医療ドラマ6本乱立? 実は個性的な作品を視聴者はこう見た!
1月放送のGP(夜7~11時)帯ドラマがほぼ出そろった。
全体17本(大河ドラマを含む)のうち、6本が医療ドラマ。これに刑事ドラマが6本加わり、特定ジャンルに偏った編成という批判がある。「視聴者のドラマ離れが加速」とか、「危険水域」などと指摘されていた。
しかしドラマを見る前から、医療系が6本だから乱立などと決めつけるのは、本当に当たっているのか。既に放送されたドラマを見る限り、そうした表面的な批判は、実は的外れであることがわかる。
散々な言われ方をしている医療ドラマについて、視聴者はどう見たのかを分析してみた。
乱立する医療ドラマ!?
1月クールで始まった医療ドラマは以下の6本。
『アライブ がん専門医のカルテ』(松下奈緒主演・フジテレビ)
『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(天海祐希主演・日本テレビ)
『恋はつづくよどこまでも』(上白石萌音主演・TBS)
『病室で念仏を唱えないでください』(伊藤英明主演・TBS)
『心の傷を癒すということ』(柄本佑主演・NHK)
『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』(小泉孝太郎主演・テレビ東京)
これらを「乱立」「ドラマ離れ加速」「危険水域」と批判する記事は、まずSNS上での声を根拠にした。
「そんなに医療ものばっかり見たくない」
「医療系のやつ何個あんねん」
「柳の下にと思う局がバカに見える、テレビ離れと言うのが判る」
大河ドラマを含めると、1月放送のGP帯ドラマは週17本。深夜を含めると1日3本を超えるが、全部見る視聴者はまずいない。
医療ドラマが6本あっても、やはり全部見る人はごく一部だろう。しかも選択肢は、依然たくさん残されている。「テレビ離れ」というつぶやきがあったが、恐らくネット記事などの受け売りで、具体的な因果関係を示したデータは何も示されていない。
次に評論家と称する輩が登場する。
「(医療ドラマは)そもそも視聴者受けがいいから、視聴率もそこそこ期待できる」と規定しておきながら、「『アライブ』は途中リタイア、『トップナイフ』はそれなりに面白く見ましたが、手術シーンはもう見たくない」と断ずる。
「視聴者受けがいい」と「手術シーンはもう見たくない」の発言は、まったく矛盾する。しかも評論家さんは、6本見たわけでなく最初の2本で辟易と言っている。見もしないで否定してしまうのは、プロの評論家としてどうなんだろうか。
また別の評論家さんは、「中高年層がターゲットであることは明らか」と医療ドラマを断ずる。さらに「ドラマ全体のイメージダウン」と斬り捨てる。
しかし『恋はつづくよどこまでも』は、出演者・設定・ストーリー展開から判断して、どう考えても中高年でなく若年層をターゲットにしている。新たな視聴者層開拓の意欲がある。
また『トップナイフ』初回は、1月にスタートした民放の連ドラの中では、13.0%で世帯視聴率は1位だった。ただしスイッチ・メディア・ラボによれば、M3+(男65歳以上)の個人視聴率は、『絶対零度』初回の8割ほどしかない。逆にFT(女13~19歳)やF1(女20~34歳)では、1.5倍から5倍も高かった。明らかに高齢者ではなく、若年層の開拓に成功している。
これらの事実を無視して、医療ドラマ即中高年層ターゲットと決めつけてしまう姿勢は、やはりプロの仕事として納得できない。
医療ドラマ5本の見られ方
まずは既に放送された5本の医療ドラマが、どう見られたか事実と向き合ってみよう。
ビデオリサーチが測定する世帯視聴率では、『トップナイフ』初回は13.0%。
他に『病室で念仏~』11.3%、『恋はつづくよ~』9.9%、『アライブ』8.4%、『心の傷を~』6.5%。そして『病院の治しかた』は20日の放送となるが、『アライブ』『心の傷を~』以外は及第点といったところか。
