MLBの「サイン盗み」に厳罰! 日本高野連も見習うべき | FRIDAYデジタル

MLBの「サイン盗み」に厳罰! 日本高野連も見習うべき

これを機に、日本の高校野球も「サイン盗み」に厳しい態度で臨み、疑惑のプレーの一掃を!

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2017年のワールドシリーズ第7戦2回表、アストロズのスプリンガーに2ランホームランを浴びたダルビッシュ有。これが「サイン盗み」によるものだったのか
2017年のワールドシリーズ第7戦2回表、アストロズのスプリンガーに2ランホームランを浴びたダルビッシュ有。これが「サイン盗み」によるものだったのか

米時間の1月13日、MLB機構のマンフレッド・コミッショナーは、かねてから「サイン盗み」の疑惑が報道されていたヒューストン・アストロズのAJ・ヒンチ監督と、J・ルノーGMを1年間の出場停止処分とした。

またアストロズ球団にも罰金の規定最高額である500万ドルが科せられた。さらに今後2年間のドラフトでの1巡目と2巡目の指名権も剥奪される。極めて厳しい処分だ。

アストロズ球団はコミッショナーの発表を受けてヒンチ監督とルノーGMの契約を解除した。
ヒンチ監督はメッセージを出し「無実である」としながらも今回の決定を受け入れた。
さらにMLB機構は今回の「サイン盗み」は、現レッドソックス監督のA・コーラ氏が、アストロズのベンチコーチ時代に開発したものとみて、コーラ監督にも処分を下すとのことだ。

ヒューストン・アストロズは現在のMLBで最強チームと言われている。セイバーメトリクスやトラッキングシステム、AIシステムなどを駆使した最先端の野球で、ヤンキースやレッドソックスなどの大資本球団に対抗して大きな実績を挙げてきた。しかしその最先端技術に「サイン盗み」も含まれていたことになる。
アストロズが「サイン盗み」をしているのではないかという疑惑が上がったのは2017年のワールドシリーズ、第3戦と第7戦に先発したドジャースのダルビッシュ有が、立ち上がりに大量失点し、ともに2回2死で降板したのがきっかけだった。ダルビッシュのマネーピッチ(勝負球)が狙い打ちされたことに、当時から疑惑の声が上がっていた。

今年のオフになって米メディアが「サイン盗み」の実態をスクープし始めたが、MLBのマンフレッド・コミッショナーは、この問題が広がりを見せる前に先手を打って、非常に厳しい処分を下した。
この背景には、アメリカでも「野球離れ」が進行していることがある。今季、MLBの観客動員は6849万人。前年から117万人減少。これで2016年から4年連続の減少だ。
MLB人気が退潮ムードの中、野球への信頼感を損なうような事件には、果断に対処するというリーダーの厳しい姿勢が見て取れる。

アメリカにコミッショナー制度ができたのは今からちょうど1世紀前の1920年のことだ。前年のワールドシリーズをめぐって八百長報道が激しさを増す中、初代コミッショナーのケネソー・マウンテン・ランディスは、事件にかかわったとされるシューレス・ジョー・ジャクソンなど8人の主力選手を永久追放にした。
これでMLBは救われたといわれたが、危機に際して強いリーダーシップを発揮するMLBのコミッショナー像はランディスによって確立された。

「サイン盗み」の問題は微妙だ。一・三塁のコーチが打者に対して送るブロックサインを守備側の選手が見破ることは「野球の戦術のうち」であり問題視されていない。
しかし、捕手が投手に伝える球種やコースのサインを、二塁走者や一・三塁コーチ、あるいは第三者が見破って打者に伝えることは禁止されている。
野球における「サイン盗み」とはこの一点に絞られている。
今回のアストロズのケースは、外野に設置したビデオカメラで捕手のサインを撮影して、打者に球種を教えていたというものだ。

実は日本のアマチュア野球界では、捕手のサインを盗む「サイン盗み」も違反行為だとは認識されていなかった。
昭和の時代、日本の少年野球漫画では、二塁走者が身振り手振りで打者にコースを教えるしぐさが描かれていた。高校野球でも「サイン盗み」は普通に行われていた。
しかし1996年9月、日本の高校野球代表が米カリフォルニアで行われた「世界四地域親善高校野球大会」に出場した際に、アメリカ選抜との試合で、二塁走者のしぐさを見ていたアメリカ人の三塁塁審が血相を変えて日本ベンチに来て「走者が打者に捕手のサインを伝えている。すぐにやめさせなさい」と注意した。その後も「一塁コーチが捕手の動きを見て何かを叫んでいる」と厳しく注意された。
このとき、日本チームは初めて「サイン盗み」が違反行為であることに気が付いたのだ。

実は、日本のプロ野球では「サイン盗み」は以前から禁止事項だったが、プロとアマの交流がない当時のアマチュア野球では「サイン盗み」は「頭脳プレー」と言われ、慣行として行われてきたのだ。
このとき、日本チームを率いた松山商の澤田勝彦監督は「恥ずかしながら、私自身も、何の違和感もなかった。捕手のサインや動きから球種やコースがわかれば、打者に教える。日本では普通にやっていたことだから」と語った。

この遠征には当時の日本高野連、牧野直隆会長も同行していた。牧野会長は事態を深刻に受け止め、改善を指示。1998年には日本高野連の審判規則委員会から「サイン盗みの禁止」が通達された。

[高校野球・周知徹底事項]
2.マナーについて
③ 走者やベースコーチなどが、捕手のサインを見て打者にコースや球種を伝える行為を禁止する。もしこのような疑いがあるとき、審判員はタイムをかけ、当該選手と攻撃側ベンチに注意を与え、すぐに止めさせる。

これ以降、高校野球でも「サイン盗み」は、禁止事項となった。

しかし昨年春の甲子園でも「サイン盗み」の問題がニュースになった。また夏の甲子園でも「サイン盗み」の疑惑があった。
この「周知徹底事項」は罰則規定がないため、高校野球界では一部の指導者が「サイン盗み」を容認しているといわれている。
ある指導者は、
「『サイン盗み』が、『公認野球規則』に禁止と明記されない限り、状況によってはやる。私が指示しなくても選手たちがやるのを止めることはしない」といった。

野球の国際大会でも、日本チームは巧妙に「サイン盗み」をしているという。
国際大会の運営に関わる日本人関係者は、
「日本の指導者の中には、『公認野球規則』に書かれていないことは、何をやってもいいと思って、裏をかくことばかり考えている人がいる。本来は『野球規則』が制定された経緯や歴史を尊重して、規則になくてもアンフェアなプレーや、相手へのリスペクトに欠けるプレーはしないようにするべきなのに、日本チームは『勝てばいいだろう』というプレーをする」と嘆く。

MLB機構の今回の処分は「粛清」と言ってもよい苛烈なものだ。これによって「サイン盗み」を容認する価値観は一掃されることだろう。
しかし日本の高校野球には「サイン盗み」に対する罰則規定は、依然としてない。だから疑惑のプレーがしばしばおこる。高校野球は「教育の現場」のはずなのだが。

MLBの「サイン盗み」に関する厳しい姿勢を日本の高校野球は、「他山の石」とすべきだ。
野球というスポーツの「公平性」「公正性」を担保し、信頼を維持するためにも、「サイン盗み」にもう一歩踏み込んだ姿勢を示すべきだと思う。

2017年、アストロズはワールドシリーズを初制覇。誇らしげにトロフィーを掲げるバーランダー
2017年、アストロズはワールドシリーズを初制覇。誇らしげにトロフィーを掲げるバーランダー
  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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