世界へ拡散中!超格差エンタメ『パラサイト』が韓国で生まれた理由

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映画『パラサイト 半地下の家族』が世界中で旋風を巻き起こしている。
カンヌ国際映画祭では韓国映画として初めて最高賞を受賞。米アカデミー賞では韓国映画初となる作品賞にノミネートされた。韓国では観客動員数が1000万人を超え、日本でも拡大公開が始まり週末興行成績は5位にランクイン。まさに“寄生虫”となって世界中のスクリーンで猛威をふるっているのだ。

映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

これだけの話題作なのに、本作の面白さを説明するのはとても難しい。というのも、本作には公開前から厳しい“ネタバレ禁止令”が出ているからだ。すでに見た観客は映画の感想を語り合いたくなる衝動に駆られるが、まだ見ていない人にとっては全貌が見えづらい。

韓国映画界の巨匠ポン・ジュノ監督による映画『パラサイト』は、韓国の格差社会を露骨に描いたブラックコメディだ。
一見、国内向けの映画と思われがちだが、これが世界中にウケた。2019年5月25日にカンヌ国際映画祭では満場一致で最高賞のパルムドールに輝き、192ヵ国もの国と地域に販売されている。
韓国での公開はその4日後で、自国でも衝撃を与える内容だったため口コミで評判が広まり、最終的には1000万人を超える観客動員数を記録。
今年1月14日に発表されたアメリカの「第92回アカデミー賞」のノミネートでは作品賞、監督賞 、国際映画賞(旧:外国語映画賞) 、脚本賞 、編集賞 、美術賞の計6部門で候補になった。

ストーリーは一見単純で、日本人の私たちの目から見ても分かりやすい。だが油断して笑っていると、とんでもない深い闇に突き落とされる。
本作に登場するのは2つの家族だ。半地下の住宅にしか住めない貧しいキム一家が、高台の大豪邸に住むパク一家と知り合い、徐々に寄生していく。

キム一家は貧困層で半地下の住宅に住んでいる。父親のギテクは事業に失敗して失業中。息子のギウは何度も大学受験に失敗している。娘のギジョンも美大に落ち、予備校に通う金もない。
途方に暮れるしかない絶望的な状況だが、ある日、ギウに家庭教師のアルバイトの話が舞い込む。彼が向かったのは高台にそびえ立つ大豪邸で、IT企業を経営するパク社長の自宅だった。
そこには貧困層のギウが見たこともない景色が広がっていた。ギウは一家の様子を見て、あることを思いつく。「もう一人、いい家庭教師がいるのですが」
後日、ギウと共に大豪邸を訪れたのは妹のギジョンだった。難なくパク家の家庭教師におさまったギジョンはある仕掛けをする―。

突拍子もないストーリーが生まれやすい社会構造

脚本はポン・ジュノ監督のオリジナルだが、まったくのフィクションとはいえない。
経済が悪化の一途をたどっている韓国では「富裕層」「中間層」「貧困層」といった階層間の差が年々激しくなり、葛藤が生じている。就職難も深刻で「警備員一人の採用枠に500人もの大卒者が集る時代」なんてセリフも飛び出すほどだ。
ポン・ジュノ監督はそんな自国の状況を目にしながら「富裕層」と「貧困層」の交わりについて考えたとき、アイデアが思い浮かんだという。
“半地下に住む貧困層”と“高台の大豪邸に住む富裕層”をアルバイトという“雇用”で結びつけ、今の韓国社会の光と闇を浮き彫りにしたのだ。その結果、とんでもない化学反応を起こさせることに成功した。

映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

『パラサイト』が高く評価されたカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞といえば、是枝裕和監督『万引き家族』(18年)が記憶に新しい。『万引き家族』もまた日本で広がりつつある格差や家族崩壊といった問題を描いていたが、称賛される一方で「犯罪を助長する」「日本のイメージが悪くなる」といった批判にもさらされた。
では『パラサイト』はどうだろうか?

