統合失調症の治療において効果があったという報告もある。脳はいまだ大部分が未解明で、脳の病気は不治の病と言われて久しかったが、リコード法が治療への扉を開きつつあるのだ。

リコード法の唯一の問題は保険が適用されない自由診療だということ。

だが、金銭的負担を抑えたい場合は、血液検査と尿検査による代謝や栄養状態などの評価に絞ることもできる。

「絞っても通常の認知症の検査では調べない項目が数多く含まれています。数値は食事の改善や栄養補充などによって変化していくので、目標値に近づけるよう3~4ヵ月に1回をメドに定期的にチェックするのが理想です」(今野医師)

理想的な開始年齢は45歳だという。

最後に、病院に行かずともできるリコード法を応用した「明日から始められる認知症予防法」を聞いた。

「まずは血糖値を安定させること。砂糖の入った食べ物は基本的に摂らないようにし、食事の際はおかずから食べるようにしましょう。食べる順番を変えるだけで血糖値の上昇を抑えることができます。食物繊維が多い葉物野菜、海藻、きのこなどは血糖値の上昇を穏やかにするだけでなく、腸内環境の改善にも繋がるので、毎食必ず食べるようにしてください。料理に使う油はオリーブオイルにするといいでしょう。夕食から翌朝まで12時間は何も食べない時間を作ってください。睡眠時間は7~8時間を目安に。できれば毎日、有酸素運動をしてください。一日8000~9000歩を目安に歩くといいです。定期的に歯科を受診し、歯周病や虫歯の治療をすることも重要です」(今野医師)

不治の病・認知症を克服する道筋がついに見えてきた。

『FRIDAY』2020年1月24日号より

  • 取材・構成吉澤恵理(薬剤師・医療ジャーナリスト)写真Getty Images

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