歌舞伎界のサラブレッド 片岡千之助“両親の離婚と海外への夢” | FRIDAYデジタル

歌舞伎界のサラブレッド 片岡千之助“両親の離婚と海外への夢”

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千之助は祖父が人間国宝・片岡仁左衛門、父が片岡孝太郎というスター一家に育った。19歳のホープが語る私生活と歌舞伎へのこだわりとは

京都・南座前での片岡千之助。師走の顔見世興行では3演目に出演した。2月には東京・歌舞伎座の舞台にも立つ
京都・南座前での片岡千之助。師走の顔見世興行では3演目に出演した。2月には東京・歌舞伎座の舞台にも立つ

「成人になりますけれど、まだ大人になるという気分が、ちょっとわからないですね。自分で決められること=自由が増える、でもそれに伴う自己責任も増えるのだろうな、とは思っています」

こう語る片岡千之助(せんのすけ)(19)は、2000年3月1日生まれの歌舞伎役者だ。祖父は上方歌舞伎最大のスターにして人間国宝の十五代目片岡仁左衛門(にざえもん)、父は人気の女形・片岡孝太郎(たかたろう)だ。12月には京都・南座で人気演目『仮名手本(かなでほん)忠臣蔵』の大星力弥(おおぼしりきや)を演じた。いかにも将来を約束されたサラブレッド、という感じがする。

「レールを敷かれているという感覚もあるし、守られてるな、ありがたいなという感覚もあります。両方ですね。線路はあるけどそれを壊して自分なりの道筋を作っていかなきゃという気持ちはあります。

祖父は立役(たちやく)(男役)、父は女形と違う道を歩んでいます。歌舞伎で男女どちらの役を主にするのかが決まってくるのは、だいたい20代前半ぐらい。ただ、僕はどちらもやりたい。祖父が演じて格好よかったものは全部やりたいし、父が演じる舞踊もの(の女役)も大好きなんです。弁天小僧、助六、『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)』の与兵衛。女形だと舞踊の鏡獅子とか道成寺、藤娘……挙げたらきりがありません」

とはいえ、40代でもまだ若手と言われる歌舞伎界で、19歳はひよっこだ。千之助も、まだ「学業優先」と言っていられる時期だという。現在、青山学院大学の比較芸術学科に籍を置き、表参道でのキャンパスライフを満喫している。

「朝が苦手なので、二、三限目から学校に行って、休み時間に喫茶店に行ったり。青学以外の同世代の友達をウチの学食に呼んで一緒にいることも多いですね。みんなすごく来たがるんで(笑)。

プライベートでは、俳優の友達が多いです。新田真剣佑(あらたまっけんゆう)君とか坂東龍汰君、あと『天気の子』で主役の声をやった醍醐虎汰朗(だいごこたろう)。虎汰朗はひとつ下なんだけど、『天気の子』を観て、感銘を受けると同時に、自分も声優をやってみたくなりました。

歌舞伎は、武家社会や遊郭の客と遊女などといった世界が描かれていますが、それらは、言ってみれば〝昔のリアル〟なので、現代劇で、今生きている普通の人間を表現することにも、とても興味があるんです。

勉強は嫌い! でも留学はしたいな。自分の力でしか生きていけない所に行きたいんです。日本にいたら、それこそ守られる存在なので、普通に一人の人間として生きる力をつけたいし、ロンドンに行ってシェイクスピアとかの芝居も観ておきたい。今の時期だからこそ、歌舞伎以外の、外の世界を見ておきたいんです」

千之助が「自分の力で生きたい」と繰り返し言う背景には、サラブレッドでありながらも、少しばかり複雑な家庭の事情があるのかもしれない。実は、彼の両親は離婚しており、千之助は3歳で母と共に片岡の家を出ているのだ。

「物心ついた頃から僕の中ではそれが当たり前だったし、他の環境はありえなかった。僕の人生は、常に反抗期ですよ。だからといって、あからさまに両親に反発をしているわけではありません。僕は人と同じになりたくない。特殊な生き方をしてきたからこそ、それを自分の誇りとして貫き通せればと思っているんです」

親から子、孫へと芸の伝承がなされる歌舞伎では、若くして親を失った役者は芸を教わることもままならず、なかなか役が回ってこなかった――現在では、昔の歌舞伎界ほど極端ではないにせよ、母方の一般家庭で育った千之助が、そうなったとしてもおかしくはなかったのだ。

「歌舞伎というある意味独特な世界の中でも、少し変わった生き方をしてきて、よくここまで(キャリアが)繋がったな、と感じます。歌舞伎役者の家庭で育ったわけではないけれど、それでも、僕はやっぱり歌舞伎がしたかったんです。

父と生活は共にしていませんが、ごく普通に会っていました。父は今でも僕に曾祖父の思い出とか、昔の役者さんはこんなことを話していたよ、と教えてくれます。祖父も平素は穏やかで優しいですが、稽古となれば容赦しません。今となってみれば、皆が幼い僕から歌舞伎を取り上げないでくれたんですよね。

だからこそ、20歳の大人になった僕が、これからどう生きるか見ていてください――そういう思いでいます」

平成最後の10年間には、市川團十郎や中村勘三郎などの看板役者たちが次々と他界し、歌舞伎界は激震に見舞われた。歌舞伎の未来は、千之助を始めとする若い世代の双肩にかかっている。

中・高時代はサッカーをしていたという千之助。「最近は歌舞伎に費やす時間が増えました」
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「身体を動かすのが好きなので踊りは好き。でも稽古は苦手。本番で力が出るタイプです」
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南座での『仮名手本忠臣蔵』で、主役の仁左衛門と。手前が千之助
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京都の花街、宮川町を歩く。片岡家(松嶋屋)は上方歌舞伎の名門だが千之助は東京生まれの東京育ちだ
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本誌未掲載カット 片岡千之助 歌舞伎界のサラブレッドに密着インタビュー
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『FRIDAY』2020年1月24日号より

  • 撮影福森クニヒロ、松竹(『仮名手本忠臣蔵』)

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