人間はヘビのおかげで進化した? 驚きの『ヘビ検出理論』とは

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脳を発達させることで生き残ってきた人類。その立役者がまさかの“ヘビ”だったという新事実! 

ヒトは森のなかで、ヘビを正確に素早く見つけ出す

長い間、ヒトの祖先である霊長類の脳が発達したのは、果実食への移行や社会的な交渉が要因だと言われてきた。そこに彗星のごとく現れた新説、しかも、いま多くの実験結果により支持されているというのが「ヒトの祖先はヘビを素早く見つけるために視覚野が発達し、脳が大きくなった」という『ヘビ検出理論』だ。

ヘビを素早く見つけると、なぜ脳が大きくなるのか。この理論を数々の実験で証明してきた名古屋大学大学院情報学研究科の川合伸幸教授に聞いた。

木の上で生活していた霊長類の唯一の天敵。それはヘビ!

2009年、アメリカのLynne Isbel氏が唱えた『ヘビ検出理論』。彼女は人類学者だったため、認知心理学的な研究・実験は行われなかった。それを実際にサルやヒトで実験したのが川合先生のグループなのだ。その実験結果をいくつか紹介すると……。

・3歳児にたくさんの写真を見せると、他の動物よりもヘビの写真を早く見つける。

・学生にヘビ、ネコ、トリ、サカナの写真をノイズが入った状態で見せ、徐々にノイズを薄くしていくと、高ノイズでもヘビを見分ける人が圧倒的に多い。

・生まれてから一度もヘビを見たことがないサルも、ヘビは素早く見つけられる。

・ヒトは森を映した風景写真の中から、トカゲを見つけ出すより正確かつ早く、ヘビを見つけ出す、などなど。 

そもそも、なぜヘビなのか。

「霊長類は元々“食虫目”といってトガリネズミみたいなものから進化していき、木の上で暮らしていました。6500万年前、恐竜が絶滅した頃には気候の変化もあって樹幹は非常に大きくなり、30mくらいの高さのところに広葉樹の屋根ができて、一生をそこで過ごしていたのです。広葉樹は猛禽類の侵入を防ぎますし、大型のネコ科の動物も7〜8m程度しか上ることはできない。となると上まで登って来られる天敵はヘビだけ。霊長類が誕生した頃から、“唯一の天敵はヘビ”だったのです」(川合伸幸先生・以下同) 

人間の脳に埋め込まれているヘビの“ウロコ”に対する脅威

早くヘビを見つけないと食われる! という脅威が、猿にも人間にも深く染み付いているということか? あのニョロッとした風体を遺伝的に記憶しているのだろうか。

「形ではなく、ウロコのパターンを見てヘビだと認識し、脅威を感じているようです。画像加工ソフトのフォトショップなどを使ってヘビのウロコを消し、ウナギのようにすると、見つける速度は遅くなります。逆にウロコのないイモリにウロコを加工すると、ヘビ同様に早く見つけられるようになります。

脳の奥の方に“扁桃体”といって恐怖を感じるところがあり、そこへ情報を伝える“視床枕”という部分に、ヘビのウロコのようなパターンを見ると反応する神経細胞群があります。そこでヘビを検出しているのではないかと考えられます」

ちなみに虫の卵がビッシリ並んでいるような状態にゾワッとするのも、ウロコのパターンへの脅威から来る条件反射らしい。

「私の友人にも蛇をペットとして飼っている蛇学者がいますが、あの人たちは僕に言わせると、脅威は感じているんだけれども、そのドキドキした感情を間違えて解釈しているのではないかと思って…(笑)」と川合先生。写真は、ブリスベンでヘビと戯れる大坂なおみ選手

考えてみれば聖書にもヘビが出てくる。ヘビは遠い昔から人類に畏れられてきたのかもしれない。

「日本でも八岐大蛇を切ってシッポから出てきたのが草薙の剣ですし、出雲大社の大きなしめ縄はヘビがモチーフだとも言われています。エジプトでもファラオがヘビを持っていて、WHO(世界保健機構)のマークも杖にヘビがからまっていますし、世界中で色々なもののシンボルになっています。人類は無意識レベルで、ヘビが特別な存在だと感じとっているのではないでしょうか」 

日本で中世以降、広く信仰された宇賀神(うがじん、うかのかみ)。人頭蛇身でとぐろを巻く

ヘビがいなければ、人間は「愛すべきバカ」になった!? 

では、もしもヘビがいなかったら視覚野は大きくならず、脳は発達しなかった? 

「南アフリカの横にあるマダガスカル島には毒ヘビがいません。島にはワオキツネザルや、横っ飛びでピョンピョンはねるシファカなど、何種類かのサルがいます。たとえば、ワオキツネザルを一頭つかまえても、仲間のサルたちは逃げずにただボーッと見ているだけです。これがニホンザルならみんな逃げてしまいますが、ワオキツネザルは全然気にしない。シファカも『なんだなんだ?』と興味本位に集まって来るので、ついでにそいつも捕まえて・・・、という感じになります。このように、天敵であるヘビがいない場所に住むサルの脳は小さく、目もよくありません。利口ではないけれど、とてもかわいいですよ」 

おバカさんだけど、かわいいワオキツネザル

人間がすごいのは、唯一知識を伝達する生物だということ

ヘビのおかげで脳も目も発達したという人類。これからも進化を続けていくのだろうか。

「たとえばロンドンのタクシー運転手の人たちは、市内の建物や番地を全部覚えていますよね。彼らの脳を調べると、長く運転手をやっている人は“海馬”という、場所などを覚える領域が大きくなっています。使っているうちに大きくなっていったんでしょうね」

だとすると、もしもロンドンタクシーの運転手同士がカップルになり、子孫を残すということを延々続けていくと、いずれは海馬の大きい特殊能力を持った子どもが誕生する!…なんてことはさすがにないですよね? 

「“人を威嚇しない性質”のキツネだけを交配し続けるという研究が60年ほど前からシベリアで行われています。50年くらい経った頃から犬のようにかわいい顔だちになり、『どっちに餌があるか』などと指で示すと人間の所作を読み取って、的確に餌を見つけられるようになりました。普通のキツネにそんなことはできませんから、選択交配をしていくと、その可能性は皆無ではないのかもしれません」

マジですか!? やはり世襲制度にはそれなりのメリットがあるのかも!

「人間がすごいのは、進化もそうですが、言葉等で直接文化を伝えて残せるところにあります。サルは何かを会得しても、それを誰かに教えることはしないので、一代限りでいちいちリセットがかかります。

我々人間は色々な情報を親から子に伝えたり、書き留めて残すことができる。脳を大きくするより、直接伝えるほうがはるかに効率的だし、それができるのは人間だけです」 

とはいえ、その情報伝達ができる脳や視覚を進化させることができたのはヘビのおかげ。でも脅威の対象がいないマダガスカルで、バカだけど愛されてのほほんと生きていくという選択肢も、それはそれでちょっと羨ましいかも。

川合伸幸(かわい・のぶゆき) 名古屋大学 大学院情報学研究科 教授。研究領域は比較認知科学・認知科学・実験心理学・生物心理学・生理心理学・神経科学。「ヘビ検出理論」の検証のほか、ザリガニの回避学習、キャッチボールでの仲間はずれによる脳の反応、ヒトが加齢によって“待てなくなる”原因など、興味深い研究を続けている。著書は『科学の知恵 怒りを鎮める うまく謝る』(講談社)、『凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体』(小学館)ほか多数。

  • 取材・文井出千昌写真アフロ

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