残酷すぎる格差社会をモチーフにしており、韓国内での声は様々だったが、「映画にとても共感できた」という声が多いようだ。

ある男性は「韓国社会にある階層間の葛藤は悲観的であるはずなのに、それをブラックコメディで見せてくれた。共存させるのではなく、あえて人間の体の中に入り込む“寄生虫”のように表現したポン・ジュノ監督の手腕はさすがだと思う」と絶賛。

「多くの人がこの社会でがむしゃらに生きている。だから、がむしゃらに金持ちのパク家にしがみつこうとするキム一家には共感できた」との声もあるほか、中には「韓国映画が世界中に認められたことを誇りに思う」と興奮気味に話す人も。

一方で、どんなに話題になろうとも、この映画を「見ない」と決めた韓国人もいる。
過去に半地下の部屋に住んだ経験のある女性は劇場に行く予定だったが、予告編を見てやめたという。それは決して楽しい経験ではなく、思い出したくない過去だったからだ。
ほかの観客が笑っている劇場内で、辛い気持ちになった人もいたことだろう。どんな生い立ちで、過去にどんな生活をしてきたかによって、評価や印象が大きく分かれるのも本作の特徴といえるのではないか。

映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

気づけば“映画大国”の韓国、日本との違いも―

それにしても人口5100万人の韓国で1000万人もの観客が劇場に足を運んだことに驚きを覚えるが、韓国では国を挙げて映画産業を支援し、盛り上げている。
映画人口も日本より多い。人口1億2600万人の日本は19年の観客数が1億9000万人(21世紀で最大数)。これに対して韓国は半数以下の人口5100万人にもかかわらず、観客数は2億人を超えているのだ。

2019年に1000万人超えした映画も韓国では『エクストリーム・ジョブ』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『アナと雪の女王2』『アラジン』『パラサイト』と5本もあるが、日本では『天気の子』のみ。韓国の映画市場のほうが日本よりも盛んなのは間違いない。

数年前まで“お一人様文化”がなかった韓国では、映画も友だちや家族、恋人と見に行くのが主流だった。ここ数年、お一人様も増えているが、それでもやはり2名以上で劇場に行くケースが多く席が埋まりやすい。
また、夏休みや秋夕(旧盆)、旧正月の直前に公開された映画はヒットしやすいといわれている。特に家族全員で安心して見られるコメディ映画は観客数を一気に伸ばす傾向にあり、1600万人もの観客を動員した韓国映画『エクストリーム・ジョブ』はその典型だ。
映画がヒットすると映画館もスクリーン数を減らさず、むしろ増やしている。上映回数が徐々に減っていく日本とは真逆といえる。

『パラサイト』の場合、公開は大型連休の時期でもなければ、家族で楽しめる娯楽映画とも違うが、注目度の高さからシネコンでは11ものスクリーンで上映されることもあった。日本ではあり得ない光景だが、こうなると観客に選択肢はなく、その作品を見るしかない。『パラサイト』は韓国での公開から53日目に観客数が1000万人を突破した。

韓国のシネコン「ロッテシネマ」。11ものスクリーンで『パラサイト』を上映を案内するボード

こうしたヒット作を生み出しやすい背景に加え、韓国映画には「映画館入場券統合電算網」というシステムがある。

⇒「映画館入場券統合電算網」を見る

全国の映画館のチケット発券情報をリアルタイムで集計するシステムで、韓国映画振興委員会(KOFIC)が運営している。
日本では残念ながらヒットした映画の情報ばかりが配給会社から公表されるが、韓国では大コケした映画についても年間ランキングや観客数、売上高にいたるまで過去にさかのぼって検索できる。映画そのものが身近な娯楽になっている韓国と比べると、日本は“映画後進国”と言わざるを得ない。

“映画大国”となった韓国で生まれた『パラサイト』の勢いは世界中に飛び火し、なんと各地で120もの賞を受賞。世界興行収入(韓国を除く)もすでに1億3000万ドル(約143億円)を超えている。

米国では昨年公開された外国映画の中で興行収入1位となり、あのオバマ前米国大統領もツイッターで「2019年のお気に入りの映画」に本作を挙げたほど。米HBOによるドラマ化の話も進んでいる。

自国の経済が失速しても、そんな社会さえも悲喜劇として描いた本作が世界中で空前の大ヒットを飛ばすという。なんとも皮肉な話だが、この『パラサイト』旋風はまだまだ収まりそうにない。

1月20日に米ロサンゼルスで行われた「第26回 全米映画俳優組合賞(SAG)」の授賞式では韓国映画として初めて最高賞にあたるアンサンブル賞まで受賞したのだ。

2月9日(現地時間)の「アカデミー賞」での作品賞や監督賞の受賞にも期待が高まっている。

▼『パラサイト』スチール・ギャラリー▼

映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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『パラサイト 半地下の家族』
英題:PARASITE(原題:寄生虫)
出演: ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』)
2019 年/韓国/132 分/PG-12/2.35:1

  • 児玉愛子

    (ライター)韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウォッチャー。新聞や韓国旅行サイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムも寄稿。

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