大塚家具・久美子社長続投の理由 ヤマダ電機会長“亡き愛娘の影”
ヤマダ電機が大塚家具を子会社化して1ヵ月――。
関係者を驚かせたのは、大塚久美子氏(51)の大塚家具社長続投だろう。同社は減収減益続き。’19年1月~9月期の売上高は、約210億円で前年同期比23%減。営業損益は30億円近くなり、経営者としての手腕に疑問符がついていたからだ。
「’15年12月に110億円あった現金が、’19年11月には22億円まで減少。資金ショートを起こしかねない状態でした。中国系ファンドを頼った時期もありますが、増資調達額は計画に未達で土俵際に追い込まれた状態だった。ヤマダ電機が子会社化しなければ、どうなっていたかわかりません」(全国紙経済部記者)
ヤマダ電機が、大塚家具を子会社化した理由は主に二つある。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が解説する。
「一つは大塚家具のブランドです。家電量販店は1円でも安く売るというビジネスモデルで、他店との消耗戦になりかねません。大塚家具の高級感は、こうしたモデルを転換できる可能性があるんです。二つ目は業態の多角化。もう家電だけを売っていれば、経営が成り立つ時代ではない。ヤマダ電機は『くらしまるごと』をテーマに、家電以外の生活必需品にも着手しようとしています。大塚家具を傘下に加えることで、家具だけでなく取引先から修繕のノウハウを得ることができるんです」
だが、冒頭で触れたように久美子氏の経営手腕には疑問が残る。大塚家具の関係者によると、久美子氏は好転しない会社の状況に「(社長を)辞めたい」と漏らしたともいわれる。なぜヤマダ電機は、久美子氏の続投を許したのだろうか。
「ヤマダ電機の山田昇会長の意向のようです。久美子氏の名前は、父・勝久氏と経営方針をめぐり起きた親子騒動などで全国区になっています。有能でも無名の新社長を就任させるより、久美子氏なら知名度抜群で広告塔としての役割を果たせるんです」(経済誌記者)
別の憶測もある。山田会長が久美子氏に、亡くなった愛娘の姿を投影していのではないかというのだ。
「山田会長の長女はとても優秀で、若くしてヤマダ電機の社長室長を務めていました。会長は、彼女を将来の社長候補として考えていたようです。ただ’02年12月に本社(群馬県前橋市)から帰宅途中に、信号無視をした乗用車にはねられ亡くなってしまった……。まだ26歳の若さでした。会長は加害者に約7億円の損害賠償を求める訴えを起こしましたが、これは長女が50歳で社長になると仮定した生涯所得から換算した金額。会長の落ち込み様は相当なものでした。長女が生きていれば、久美子氏と似たような年齢です。会長にとって久美子氏は、とても赤の他人とは思えず親近感を持っているのではないかと言われています」(前出・記者)
ただ、いくら山田会長の思い入れが強くても実績を残さなければ厳しい現実が待ち受けている。前出の松崎氏が続ける。
「一つの節目になるのが、今年7月に行われる株主総会でしょう。それまでに赤字を削減のメドをつけ各店舗の売り上げを伸ばすなど結果を出さなければ、久美子氏は解任される可能性がある。創業者である山田会長はシビアの面も合わせ持っています。一時期『後継者』と目された長男に対しても、『その任にはないと思う』と’16年に取締役から外してしまった。久美子氏も続投が決まったからといって、決して安泰ではないのです」
いまだに土俵際に立たされる久美子氏。彼女にとっても大塚家具にとっても、真価が問われるのはこれからだ。



撮影:蓮尾真司