トップリーグ神戸製鋼対サントリーで見えた日本ラグビーの未来
神戸製鋼ラグビー部にあって、生来の愛嬌で報道陣を和ませたのは中島イシレリだ。
ファン対応のあった橋本大輝ゲームキャプテンに代わり、試合後の公式会見へ出席した。日本代表でも一緒だったチームメイトの山中亮平、デイブ・ディロンヘッドコーチより一足先に入室し、記者の1人に「監督になったつもりで試合の総括を」と水を向けられ、表情を崩した。
「いい試合でした。今日はみんな、頑張りました」
金髪と隆起した肉体がダウンタウンの松本人志さん似と話題のトンガ出身プロップは、流通経済大学卒業で、日本人の妻を持つ。日本語も流暢だ。
続けて「マン・オブ・ザ・マッチを取った中島選手への評価は、10点中何点?」と問われれば、「それは彼に聞いてください」。目じりにしわを作り、髪と同じ色の歯を見せるのだ。
「…何だ、これ」
1月25日、兵庫県のノエビアスタジアム神戸で国内トップリーグ第3節があった。赤いジャージィの神戸製鋼は、昨季のプレーオフ決勝で55-5と下したサントリーを35-29で撃破。開幕3連勝を決める。
昨秋のワールドカップ日本大会で日本代表が8強入りした影響からか、この日の公式入場者数は26312人。中島も「(スタンドが)上まで埋まっているのは初めて見た」と驚く。日本代表のメンバーが両軍合わせて7人も出ており、「にわか」と自嘲するファンにも注目された。
日本代表スクラムハーフでサントリー所属の流大も、いつもの誠実な口ぶりで謝辞を述べる。
「お客さんが素晴らしい空気を作り出してくれて。神戸製鋼のファンの方からもサントリーのプレーを称賛するような声が聞こえました。神戸製鋼、サントリーのファンに感謝いたします」
試合内容は、長年のひいき筋にとっても見応えがあったろう。
構図上は挑戦者に映るサントリーがボールキープを重視する一方、神戸製鋼は時折あったキック捕球後のカウンター、ミスボールを確保した後の即興的な攻めで着実に加点した。
ハイライトは後半16分にあった。
一時退場者を出していた神戸製鋼は、自陣の深い位置で防戦一方のなか接点に人数を割かずしぶとく防御ラインを敷く。攻め続けるサントリーがボールを落とした瞬間、元トンガ代表ウイングのアンダーソン フレイザーが走る。
グラウンド中盤までフェーズが重なると、ニュージーランド代表112キャップのスタンドオフ、ダン・カーターが光る。それまでパスとキックパスを多用していたが、ここでは鮮やかなステップでサントリーの守備を切り裂いた。
敵陣中盤で球をつなぐなかでは、日本代表アウトサイドセンターのラファエレ ティモシーがキャッチと同時に自分の背後へノールックパスを通す。
元日本代表スクラムハーフの日和佐篤、ニュージーランド代表81キャップを誇るロックのブロディ・レタリック(身長204センチ!)が前進する。
敵陣22メートルエリアでも着実にフェーズを重ね、最後はインサイドセンターのリチャード・バックマンがフィニッシュ。直後のゴール成功などでスコアを32―16とし、白星にぐっと近づいた。

サントリーの主将として逆転を狙っていた流は、潔かった。
「1人少ないので『ボールを持ち続ける』『我慢比べ』とメッセージとしてチームに伝えたんですけど、相手も14人になったことでいい態度で固まってディフェンスをしてきた。我慢比べに負けたなという感じです」
前回のワールドカップの余韻が冷めやらぬなか、戦士たちは次回のワールドカップへも動き出している。
この日は、一時来日中であるジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチが視察していた。
往路の新幹線で指揮官に会ったという代表選手もいたなか、日本大会で5トライの松島幸太朗は、サントリーのフルバックとして「どうせ僕に圧力が来る。周りの選手を活かすことを意識してやりました」。今後は、もっと防御の薄いエリアでボールをもらえるよう立ち位置を改善したいという。
神戸製鋼のラファエレは、妙技と激しいタックルを披露して殊勝に語った。
「まず神戸でいいプレーする。そうしたら、また代表でもチャンスがある」
さらに興味深いのは、これから代表入りを目指す面子も十分な存在感を示していたことだ。
サントリーの新人ナンバーエイトであるテビタ・タタフは、持ち前の突進力に加え、中島を正面から食い止めるタックルでも際立つ。2016年以来の代表復帰へアピールする。
対する神戸製鋼でナンバーエイトを張るタウムア・ナエアタは、持ち前のパワーにフットワークを混ぜ合わせて走り、相手ボールの接点へタフに身体を差し込む。鮮やかでありながら渋かった。
両者に共通するのは、中島のように日本の大学を出ていること、現所属先での過ごし方がよくて運動量が上がっていることだ。ナエアタには20歳以下トンガ選出経験があるため、日本代表入りへは資格取得が可能かの確認が必要。ただ、当の本人は前向きだ。
「日本代表には、入りたいです。次のテストマッチ(代表戦)には出られるように頑張りたいです」
現在のブームはラグビーブームでもあり日本代表ブームでもあるため、代表選手の出ていない試合、小規模会場での試合の観客数は4桁台とやや寂しい。
競技そのものを楽しむ愛好家を増やすには周知活動も求められそうだ。神戸製鋼のフルバックとして好ランを披露した山中は言う。
「選手は、観て面白いラグビーをするために頑張るしかない。それをやり続けることによって、もっとラグビーは盛り上がる」
この思いを行動で表したのが、ノエビアスタジアムに立った46人だった。
取材・文:向風見也
スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある