福岡発 ゴルフコンペに参加予定のOLがバラバラ死体で発見の謎

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第40回

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ゴルフコンペに参加予定だった女性会社員が突如行方不明になった。やがて福岡県福岡市の能古島でバラバラ死体となって発見される。ノンフィクションライター小野一光氏は、被害女性の同僚から彼女の交友関係や素顔を聞き出す。しかし、その後捜査は行き詰まり……。

A子さんの遺体が発見された能古島。博多湾に浮かぶ小島で、フェリーなら10分の距離

2010年3月15日、福岡県福岡市の能古島の浜辺で、女性のものだと思われる、ヘソの下から足の付け根までの胴体部分が発見された。やがて間もなく、その遺体は同市の会社員・A子さん(死亡時32)のものだと判明する。福岡県警担当記者は言う。

「発見された遺体は、切断面の状態から死後に鋭利な刃物とノコギリで切断されたと見られています。また、切断面がきれいなため、切断に使用したのは刃こぼれしたものではなく、購入されて間もないものだと考えられています」

A子さんは同月5日の午後7時頃、福岡県筑紫野市にある勤務先を退社して以降、行方がわからなくなっていた。A子さんの同僚は説明する。

「A子さんは6日に、同じ会社の社員や取引先とのゴルフコンペに参加する予定でした。彼女は新入社員時代のトレーナー(指導社員)だったBさん(当時42)と一緒に回ることになっていましたが、集合場所に姿を見せず、電話にも出ないため、彼が自宅アパートを訪ねています。しかし、玄関が施錠されていて返事もないため、Bさんは遅れてコンペに参加し、後ろの組でプレーしていました」

コンペ後にもA子さんとは連絡がつかず、彼女の家族がまず6日に問い合わせを行い、続いて不審に思った会社の同僚が7日の朝に福岡県警博多署に届け出たことで、A子さんの自宅アパートなどへの捜査が始まっていた。前出の県警担当記者は明かす。

「風呂場の扉ガラスとベランダの窓ガラスの一部が割れていたことを除けば、室内は目立って荒らされておらず、現金やクレジットカードなどの金品が盗まれた形跡はなかったそうです。また、彼女の通勤用のマイカーは駐車場に残されており、車の鍵や現金入りの財布、仕事用の携帯は室内に残されていて、私用の携帯だけがなくなっていました。遺体の一部がA子さんだと判明後も、彼女が住むアパートの室内には鑑識が入っていますが、とくに血痕や尿の付着は確認されていません」

A子さんの行方がわからなくなる2~3日前の深夜には、彼女が住むアパートの入口や通路で男女が争っていて、男が「恐れるものがないくらい好きだ」や「お前を殺すこともできる」との言葉を発しているのを、近所の住人が聞いていた。また、6日の午前2時過ぎには、A子さんの住むアパートの2階から、男が足元がふらふらになった女性(*A子さんかどうかは不明)を連れ出して、路上に停めた車に乗せている姿も目撃されている。

この事件の取材では、先のコメントにあるように、私はA子さんの会社の同僚に話を聞いている。件の同僚は彼女の交遊関係について次のように語る。

「以前、A子さんと飲んだときに、社内で年上の男性と交際し、相手の転勤を機に向こうから別れを切り出されたと彼女から聞いたことがあります。A子さんは相手を『先輩』と呼んでいて、別れてしばらく経っていたはずですが、いまだに好きで好きでたまらないといった感じでした。また、別れたときには社内で人目もはばからずに泣いている姿が目撃されています」

この同僚によれば、職場でのA子さんは「頼れる姉御」といったタイプで、年上からは可愛がられ、年下からは慕われる「理想の営業ウーマン」だったという。仕事熱心で真面目なうえに、慎重な性格であることから、見知らぬ相手を部屋に入れることは絶対に考えられないと話す。

「それこそ、たとえ同僚であっても、相手が男性であれば部屋に上げるどころか、玄関に入れることすら考えられません。ましてやそれが深夜だったとすれば、特別に親しい相手だったか、無理やり押し入られるかしない限りはありえない」

こうした同僚の発言にもある通り、福岡県警はかなり早い段階からA子さんの交遊関係を中心に、過去の交際相手への事情聴取を行っている。また同様に、彼女の周辺で起きていた問題についての捜査も実施していた。

じつはA子さんは、09年11月に交通事故を起こした相手とトラブルになっており、そのことを自身のSNSに記していた。以下一部を抜粋する。

〈実は先月、会社からの帰りに交差点内で私は直進で、相手は右折対向でバイクと事故をしました。(中略)第三者機関の公平な判断割合も私が15%で向こうが85%(の過失)。相手の方は任意保険に入ってないらしく、バイクの修理を全部私の方の保険で負担して欲しいと言う相手の方と私の保険会社とは当然話が折り合わず、しまいには私の家まで行くと言い出したそうなので、弁護士を立てました。(中略)今週の月曜に家の門前にチャリで本人らしき人がうろついてるのを見たから、月曜はいろんな人を巻き込んで帰りが遅くなってしまい、その後もかなり警戒して帰ってきてます。(中略)マジで疲れてます〉

事故相手のCさんはA子さんと同じ32歳(当時)で、彼もすでに事情聴取を受けていた。ただし、遺体を運搬する際に不可欠な車を所有しておらず、レンタカーや友人からの貸与についての捜査を実施した結果、事件に関与した疑いは低いと考えられていた。

A子さんの自宅の割られた窓ガラス。ガラスの破片などから内側から割られたことがわかっている

やがて4月9日から15日にかけて、福岡市の海上でゴミ袋に入ったA子さんの両腕に続き、胴体、頭部が次々と発見された。

その直後、事件が一気に解決に向かうかと思わせる出来事も起きている。A子さんの時計を質入れしていた福岡市在住の30代の男が、4月28日に別の窃盗容疑で逮捕されたのだ。前出の記者は振り返る。

「当初は事件への関与を疑われたのですが、『パソコンを質入れしようとした際に、(時計を質入れしたのとは)別の質店の前で拾った』という証言をしており、その証言に矛盾がなく、A子さんとの接点もないことから、事件とは関係ないとの結論が出されました」

以降、福岡県警は10年12月15日から1年間の期限を設け、懸賞金300万円(上限額)をかけた情報提供の呼びかけを始めた。つまりはそれほど捜査が手詰まりだったということだ。この「公費懸賞金制度」の対象には1年後の11年12月にも再指定されたが、翌12年12月に再指定されることはなかった。

その後、14年2月に交通事故の相手だったCが、A子さんとの交通事故の示談書1通を偽造したとして、有印私文書偽造・行使の疑いで逮捕された。この際もCの自宅が家宅捜索を受けているが、それ以上の目立った動きはなく、いまだに”未解決事件”として、解決が待たれている。

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか。最新刊は『震災風俗嬢』(集英社文庫)

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