カルロス・ゴーン被告逃走で暗躍した民間警備会社「PMC」の正体 | FRIDAYデジタル

カルロス・ゴーン被告逃走で暗躍した民間警備会社「PMC」の正体

新幹線移動・楽器ケースに隠れるなど、誰でもできる作戦を立案・成功させる完璧な仕事ぶり

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元海上自衛官の伊藤祐靖氏。不審船の武装解除と無力化を主な任務とする特殊部隊を創設した人物でもある
元海上自衛官の伊藤祐靖氏。不審船の武装解除と無力化を主な任務とする特殊部隊を創設した人物でもある

「民間警備会社」と一口に言っても業務内容は幅広く、そのほとんどは車両誘導や雑踏警備など、通常の警備業務を行っています。ただ、ゴーン被告の逃亡事件で話題に上っている民間警備会社は、こうした通常の警備業務を行う会社とは一線を画しています。今回、ゴーン被告の逃亡を手引きしたような民間警備会社は俗に、「PMC(Private Military Company)」と呼ばれ、直訳すると「民間軍事会社」となります。こちらの会社の実態は軍事会社ですが、血なまぐさいイメージが付かないように「警備会社」と名乗ることが多いのです。

日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)は、民間警備会社の支援を受けて日本からレバノンへ逃亡したと報じられている。「ゴーンのフリーダム作戦」とでも呼ぶべき逃亡作戦を完遂した民間警備会社とはどのような組織なのか。元海上自衛官として北朝鮮不審船による日本領海侵犯事件に対応し、後に自衛隊初の特殊部隊である『特別警備隊』の創設にも携わった伊藤祐靖(すけやす)氏が、その実態を明かした。

戦闘経験を持つ元特殊部隊員も

PMCは欧米諸国に多く存在します。アメリカには少なくとも20社のPMCがあり、有名なのはイラク戦争時に民間人を殺害して悪名を馳せた『ブラックウォーター』(現在は『アカデミ』に社名変更)でしょう。世界最大規模のPMCは、イギリスに本社を置く『G4S』という会社で、90ヵ国54万人以上の従業員を抱えています。ほかにもロシア、南アフリカ、オーストラリアなどに本社を置くPMCが存在します。

PMCの仕事内容は、「軍隊が任務に専念するための周辺業務を行うこと」。例えば後方での食糧補給や基地警備などです。軍隊と共に活動するため社員が戦闘に巻き込まれ死亡することもあります。でも、これは民間人が通常業務中の事故で死亡するのと同様の扱いなので、軍人が死亡した場合と異なり国家は何の責任も負う必要がない。さらに、PMCはビジネスとして業務を遂行しているので、他社との競争のためかなり高いクオリティで仕事をしてくれる。国家にとっては非常に都合のいい存在で、だからこそPMCは発達し、数を増やしてきたのです。

とはいえ、逃亡劇の舞台は銃器を持つことが許されない日本の地だ。なぜ、ゴーン被告はPMCに仕事を依頼したのか。それは、PMC社員の中には特殊な訓練を受けた元軍人が多く在籍し、困難なミッションもこなせる可能性が高かったからだと考えられる。

PMCの社員は紛争地など危険地帯で活動することがあるため、武器を持つことが多く、戦闘経験はあったほうがいい。だから、社員の中には軍の特殊部隊に所属していた人間もいます。彼らは一日1000ドル以上の給料をもらいながら働いている。これは、一般的な軍人よりはるかに高い給料です。

特殊部隊員は、孤立することを大前提に選抜され、訓練を受けていますので、自分で何でもできてしまう。パラシュートで海面に降下し、スクーバ潜水で島に近付き、上陸後はレンジャー行動(崖やジャングルなど、道のない場所を歩くこと)をとることができます。怪我をすれば自分で治療をし、現地で水や食糧を調達しながら作戦を実行する。とくに銃器の扱いについては、多岐に亘(わた)る知識と豊富な経験があり、ナイフや素手での格闘能力も高いので、PMCからすれば打って付けの社員となるわけです。

だが、ゴーン被告の逃亡作戦には、このような特殊部隊出身者の技術が生かされる局面はなかった。しかし、だからこそ今回の作戦は評価に値すると伊藤氏は語る。

本作戦は、腕利きの元特殊部隊員が特別な技能を発揮したから成功したわけではありません。新幹線で東京から関西まで移動することも、楽器ケースに隠れたゴーン被告をホテルから連れ出すことも、作戦を構成していた一つ一つの行動は、それぞれどんな素人でもできることです。一方で、このように誰がやっても失敗しない作戦を立てて実行するためには、正確な情報に基づく合理的で実効性の高い作戦を立案しなければならない。その点において、今回暗躍したPMCは、完璧にビジネスを遂行したと言えます。

「民間警備会社」は世界各地に存在し、現在進行形で活動を続けている。彼らは日本も舞台にして暗躍していることが、今回の件で証明された。

’04年1月、イラク国内で活動していた民間警備会社の社員。銃を携行し、米軍関係者の車両を警護している
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ロンドンに本社を置く民間軍事会社『ハート・セキュリティ』が入った建物。過去には日本人も在籍していた
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’19年4月、再保釈されるゴーン被告。作業員に変装していた一度目の保釈時と異なりこの日はスーツ姿だ
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本誌未掲載カット 元海上自衛官の伊藤祐靖氏 カルロス・ゴーン被告逃走で暗躍した民間警備会社「PMC」の実態を明かす
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『FRIDAY』2020年1月24日号より

  • 撮影横田徹(1枚目) 時事通信社(3枚目)

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