田淵幸一の野球殿堂入りに思う いま再評価すべき選手たち!

土井正博、加藤秀司、掛布雅之、長池徳二も殿堂入りしていないという事実

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20007年、北京五輪出場を決め笑顔を見せる星野仙一監督(左)と田淵幸一コーチ

2020年の野球殿堂表彰のエキスパート部門で、元阪神、西武の田淵幸一が選出された。昭和の野球ファンには懐かしい名前だ。圧倒的に強かったV9時代の巨人に対して、真っ向から勝負を挑んだ数少ないスラッガーだった。

1975年には13年連続で本塁打王を獲得していた王貞治を下して43本で本塁打王を獲得している。
タイトルは本塁打王1回だけだったが、通算474本塁打は史上11位。

300本塁打以上の打者の本塁打率(本塁打数÷打数)ランキング。*は現役。

(数字は左から本塁打、打数、本塁打率)
1 王 貞治   868  9250 0.0938
2 田淵幸一   474  5881 0.0806
3 A・カブレラ  357  4510 0.0792
4 T・ローズ   464  6274 0.0740
5 中村剛也   415  5729 0.0724 *

この数字からも、田淵は王貞治に匹敵するホームランバッターだったことがわかる。

そういう意味では、田淵幸一の殿堂入りは誠に喜ばしいことではある。しかし、これまでの殿堂入りの傾向を見ていくと、今回の田淵の殿堂入りはかなり異例だったことがわかる。

昭和中期まで、打者の2000安打は野球殿堂入りの「十分条件」だったが、今は「必要条件」になっている。
つまり2000本を打ったからと言って殿堂入りするとは限らないが、2000本に到達しないと、よほどのことがない限り殿堂入りは難しいのだ。

殿堂入り表彰の制度が現行のプレーヤー表彰、エキスパート表彰になった2008年以降、2000安打未満で殿堂入りした野手は以下の5人。

2009年 エキスパート表彰 青田昇(1827安打)
2017年 プレーヤー表彰 伊東勤(1738安打)
2018年 プレーヤー表彰 松井秀喜(1390安打)
2018年 エキスパート表彰 原辰徳(1675安打)
2020年 エキスパート表彰 田淵幸一(1675安打)

このうち青田昇は選出時すでに故人であり、戦前戦後に活躍した「歴史的なスラッガー」として“再発見”された形だ。
また松井秀喜はMLBでの安打数を合算すると2655安打になる。

残る3人のうち、伊東勤と原辰徳は、引退後、監督になり、リーグ優勝を果たしている。
もともとエキスパート表彰は、選手引退後の監督としての実績も加味するとされている。この二人は選手時代と監督時代の実績の「併せ技」で殿堂入りしたと考えられる。

しかし田淵幸一は1990~92年にダイエー・ホークスの監督を務めたものの4位が最高。監督実績が、選手実績に上乗せされるとは考えにくい。

選考委員からは「法政大学時代の22本塁打も加味した」という声が上がっているが、選考基準がかなり揺れている印象がある。

田淵幸一が殿堂入りすることに異論はないが、だったら同程度、あるいはそれ以上の実績を残した選手も見直すべきではないかと思う。

田淵幸一と同等かそれ以上の実績を挙げながら、殿堂入りしていない主要な選手を挙げてみよう。
参考までに田淵の成績も並べる。

田淵幸一 1532安打 474本塁打 1135打点 打率.260

土井正博 2452安打 465本塁打 1400打点 打率.282
大島康徳 2204安打 382本塁打 1234打点 打率.272
清原和博 2122安打 525本塁打 1530打点 打率.272
松原誠 2095安打 331本塁打 1180打点 打率.276
有藤通世 2057安打 348本塁打 1081打点 打率.282
加藤秀司 2055安打 347本塁打 1268打点 打率.297
柴田勲 2018安打 194本塁打 708打点 打率.267
山﨑武司 1834安打 403本塁打 1205打点 打率.257
T・ローズ 1792安打 464本塁打 1269打点 打率.286
江藤智 1559安打 364本塁打 1020打点 打率.267
掛布雅之 1656安打 349本塁打 1019打点 打率.292
長池徳二 1390安打 338本塁打 969打点 打率.285

清原和博は「前科」があるため、現在の規定では殿堂入り候補にはなれない。
加藤秀司は、田淵と同期入団だが打点王3回、首位打者2回。田淵がとっていないMVPにも輝いている。
柴田勲はスラッガータイプではないが、V9戦士では王貞治、長嶋茂雄に次ぐ安打数。盗塁王に6回輝いている。
タフィ・ローズは田淵よりも主要な成績はすべて上。MVPにも輝いている。
長池は1500安打にも達していないが、本塁打王、打点王各3回、MVP2回だ。

今年の時点で、ローズと山﨑はプレーヤー表彰、長池、加藤はエキスパート表彰の候補になっているが、票は伸びていない。そして他の選手は、現時点では候補にもなっていない。殿堂入りの道は閉ざされている。

野球殿堂表彰は、運動記者クラブに所属する記者などの投票なので、表彰の基準は一定ではない。これは仕方がないが、ある選手が選出されたら、成績が近い他の選手たちも再評価する様な動きがあっても良いと思う。

MLBの野球殿堂表彰も、価値基準が揺れ動く。
MLBで26年にわたってプレーし、288勝を挙げたトミー・ジョンは、史上初めてフランク・ジョーブ博士の執刀で「側副靱帯再建術」を受けた投手として知られる。この手術は以後「トミー・ジョン手術」といわれるようになる。まさに歴史的な選手だが、1995年に殿堂入り候補となったものの、得票率は2009年の31.7%が最高。合格ラインの75%に遠く及ばないまま姿を消した。
その後、日本のエキスパート表彰に当たる時代委員会にノミネートされたが今季も選出されなかった。

こうした理不尽は、記者投票である限りどうしても生じてしまうが、「野球殿堂」が野球人にとって究極の栄誉であり、ステイタスにも大きくかかわることを考えれば、野球殿堂の権威を守るためにも、殿堂入りから漏れた選手に再度、光を当ててほしいと思う。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

  • 写真YUTAKA/アフロスポーツ

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