オバマ前大統領は映画プロデューサー アカデミー賞にノミネート!

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アメリカのトランプ大統領が相変わらずの大暴れをしているが、一方、前大統領のバラク・オバマは、ハリウッドで独自の影響力を発揮している。

オバマは好きな映画や本や曲などのベスト10を発表し、エンタメ業界に影響力を与えて来た。さらにミシェル・オバマ夫人と共同で映画製作会社を設立し、制作第1作目のドキュメンタリー映画が今年のアカデミー賞(日本時間2月10日午前~授賞式)で「長編ドキュメンタリー賞」にノミネートされたのだ。大統領からプロデューサーに”転身”した、オバマ前大統領のハリウッドでの活躍ぶりをアメリカ在住ライター、杏レラト氏がレポートする。

オバマ前米大統領夫妻 番組制作でネットフリックスと契約している  AFP/アフロ

2020年になって年明け早々開催されたのが、アカデミー賞の前哨戦と言われているゴールデン・グローブ賞だ。

その式典で、ミュージカル・コメディ部門のテレビドラマ作品賞に輝いたのが、『Fleabag フリーバッグ』(16〜現在)。その作品のクリエイターであり主演女優であるフィービー・ウォーラー=ブリッジは、受賞スピーチで「お気に入りリストに入れてくれたオバマに感謝します! 何人かは知っていると思うけれど、私はずっとオバマのことが気になっている。このジョークが分からない人は、今すぐシーズン1を見てください」と感謝を述べていた。

フィービー・ウォーラー・ブリッジが語った「リストに入れてくれた」とは、2019年の年の瀬に発表したバラク・オバマ前大統領の2019年お気に入りリストのことである。オバマ前大統領は、2012年ごろから毎年ではないものの10〜20作品のお気に入りの映画や本や曲などを発表し、大統領職を退いた後も続けてている。テレビシリーズ部門のリストを設けていなかったオバマ前大統領は、2019年の映画部門で「映画と同じくらいパワーフルなテレビシリーズ」として、『Fleabag フリーバッグ』を選んでいた。

このドラマの中に、フィービー・ウォーラー=ブリッジが演じた主人公が、恋人が横で寝ているベッドの中でオバマ前大統領のスピーチを見ながらの自慰行為が見つかりケンカになってしまう、という反響を呼んだシーンがあった。なので、オバマがこの作品を選んだことで、ドラマファンの人たちの間で「オバマはあのシーンを見て知っており、しかも気に入っている」とまた話題になったである。

このように、オバマ前大統領が発表するその年のお気に入りは、非常に影響力がある。前年度の2018年では、『ブラックパンサー』(18)や『ROMA/ローマ』(18)などの話題作だけでなく、第71回カンヌ国際映画祭で大賞となるパルムドールを受賞した日本映画『万引き家族』(18)や、韓国映画の『バーニング』(18)などの作品も入れたりと、趣味の幅広さを物語るものだった。

第77回ゴールデングローブ賞(2020)で勢揃いした『Fleabag フリーバッグ』のキャストと製作陣。フィービー・ウォーラー=ブリッジは右から3人目  写真:AFP/アフロ

そんなオバマ前大統領は、大統領職を退いた後、他の前大統領と同じく様々な慈善活動に従事していたが、映画製作会社「ハイヤー・グランド・プロダクションズ」を前ファーストレディであるミシェル・オバマと共に設立。それと同時に、ネットレンタル&配信の最大手Netflixと複数年に渡る独占配信契約を成立させた。

正式な契約金こそ発表されていないが、ミシェル・オバマが以前に自伝執筆の際に交わした契約金が6500万ドル(約65億円)だった。そして、以前にNetflixが『グレイズ・アナトミー』(05年〜現在)などで知られる人気テレビ番組クリエイターのションダ・ライムズと契約した時には、(各メディアによって報道された年数や金額が異なるが)大手メディアのヴァラエティ誌はおよそ5年で1億5000万ドル(約150億円)と報じたし、『アメリカン・ホラー・ストーリー』(11年〜現在)のライアン・マーフィは、5年で3億ドル(約300億円)だったと言われており、オバマ大統領の知名度と影響力を考えると、恐らくそれらに近い金額だったと推測されている。

そのようなNetflixからの大きな期待を背負ったハイヤー・グラウンド・プロダクションにとって初めての作品となったのが『アメリカン・ファクトリー』(19年)というドキュメンタリー作品だ。

アメリカ中西部に位置するオハイオ州の街は、かつてジェネラル・モーターズ社の工場があり活気があったが、80年代からの外国企業進出で米大手企業の衰退より工場閉鎖で廃れていた。その工場を買い取ったのが中国のフーヤオ社。今では地元のアメリカ人2000人を雇っている大きな工場を追うドキュメンタリーだ。2019年の1月に開催されたサンダンス映画祭にてワールドプレミア上映され、批評家からも観客からも好評を得た。批評家の評価を数値化したロッテン・トマトでは、現在(20年1月27日現在)97%と非常に高い評価を受けている。

そして『アメリカン・ファクトリー』が、第92回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされたことが発表された。これはオバマ夫妻のハイヤー・グラウンド・プロダクションズにとって第1作目となる作品であり、もちろん初のノミネートということになる。これはとてつもない快挙である。

『アメリカン・ファクトリー』のキャストとスタッフ。サンダンス映画祭(2019)にて  写真:Shutterstock/アフロ

今思えばオバマ前大統領は、以前から映画をよく語っており、映画への造詣が深いことが垣間見られた。

自伝『マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝』の中では、母がブラジルが舞台の名作『黒いオルフェ』(59年)が好きで、自分も影響を受けたと語っていた。

そしてオバマ前大統領とミシェル・オバマの初めてのデートを描いた映画『サウスサイドであなたと』(16年)では、スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年)を一緒に見たことを明らかにし、しかもその映画をオバマ前大統領が選んだおかげで、ミシェル・オバマのオバマ前大統領への印象が良くなったと後で語っている。そしてオバマ夫妻だけでなく、娘マリア・オバマは映画製作会社ワインスタイン・カンパニーでインターンとして製作/開発部にて、送られてくる脚本の選別などの仕事を、ワインスタイン・カンパニーの設立者ハーヴェイ・ワインスタインのセクシャルハラスメント疑惑事件発覚前までしていた。このようにオバマ前大統領が映画界に進むのは、当然のことのように思える。

そして、現在ハイヤー・グラウンド・プロダクションズは、他に4作品の製作が発表されている。その中には、ミシェル・オバマが以前から熱を入れていた「野菜を食べようキャンペーン」を象徴するかのような『Listen To Your Vegetables & Eat Your Parents』(公開未定)や、大統領現職のドナルド・トランプの間違いを指摘する作品『The Fifth Risk』(公開未定)などが控えている。通常の慈善活動以外でも、映画という世界で政治には関わっていくようだ。

2007年にアメリカ大統領選に出馬することを発表し、彗星のごとく現われ、そして「イエス、ウィ・キャン」の呼び声で大統領にまで登りつめたバラク・オバマ前大統領。今回の映画界への進出も、なぜだかあの大統領選の時を思い出させる。初のオスカーも「イエス、ウィ・キャン」となるか、2月9日(現地時間、日本時間2020年2月10日)、しっかりと見守りたい。

  • 杏レラト

    (あんずれらと)アメリカ南部在住。雑誌「映画秘宝」(洋泉社)、「ユリイカ スパイク・リー特集」(青土社)、「ネットフリックス大解剖」(DU BOOKS)などに執筆。著書に『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)。

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