『麒麟がくる』初回19.1%で安堵? 求心力と視聴者構成に不安 | FRIDAYデジタル

『麒麟がくる』初回19.1%で安堵? 求心力と視聴者構成に不安

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主演の長谷川博己。19年11月末の「撮り直し」をしている時期だ。酒屋で上質なシャンパンを購入  撮影:島颯太
主演の長谷川博己。19年11月末の「撮り直し」をしている時期だ。酒屋で上質なシャンパンを購入  撮影:島颯太

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(長谷川博己主演)が始まった。
初回視聴率が19.1%で、「好スタート」「NHK安堵」「大河復権」などの記事が目立った。

しかし大河の初回は、20%前後が相場だ。
史上ワーストだった『いだてん』でも、15%は超えている。19.1%が驚くほど高いわけではない。

むしろ番組途中の上昇力や視聴者の流出、さらに視聴者の年齢構成など、不安がないわけではない。
視聴データから、初回を客観的に位置付けてみた。

大河ドラマの初回視聴率

大河ドラマ初回の視聴率は、この10年の平均が18.3%。
今回の『麒麟がくる』は、それより少し上。そもそもビデオリサーチ関東地区での20%は、誤差が±2.7%ある。過去10年の大河初回は、ほぼ18.0%±2.7%と誤差の範囲に収まっている。一喜一憂してもあまり意味がないこととわかる。

ただしインテージ『Media Gauge』で15秒単位の推移をみると、『真田丸』(16年・堺雅人主演)以降で初回がどう見られていたかの詳細が浮かび上がる。数十万台のネット接続テレビの視聴ログから、高い精度で流入・流出や接触率を計測できるからだ。

年間の平均視聴率が8.2%で史上ワーストとなった『いだてん』(19年・中村勘九郎と阿部サダヲ主演)は、スタート時の接触率が5本の中で最も低い。最初の10分で1%弱接触率が上がるが、その後40分ほどは横ばいで終わる。
裏の民放から、CMのタイミングなどで流入する視聴者が一定数いるが、『いだてん』からの流出が同じほどあり、上昇する力に欠けていた(図1)。

(図1)大河ドラマ 接触率の推移比較
(図1)大河ドラマ 接触率の推移比較

『西郷どん』(18年・鈴木亮平主演)や『おんな城主 直虎』(17年・柴咲コウ主演)は、『いだてん』より高く始まり、番組途中も上昇し続けた。この辺り、視聴者の評価には差があったと言えよう。

ところが『麒麟がくる』は、スタート時の接触率がトップの『真田丸』とほぼ同じだが、冒頭10分での上昇力が弱い。しかも10~50分での上昇力が、『いだてん』と同じ様にない。

前作が史上最低視聴率、本作の出演者の逮捕・急遽代役決定など、さまざまな話題で注目度は高かった。ところが始まってみると、途中から見始めた視聴者を釘付けにするほどの求心力に欠けていた可能性がある。

流入・流出データから見えること

このあたりを流入・流出データから細かく見てみよう。

ドラマ冒頭の数分は、流入も流出も激しい。
それまで別のチャンネルを見ていたが、8時以降で大河を見始めた人が流入。7時台にNHKを見ていたが、8時から民放の番組を見ようと出て行った人が流出だ。

大河初回は毎年、冒頭数分は流入が流出を上回る。今も視聴者を集める注目の番組であることがわかる。(図2)。

(図2)大河ドラマ 流出入率の比較
(図2)大河ドラマ 流出入率の比較

次に番組途中で、流入がスパイクする瞬間を見てみよう。
これは裏の民放でCMとなり、視聴者の一部がザッピングを始めた瞬間だ。そのまま大河を見続けてもらえれば、接触率は右肩上りとなる。

『真田丸』は流入スパイク後に、流出が大きく上回ることがなかった。これが10分から50分までに1%ほど接触率を上げた勝因だった。途中から見た視聴者を、そのまま取り込んでいたのである。

ところが『いだてん』も『麒麟がくる』も、流入過多の時間帯の後に、流出過多が来ている。つまりザッピングで覗きに来た視聴者を物語に引き込む力がなかったのである。
接触率が横ばいで終わった原因である。