次に性年齢別などの視聴者層別の個人視聴率を見てみよう。
スイッチ・メディア・ラボが測定する個人視聴率では、『トップナイフ』初回は若年層や日テレのコアターゲット層(13~49歳)でよく見られている。特に小中高生やFT(女13~19歳)の突出ぶりが目立つ(図1)。
「(医療ドラマは)中高年層がターゲット」という認識が、如何に当たっていないかわかる。
また『病院で念仏~』や『恋は続くよ~』も、FTからF2(女性13~49歳)でよく見られた。同時に3+層(男女65歳以上)でもトップクラスとなった。「中高年層がターゲット」という側面も残る。
一口に医療ドラマといっても、実際の見られ方は、実に多様なのである。
次に各層の個人視聴率を含有率で見てみよう。
個人視聴率全体を分母に各層を比率で表現すると、やはり『トップナイフ』はFTを中心に若年層の比率が高い。そして65歳以上で低くなっている。狙い通りコアターゲットに刺さっていたことがわかる(図2)。
ただし『心の傷を~』は、NHKの他の番組と同様で、1層以下(34歳以下)ではほとんど見られていない。逆に65歳以上で突出した。ふだんの視聴習慣を、同ドラマは破れなかったようだ。
医療は単なる入り口
6本の医療ドラマを設定やストーリー展開、さらにテーマで見てみよう。
『トップナイフ』は、サブタイトル「天才外科医の条件」とあるように、人気シリーズ『ドクターX-外科医・大門未知子-』のような優れた外科医が主人公だ。
ただし対象とするのは、人類にとって最後の未知なる領域の脳だ。算数の問題を解くような、ズバズバ切れ味鋭くはいかない。しかも天才外科医たちは、それぞれ人間としての欠点や苦悩を抱える。
『ドクターX』のようなパターン化された劇画ドラマではなく、人間を描く志を感ずる。初回の見られ方をみると、こうした作りを視聴者が好意的に受け止めていることがわかる。
番組開始数分で大きく数字を落とすことなく、しかも前半でじわじわ接触率を上げている。途中CMで離脱する視聴者はいるが、その後もほぼ横ばいで推移しているので、最後まで見た視聴者が大半だったことがわかる(図3)。
一方『恋はつづくよどこまでも』は、主演が上白石萌音で相手役が佐藤健。医療が舞台の恋愛ドラマで、明らかに若年層狙いだ。
ただし前番組『マツコの知らない世界』ラストが高い数字で来たため、番組開始数分で大きく視聴者に逃げられている。しかも中盤も流出が目立つ。
個人視聴率でみても、ターゲットとした若年層にはあまり届いておらず、逆に65歳以上によく見られた。
医療を入り口にした恋愛ドラマは、狙い通りとはいかなかったようだ。
他に『アライブ』は”がん”をテーマに、自ら痛みと秘密を抱えるスペシャリストたちの闘いと苦悩を描くメディカル・ヒューマン・ストーリ ー。
『病室で念仏~』は僧侶であり救命救急士を演ずる伊藤英明が主人公。医療を舞台にしているが、テーマは死を入り口に“生きるとは”を問おうとしている。
また『心の傷を癒すということ』(柄本佑主演)は、精神科を入り口に“癒し”と向き合う佳作だ。そして『病院の治しかた』(小泉孝太郎主演)は、病院が舞台だが倒産の危機からの再建の物語。「ドラマBiz」枠でもわかる通り、経済・ビジネスドラマとなっている。
以上のように、一口で医療ドラマといっても、実際には内容や向き合うテーマは別々だ。
視聴者を惹きつけられるか失敗するかは、医療だから決まるのではなく、設定・ストーリー展開などで決まる。ましてや医療だから中高年が見るなどと決まってはいない。『トップナイフ』のように、主人公はアラフィフでも若年層に見られるケースもある。
医療が舞台などの表面的な情報で、ドラマを決めつけてしまうのは惜しい。
描かれている内容は、人間を凝視する優れた物語も少なくない。20日に『病院の治しかた』が放送されて、医療ドラマ全6本が出そろうが、ぜひ無責任な外野の声に惑わされることなく、自分の心に響く面白いドラマを見てもらいたいものだ。
- 文:鈴木祐司