未来の日本代表SH 齋藤直人がサンウルブズで掴み取るもの

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齋藤直人は主将として早稲田大を率い、明治大に勝利し、大学日本一に輝いた(写真:アフロ)

早大ラグビー部の主将として11年ぶり16度目の大学日本一に輝いた齋藤直人は、国際リーグのスーパーラグビーに初挑戦する。昨季まで日本代表と連携してきたサンウルブズに入り、過去にも指導を受けた沢木敬介コーチングコーディネーターらと航海に出る。

身長165センチ、体重73キロ。攻めの起点となるスクラムハーフとゴールキッカーを務め、2018年には当時の学生で唯一の日本代表候補となった。

「運動量はありますよね、スクラムハーフとしての。あとは速いテンポが作れる。そのテンポを自分でコントロールできるかというところ、キックなどの細かいスキルはまだまだ学ばなきゃいけないですけど、間違いなくいい選手ではあります」

沢木が齋藤をこう評したのは、2018年春のことだ。当時は国内トップリーグのサントリーで指揮官を務め、練習に体験参加した齋藤と邂逅。ワールドカップイングランド大会の日本代表にも携わった沢木は、齋藤に可能性を見出した。

沢木は結局、そのシーズン限りでサントリーの監督を辞任する。齋藤にとっては、もしサントリーへ入社しても沢木の指導が受けられなくなった格好だ。

しかし、その報告の仕方が味わい深かった。

沢木は、チームの採用担当である宮本啓希へ齋藤への伝言を託した。その内容からは、捉えようによっては発信者の強烈な向上心が垣間見えるのだ。

「俺はサントリーの監督を辞めるけど、お前は、俺が、ジャパンにする」

齋藤は、宮本から聞いた沢木の伝言の意味を分かりかねていたようだった。指導の現場を離れながら自分を日本代表に入れるとは、いったい、どういうことなのだろう。

一方、沢木の内なる野望をよく想像できる宮本は、やや困惑していた。いったい、なぜこんなデリケートなメッセージを自らの口で伝えないのだろう。

ただ、宮本には確信もあった。もしも齋藤が沢木の言葉の真意を想像できたとしても、決してその立場に胡坐をかいたり、すべき取り組みを怠ったりすることは決してないだろう。齋藤が日々の居残り練習を欠かさない努力家であることを、宮本は知っていた。

電話を通し、関西弁で念を押した。

「確かに敬介さんはそういう風に言っているけど、それとは関係なく直人が何をせなあかんかはわかるよな?」

齋藤はその後も、もとの齋藤のままだった。

週に1度のペースで練習計画をブラッシュアップし、ノートにまとめる。個人練習では、試合でよく起こる状況下のプレーを丹念に繰り返した。

一時は腰の怪我に悩まされたが、トレーナーに身体を触ってもらいながらセルフケアの方法を編み出す。患部をカバーすべく腹などの筋肉を鍛え、「姿勢がよくなった気がする」という。転んでもただでは起きない。

齋藤直人のパスワークには定評があり、2018年の日本代表候補にも名前が挙がっていた(写真:つのだよしお/アフロ)

ワールドカップの大一番があった9月28日の夕方も、ジムで身体を鍛えていた。「練習を切り上げて試合を観るくらいなら、自分の成長を優先しよう」。日本代表が強豪のアイルランド代表を下したそのゲームは、録画でチェックした。

「フハハハハ! それはまぁ…別にそんな、あれですよ」

沢木が発言の真意を問われたのは、ワールドカップの開幕直前期。退社までのカウントダウンが始まっていたであろうサントリーのオフィスで、こう、言葉を選んでいた。

「(自分が)ジャパンにするって言うよりも、なりますよ、あいつは。で、僕もどこかでコーチングはやっていくと思うので、代表を選べるような位置にいるなら、選ぶ、っていう話です」

時は流れ、沢木はサンウルブズで齋藤を育てることとなった。仮にあの発言の意図とは形は違ったとしても、自分が見込んだ選手を「ジャパンにする」ために働くのは確かだ。

学生シーズンを最高の形で終えた齋藤は、大学のテストがすべて終わる前の1月17日にすでに練習へ合流。「ただでさえ出遅れているんだから…」と漏らす。1月上旬始動のチームへ、少しでも早くなじみたい。

2016年発足のサンウルブズがスーパーラグビーに挑めるのは、現状では今年限り。2019年3月時点でのサンザーの意向と日本協会前執行部の姿勢からこの決定となった。

さらに自国でのワールドカップを終えたばかりの日本ラグビー界は、国内最高峰のトップリーグを2020年1月に開始させたが、そのシーズンのほとんどはスーパーラグビーの時期と重なる。

トップリーグ参加企業や複数選手の意向もあり、サンウルブズが正式契約する30名中25名は新加入。そのうちの多くが今回初来日の外国人選手で、練習生に日本の大学生が並ぶ。

景気のよい話が限られるなか、1月25日のプレシーズンマッチと2月1日の開幕を見据えるのがいまのサンウルブズなのだ。

ただし視点を変えれば、この状況はポジティブにも映る。

いかなる時でもすべきことを変えない齋藤が、いかなる時でも選手に妥協させない沢木が、結果への責任を問われにくい中で、あえて結果を求めるのである。思い切り挑める。

沢木が齋藤を「ジャパンにする」までの、あるいは齋藤自身が自分でジャパンになるまでの物語は、ここからが面白い。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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