『いだてん』では、10分台に流出過多が数分続く。
たけし演ずる志ん生が解説するシーンと、大使館での議論のシーンだった。「何を言っているのか聞き取り難い」「内容が難しい」と、視聴者を失っていた。
また40分台で流出がスパイクした瞬間があった。ここも議論が続いたシーンで、視聴者の中に理屈の多さから脱落した人が一定数いたことがわかる(図3)。

(図3)大河ドラマ 流出率の推移比較
(図3)大河ドラマ 流出率の推移比較

『麒麟がくる』にも、流出がスパイクする瞬間や流出過多が続くシーンがあった。
流出スパイクは、タイトル映像。出演者のテロップが異様に大きく、かけている時間の割に情報が乏しいため、離脱した人が少なくなかったと推測される。

そもそも大河のタイトル映像は、2分40秒ほどと長すぎる
民放ならストーリーを展開させながら出演者とスタッフの紹介を処理し、視聴者の脱落を防いでいる。大時代的なタイトル映像と出演者紹介は、視聴者に歓迎されてないようだ。

次に流出過多となったシーン。明智光秀(長谷川博己)と松永久秀(吉田鋼太郎)が酒を酌み交わし、酔いつぶれた光秀が翌朝目覚めた場面だった。
動きのない会話だけのシーンは、よほどセリフに魅力がないと視聴者は飽きる。松永久秀の最期を知っていてる歴史通ならば、光秀との今後の展開を想像して盛り上がれるかもしれないが、普通の視聴者からすれば状況説明が潜り込んでおり、理屈っぽいと感ずるからだ。

『真田丸』では、理屈が先行しがちな会話シーンに、クスッと笑え、感情が動くセリフを三谷幸喜が織り交ぜていた。流出が流入を上回ることがほとんどない、見事な脚本だったのである。
残念ながら大河復権をめざす『麒麟がくる』では、こうしたストレートな表現が続く場面で、脱落者を生んでしまう不安がある。

視聴者層もやや不安・・・

『麒麟がくる』の初回を見る限り、視聴者層にも不安が残る。

大河ドラマの視聴者層 ~各層の含有率の違い~
大河ドラマの視聴者層 ~各層の含有率の違い~

毎度のことながら大河ドラマは、C層から1層(4~34歳)の比率は極端に低く、50歳以上、特に65歳以上の比率が突出している。
若年層の開拓が出来なかったあたりに、大河ドラマが時代とともに右肩下がりとなった原因がある。

そんな大河の状況に加え、『麒麟がくる』は例年以上に若年層の比率が小さく、高齢層が大きい。
例えば『真田丸』や『おんな城主 直虎』は、C層(4~12歳)やT層(13~19歳)にも比較的見られていた。ところが高齢層に見られなかった『いだてん』に続く『麒麟がくる』は、若年層が壊滅的で、65歳以上の比率が最も高い

こうした視聴者構成は、一定の視聴率にはつながる。
「NHKの上層部は安堵」するだろうし、「大河復権」と評価されるかも知れない。しかし望ましいのは、高齢層を確保しつつ若年層を開拓できる次世代の大河ドラマだ。
中年以下を開拓できなければ、いずれ視聴者は減ってしまうからだ。

しかも高齢者のインターネット利用率も上がっている。
オンデマンドかつピンポイントに情報を消費することに慣れてきている人は、かけた時間に見合う面白さを得られることに厳しい。

初回はどんな内容か試しに見る人が多い。
2話以降でも長いタイトル映像や動きのない会話シーンが続くようなら、高齢者といえども脱落者が増える可能性はある。

テレビ番組の視聴者数は、人を集める魅力などのプラスと、飽きられて離脱されるマイナスの総和で決まる。
初回を見る限り、話題・注目度で一定の人を集めることに成功した。ただし途中で逃げられる要因もあり、番組後半に向けての上昇力に欠けた。
この辺りを2話以降でどう対応するか。“麒麟がくる”か否かは、今後の演出力が決め手となりそうだ。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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